概要
厚生労働省医薬局医薬安全対策課は令和8年1月6日付で「医薬安発0106第1号」を発出し、ヒドロキシカルバミドを服用している患者の検体で酵素電極法による血糖測定が偽高値を示す可能性があると注意喚起しました。対象は酵素電極法を採用するグルコースモニタシステム、自己検査用グルコース測定器、グルコース分析装置、自己検査用グルコースキット、血液検査用グルコースキット等です。
事業者がやるべきことは3つあります。第一に、自社製品が影響を受けるかを確認すること。第二に、影響がある場合は添付文書を改訂し、医療機関等へ情報提供すること。第三に、PMDA医療機器安全対策課へ別紙様式・電子メールで報告することです。報告期限は令和8年2月6日。改訂が間に合わない場合でも、検討状況を期限内に報告しなければなりません。

1. 背景と目的
1.1 ヒドロキシカルバミド側で先行した注意喚起
ヒドロキシカルバミドは慢性骨髄性白血病や本態性血小板血症などの治療に用いられる抗悪性腫瘍剤です。今般、ヒドロキシカルバミド製剤側の添付文書において、本剤服用中はグルコース値が実際よりも高く測定される可能性があるとの注意喚起が追加されました。
医薬品側の対応が先行し、その後を追う形で医療機器・体外診断用医薬品側にも同等の注意喚起を求めるのが、今回の通知の構図です。製品評価の責任は製造販売業者にありますが、規制当局側で並行整備を促す典型的な安全対策の流れと位置付けられます。
1.2 偽高値が招く臨床リスク
血糖測定結果は、糖尿病患者のインスリン投与量を判断する根拠として広く使われます。実際の血糖値より高い数値が表示されると、医療従事者や患者本人は「必要量より多いインスリン」を投与する判断に傾きます。結果として低血糖を引き起こす危険があります。
低血糖は意識障害や昏睡につながる重篤な事象です。測定値が数値として正しく見えてしまうため、ヒューマンエラーで気付くことは困難。添付文書による事前の注意喚起が、唯一に近い防御策となります。
1.3 通知の目的
本通知の目的は、酵素電極法を用いる血糖測定機器等の添付文書に、ヒドロキシカルバミドが偽高値の原因となり得る旨を明記させることです。対象は酵素電極法に限定されている点が重要です。電極を介してグルコース酸化還元反応を電気化学的に検出する原理上、ヒドロキシカルバミドが電極反応に干渉し得るためです。比色法など別原理の製品は本通知の直接的な対象ではありませんが、自社製品の測定原理を改めて確認することが望まれます。
2. 主要要件と事例
2.1 製品への影響確認
まず、自社が製造販売する酵素電極法を用いた血糖測定機器・体外診断用医薬品について、ヒドロキシカルバミドを服用した測定対象者またはその検体に使用した場合に、測定結果が影響を受ける可能性があるかを確認します。確認は社内データ、文献、原理に基づく評価などを組み合わせて行います。
2.2 医療機器の添付文書記載事項
医療機器に分類される血糖測定機器の場合、影響がある製品は「使用上の注意」のうち「相互作用(他の医薬品・医療機器等との併用に関すること)」内の「併用注意」の項に、以下の趣旨で記載します。
- 医薬品の名称: ヒドロキシカルバミド
- 臨床症状・措置方法: 実際のグルコース濃度より高い測定値が示され、この測定結果をインスリン投与量の判断に利用している場合、低血糖となる可能性がある
- 機序・危険因子: ヒドロキシカルバミドを服用している場合、偽高値を示すことがある
2.3 体外診断用医薬品の添付文書記載事項
体外診断用医薬品(IVD)に分類される製品は、記載すべき項目が異なります。「操作上の注意」の「妨害物質・妨害薬剤」の項に、ヒドロキシカルバミドを服用中の患者の検体において偽高値を示す可能性があり、インスリン投与量の判断に利用される場合は低血糖となる可能性がある旨を記載します。
医療機器側は「相互作用」、IVD側は「妨害物質・妨害薬剤」と、製品区分により記載項目名が変わる点を取り違えないようにします。
2.4 記載の柔軟性と省略可能事項
通知は「品目の使用実態によっては、必ずしも同一である必要はない」と記載の柔軟性を認めています。同等の内容が既に添付文書に書かれている場合は、改めて記載箇所を移動させる必要はありません。また、測定結果をインスリン投与量の判断に利用しない使用実態の品目では、インスリン関連の記述を省略することも可能です。
該当する代表例は、グルコースモニタシステム、自己検査用グルコース測定器、グルコース分析装置、自己検査用グルコースキット、血液検査用グルコースキットです。家庭で患者本人が使うSMBG(血糖自己測定)機器、医療機関の検査室で使う臨床化学分析装置のグルコース測定試薬など、酵素電極法を採用する幅広い製品が対象に含まれます。
3. 実務対応と罰則
3.1 自主点検と改訂のフロー
事業者の対応は、点検→改訂→情報提供→報告の流れです。
- 自社品目のうち酵素電極法を用いる血糖測定機器等を洗い出す
- 各品目でヒドロキシカルバミドの影響可能性を評価する
- 影響あり、かつ既存添付文書に同等記載がない品目について、添付文書を改訂する
- 医療機関等に対し必要な情報提供を行う
- PMDA医療機器安全対策・基準部医療機器安全対策課へ別紙様式・電子メールで報告する
報告先メールアドレスは md-chousakekka@pmda.go.jp。報告は影響あり・なしを問わず、酵素電極法を用いる全品目について行うことが求められます。
3.2 報告期限と未完了時の取扱い
報告期限は令和8年2月6日。通知発出(令和8年1月6日)から約1か月という短い期間です。
期限までに改訂作業が完了しない場合でも、その時点での検討状況を報告する必要があります。「改訂中」「評価中」のステータスでも報告が必要であり、無回答は許されません。期限直前に作業が集中することを避けるため、通知受領後すぐに対象品目リストを作成し、評価に着手するのが現実的な進め方です。
3.3 PMDA相談の要否
本通知への対応に限れば、添付文書改訂に伴うPMDAへの相談は不要です。あくまで「自主点検」の枠組みであり、確認結果に基づく改訂は事業者の判断で進めて構いません。
ただし本通知以外の関連対応、たとえばリスクマネジメントファイル更新、関連手順の見直し、他成分への波及検討などについては、必要に応じてPMDAに相談を申し込むことができます。
3.4 不対応時のリスク
自主点検の通知ではあるものの、未対応のまま放置すれば実質的なリスクは大きいものです。低血糖による健康被害が発生し、添付文書の注意喚起不足が指摘された場合、不具合報告・回収命令・業務改善命令などの行政指導の対象になり得ます。GVP省令上の安全管理業務として、市販後の新たな安全情報を踏まえた添付文書改訂は本来業務に含まれます。期限内の確実な対応が事業者の義務です。
まとめ
今回の通知により、酵素電極法を用いる血糖測定機器・体外診断用医薬品の製造販売業者は、ヒドロキシカルバミドによる血糖測定値の偽高値リスクを踏まえ、添付文書の自主点検を実施し、必要に応じて改訂・情報提供・PMDAへの報告を行うことが求められます。 特に、令和8年2月6日までの報告期限や、医療機器とIVDで添付文書の記載項目が異なる点は、実務上の重要なポイントです。
自主点検では、対象製品の選定、測定原理の確認、影響評価、添付文書の記載内容の検討、医療機関への情報提供、PMDAへの報告まで、一連の対応を漏れなく進める必要があります。 判断を誤ると、市販後安全管理(GVP)の観点からもリスクとなる可能性があるため、早い段階で十分な検討を行うことが重要です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、血糖測定機器・体外診断用医薬品をはじめとする医療機器の薬事コンサルティングとして、添付文書の改訂支援、自主点検の実施支援、PMDA対応、リスク評価、QMS・GVPを含めた薬事対応まで幅広くサポートしております。 「自社製品が通知の対象となるか判断したい」「添付文書の記載内容に問題がないか確認したい」「PMDAへの対応について相談したい」といったご相談がございましたら、是非お気軽にお問い合わせください。