概要
費用対効果評価(HTA)の取扱いを定めた通知が改正されました(令和8年2月13日 産情発0213第3号、保発0213第7号)。医薬品と再生医療等製品は令和8年4月1日以降、医療機器は令和8年6月1日以降の指定品目から新ルールが適用されます。令和6年通知(旧通知)は令和8年3月31日で廃止されますが、医療機器のうち令和8年5月31日以前に指定された品目は従前の例によることもできます。対象になり得る品目を持つ製造販売業者は、指定基準・分析期限・価格調整の流れを早めに把握しておく必要があります。

1. 背景と目的
1.1 費用対効果評価とは
費用対効果評価は、保険適用された医薬品・医療機器・再生医療等製品について、増分費用効果比(ICER)などを用いて価格調整を行う制度です。ICERは、比較対照技術に対して1単位の効果(QALY=質調整生存年)を追加で得るために必要な費用を示します。この値が高いほど費用対効果が低いと判断され、価格の引下げ方向で調整されます。逆に効果が増えて費用が減るドミナントなどは、引上げの対象になり得ます。
1.2 今回の改正の位置づけ
今回の改正は、令和8年度の診療報酬・薬価改定に合わせたものです。分析に用いる指針も「分析ガイドライン第5版」(令和8年1月16日中医協総会了承)へ更新されました。指定基準は「薬価算定の基準について」「特定保険医療材料の保険償還価格算定の基準について」の各改正通知と連動しています。制度全体の枠組みは維持しつつ、区分や配慮の仕組みが整理された形です。
2. 主要要件と事例
2.1 対象品目の指定区分(H1〜H5)
対象品目は中央社会保険医療協議会(中医協)総会が指定します。区分は次のとおりです。
H1 平成31年4月以降に保険適用、有用性系加算・原価計算方式(開示度50%未満)等に該当し、
ピーク時予測売上高100億円以上
H2 上記に該当し、ピーク時予測売上高50億円以上100億円未満(評価候補品目)
H3 著しく高額、分析枠組み決定後の効能追加、重要な新知見が得られたもの等
H4 平成31年3月以前に保険適用、年間販売額1,000億円以上等
H5 代表品目(H1〜H4)の類似品・同一機能区分品(分析せず代表品目に準じ価格調整)
売上規模と加算の種類が主な指定要件です。難病・血友病治療薬・抗HIV薬など治療方法が十分に存在しない品目や、小児のみに用いる品目は原則対象外です。ただし年間販売額350億円以上や著しく高額な品目などは、準ずる区分として指定され得ます。H5区分は代表品目の価格調整に準じて調整するため、単独の分析は行いません。
2.2 分析と公的分析の二段構え
指定後の流れは、製造販売業者による分析と、国立保健医療科学院・公的分析班による公的分析の二段構えです。まず分析前協議で分析対象集団・比較対照技術・分析枠組みを固めます。製造販売業者は指定日から原則270日以内に、ICERを含む分析データ等を提出します。公的分析はこれを受理してから原則90日以内(再分析を行う場合や根拠データに基づく公的分析の場合は180日以内)にレビュー・再分析結果を提出します。公的分析の中立性を守るため、業者から公的分析班への金品等の供与は禁止されています。
2.3 費用対効果評価専門組織の審議
費用対効果評価専門組織が、分析枠組みの決定、分析データ等と公的分析レビューの審査、費用対効果評価案の策定を行います。各段階で製造販売業者は意見表明でき、通知内容に不服がある場合は1回に限り不服意見書(別紙様式2)を提出できます。人員不足等で分析ができないときは分析不能理由書(別紙様式1)を提出でき、公的分析への切替えや評価中止の判断につながります。策定された評価案は中医協総会へ報告され、最終決定と価格調整が行われます。
3. 実務対応
3.1 指定を見越したデータ準備
270日という分析期限は短く、分析枠組みが決まってからの着手では間に合いません。売上規模が指定基準に近い品目は、保険適用の段階で費用対効果分析の体制と外部委託先を確保しておくことが実務上重要です。ガイドライン第5版に沿った分析計画を先行して検討しておきます。提出が遅れた場合は理由を付す必要があり、専門組織がその妥当性を検証します。
3.2 秘密保持と公表ルール
中医協総会の決定までは、協議・手続の内容と分析データ等を公表できません。社内外の情報管理を徹底する必要があります。評価終了後は、分析対象集団ごとのICER区分と患者割合が公表されます。ICER区分は200万円/QALY未満から1,000万円/QALY以上まで段階が設けられ、総合的評価で配慮が必要とされた場合は上限が緩和されます。ドミナント等で価格引上げが行われる場合はその旨も公表されます。
3.3 分析中断・評価中止時の価格調整
分析不能や協力が得られないことを理由に評価中止となった場合でも、薬価算定・材料価格算定の基準に基づく価格調整は行われます。一方、業者からの分析不能の申出で評価中止となった場合も同様に価格調整の対象です。中断・中止を選ぶ場合の価格影響を事前に見積もっておくことが望まれます。分析中断となった品目は、定められた期間にデータを集積し、再開の可否を改めて判断します。
まとめ
今回の費用対効果評価(HTA)制度の改正により、医療機器は令和8年6月1日以降に指定される品目から新ルールが適用されます。対象品目の指定基準や270日以内の分析提出、公的分析、価格調整など、製造販売業者に求められる対応は多岐にわたります。対象となる可能性がある品目をお持ちの場合は、保険適用前から分析体制や必要データの準備を進めることが重要です。
また、費用対効果評価は、分析計画の策定やICERの算出、比較対照技術の選定、提出資料の作成など、高度な専門知識が求められる制度です。対応が遅れると、その後のスケジュールや価格調整にも影響を及ぼす可能性があるため、制度内容を正しく理解した上で計画的に進めることが重要です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、医療機器の薬事戦略から承認・認証申請、保険収載、費用対効果評価(HTA)を見据えた実務対応まで幅広く支援しています。 HTA制度への対応方法や対象品目の判断、分析体制の構築などでお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。貴社の状況に応じた最適な対応方法をご提案いたします。