概要
令和8年1月30日、厚生労働省医薬局医療機器審査管理課から事務連絡が発出されました。同日付の医薬機審発0130第1号通知(原材料変更手続の全部改正)の運用を補足するQ&A、計24問が示された内容です。対象は医療機器の製造販売業者と登録認証機関であり、軽微変更届で済む範囲、申請書での原材料特定方法、低リスク事例の解釈が明確化されました。サプライチェーンの変動に迅速対応できる体制づくりを後押しする内容で、原材料切替えや供給者変更を抱える事業者は今すぐ既存品の申請書記載と社内手順を見直す必要があります。

1. 背景と目的
1.1 旧通知の全部改正
旧通知は平成25年3月29日付け薬食機発0329第7号です。国際的なサプライチェーンの予見可能性が低下し、原材料製造元の都合による急な変更が増えました。本邦への製品供給遅延を避けるため、軽微変更届の範囲を明確化する全部改正となりました。旧通知の内容も包含しているため、本通知発出と同時に旧通知は廃止されています。
1.2 対象となる原材料の範囲
本通知が適用されるのは、血液・体液・粘膜などに接触する原材料です。非接液材料や、検体検査装置のように採取検体が人体に戻らない機器の原材料には適用されません。これらは従来どおり、申請書上も簡潔な記載や空欄で差し支えなく、変更時の薬事手続も原則として発生しません。
1.3 「変更」だけでなく「追加」も対象
通知本文は「原材料の変更」と書かれていますが、Q3で原材料の追加も対象に含まれることが明示されました。ただし使い分けによる用途拡大が生じないことが条件で、新たな効能や使用方法を意図する追加は対象外です。
2. 主要要件と代表事例
2.1 軽微変更で済むケース
「本質的な品質、有効性及び安全性に影響を与えない原材料の変更」がキーワードです。Q4では、供給停止やコストダウン目的の代替品対応、サイズ識別のための着色剤の変更などが例示されました。使用前例のない原材料への変更でも、低リスク事例に該当せず、自社で品質・安全性・有効性を検証していれば軽微変更の対象になります(Q5)。判断に迷う場合は、承認品は簡易相談、認証品は登録認証機関への相談を検討します。
2.2 原材料が同一で規格表現のみ変える場合
原材料自体が同一で、規格の規定方法・表現だけを直す場合は軽微変更で対応可能です(Q6)。この場合、変更前後で原材料が同一である旨を確認した陳述書を作成して添付します。一部変更承認や認証申請で原材料規格を変える際にも、この陳述書を添付することが望ましいとされました。
2.3 供給者名・原材料名の変更は手続不要
原材料自体が同一で、供給者の名称や原材料名のみが変わる場合は薬事手続が不要です(Q7)。旧通知発出時に整理された解釈が引き継がれました。次回の薬事手続の機会に申請書へ反映し、変更履歴は社内文書に記録します。ただし名称変更と一緒に仕様が変わる場合は手続が発生するため、供給者から仕様情報を必ず入手してください。
2.4 申請書上の原材料特定方法
Q8では原材料特定の記載方法が整理されました。A.一般名または通称、B.化学情報、C.原材料製造者からの情報、D.公的規格名と番号の4要素から、複数を組み合わせて特定します。一般名のみで記載する場合は、原材料欄に省略理由を付記します(Q9)。一般名記載に改める変更や、新規申請時に一般名記載とすることも軽微変更や通常申請で実施可能です(Q11、Q12)。
3. 実務対応とリスク管理
3.1 軽微変更届の書き方
軽微変更届の備考欄には、変更目的、リスクが低いと判断した根拠(社内検証試験、使用前例など)、適用する通知や事務連絡の該当事項を記載します(Q13)。冒頭に「令和8年1月30日付け医薬機審発0130第1号通知に基づく原材料の変更」と明記することが求められます。
3.2 自己宣言書の添付
軽微変更届には自己宣言書を添付します(Q14)。設計検証と安全性評価を実施し、品質・有効性・安全性に問題がなかったことを示す文書です。新たな試験を実施した場合だけでなく、既存データに基づく評価のみで結論を得た場合も含みます。生物学的安全性評価はJIS T0993-1またはISO 10993-1に基づく内容を記載します。
3.3 化学的キャラクタリゼーションの扱い
化学的キャラクタリゼーションを用いた毒性学的リスク評価で生物学的安全性試験を省略する場合は、ISO 10993シリーズで化学分析手法の汎用化が規定されるまでの間、医療機器生物学的安全性評価総合相談を活用します(Q15)。相談結果次第では、本通知の適用が認められない場合もあります。
3.4 「低リスクの事例に限定される原材料」の境界
植込み型医療機器(クラス分類ルール8該当)の体内植込み部品や、長期的接触(ISO 10993-1のlong-term contact)の原材料は低リスク事例から除外されます(Q16、Q17)。生物由来原材料を含む機器でも、生物由来以外の部分は低リスク事例に該当しません(Q19)。ただし生物由来原材料でも、ゼラチンの包装変更のように中身が完全に同一と書面で確認できれば「リスクが低いことが明らか」として扱えます(Q20)。シリコーン油やPTFEのような一般的潤滑剤は「高度潤滑性コート」に該当しません(Q21)。
3.5 使用前例の活用範囲
使用前例として参照できるのは、米国に加え欧州、カナダ、オーストラリア、英国です(Q23)。いずれもGHTF参加国であることが根拠です。十分な臨床使用実績の目安は、回収報告や重大有害事象の発生状況から生物学的安全性を評価できる使用数量です。数台や数症例レベルは該当しません(Q24)。配合量や添加剤成分が同一でなくても、新たな試験を要さずに生物学的安全性の同等性が説明できれば使用前例の参照が可能です(Q22)。
まとめ
今回のQ&Aにより、医療機器の原材料変更における軽微変更届の適用範囲や自己宣言書の考え方、申請書の原材料記載方法など、実務上の判断基準がより明確になりました。しかし、実際には「この変更は軽微変更届で対応できるのか」「一部変更承認申請が必要ではないか」「使用前例として認められるか」といった判断は、製品の構造や使用目的、接触部位、リスク評価によって異なるため、個別の検討が欠かせません。
特に、原材料の切替えや供給者変更、一般名記載への変更、自己宣言書の作成、生物学的安全性評価(ISO 10993シリーズ)などは、判断を誤ると承認・認証手続やQMS運用に影響を及ぼす可能性があります。サプライチェーンの変化が続く中、製品の安定供給を維持するためにも、通知やQ&Aの内容を踏まえた適切な社内ルールの整備が重要です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、医療機器の原材料変更に関する薬事該当性の判断、一部変更承認申請・軽微変更届の対応可否の検討、自己宣言書や申請資料の作成支援、PMDA相談・登録認証機関対応など様々なサポートをしております。 原材料変更や供給者変更への対応でお困りの際や、手続の要否に迷われた際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。