概要
家庭用プログラム医療機器(家庭用SaMD)の承認申請で何を示せばよいかが、ようやく一本の評価指標にまとまりました。令和7年8月8日付け医薬機審発0808第1号により、厚生労働省が「疾病治療用の家庭用プログラム医療機器に関する評価指標」を公表しています。
対象は、医師の処方なしに使用者の判断で使える疾病治療用の家庭用SaMDを開発するメーカーです。承認申請時に明示すべき項目、非臨床試験の評価、検証的治験のデザイン、添付文書記載、市販後対応まで網羅されています。法的拘束力はないものの、PMDA審査では事実上の確認リストとして使われます。これから申請を予定する事業者は、申請資料の構成をこの指標に合わせて整理しておくべきです。

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1. 背景と目的
1.1 DASH for SaMD 2 を受けた指標化
本評価指標は「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2(DASH for SaMD 2)」を背景としています。同戦略は、萌芽的シーズの早期把握と審査の考え方の公表を掲げ、家庭向けSaMDをその具体例として挙げていました。
これを受け、次世代医療機器・再生医療等製品評価指標作成事業のワーキンググループ(座長:東京大学 佐久間一郎教授)が令和6年度に検討を進め、令和7年3月に報告書をまとめました。本通知は、その内容を承認申請時の参考として周知するものです。
1.2 評価指標の位置づけ
評価指標は法的基準ではありません。技術開発の著しい次世代医療機器について、現時点で着目すべき評価項目を示したものです。製品特性によっては、指標に書かれていない評価が必要だったり、書かれている項目を適用しなくてよかったりします。
ただし審査の現場では、指標に挙げられた項目を抜けなく押さえているかが事実上の確認軸になります。早期からPMDAの対面助言を活用するよう、通知本文でも明記されています。
2. 主要要件と事例
2.1 対象範囲と用語の整理
本評価指標が対象とするのは、類別「疾病治療用プログラム」に該当し、医師の処方なしに使用者の判断で使える家庭用SaMDです。クラスI相当の一般医療機器は対象外です。医師の処方で在宅使用するSaMDも、本指標の「家庭用」には含まれません。
製品を2類型に分けて整理しています。
- スイッチ家庭用SaMD:医療現場向けSaMDの承認実績がある製品の全部または一部の機能を、転用・改良して家庭用にしたもの
- ダイレクト家庭用SaMD:医療現場向けSaMDとしての承認実績がないもの
この区別は、後段の臨床評価デザインで効いてきます。スイッチ型なら既存の検証的治験データを追加解析で活用できる可能性があり、ダイレクト型は新規の検証的治験が原則必要です。
2.2 家庭用SaMD固有のリスクと6要件
医療現場向けと異なり、家庭用SaMDは医学的知識のない使用者が自己責任で使い、医療者がその使用状況を把握できません。診断や治療の遅れ、不適切な治療による症状悪化、漫然とした長期使用といったリスクが固有に存在します。
このリスクを踏まえ、家庭用SaMDは次の6要件を満たす必要があります。
- 使用者が症状から使用可否を判断できる、または健診結果等を踏まえて判断・購入・使用できる
- 医療者の指導監督なしでも、使用により重篤な状態になるおそれがない
- 不適切な使用があっても重大なリスクをもたらさない
- 人体への作用が著しくなく、長期使用でも医療者の調整を必要としない
- 判断ミスによる受診遅延のリスクが、対策により許容可能である
- 習慣性、依存性、耽溺性のリスクが許容可能である
開発初期の段階で、自社製品がこの6要件に照らしてどう設計されているかを言語化しておくと、後の申請資料が組み立てやすくなります。
2.3 不適切介入の具体例
通知は、家庭用SaMDが起こしうる重篤な事態を3例で示しています。
- メンタルヘルス系:抑うつ緩和を目的とした製品で不適切介入が起きると、自殺念慮の深化や自殺企図を招く可能性
- 慢性疾患の生活指導:糖尿病患者への過度な介入で低血糖発作を惹起する可能性
- 重篤疾患の診断遅延:悪性腫瘍による体重減少を、SaMDの効果と誤認して使用継続し、診断機会を逃す可能性
対象疾患だけでなく、関連する合併症まで配慮した設計とリスクアセスメントが求められます。
3. 実務対応
3.1 承認申請時に明示すべき項目
申請書および添付資料で、まず製品の輪郭を明らかにします。設計開発の経緯、品目仕様、アルゴリズム、対象症状、使用目的・効果、類似品の国内外使用状況、使用場所と使用方法です。
特に注意すべきは次の項目です。
- 使用に適する使用者・適さない使用者の要件(症状の重篤度、基礎疾患を含む)
- 開発コンセプト(介入内容と頻度、現状の対応手段との差分)
- プラットフォームOS、併用アプリ、共存ソフトとの干渉有無
- 想定リスク、併用禁忌薬・併用禁忌SaMD
- スイッチ型の場合:国内外使用状況、不具合・有害事象、構成品変更による有効性への影響
有効性・安全性に影響する根拠については、新規手法ならその適切性の説明、ガイドライン準拠ならサロゲートエンドポイントの妥当性、検証的治験ありなら成績資料を提示します。提示する指示の仕様(UI、メッセージ表現、表示アルゴリズム)と、開発時の機能設計に用いたデータの偏りやカバー範囲も説明が必要です。
3.2 非臨床試験の評価
非臨床では4本柱を押さえます。
- 機能:意図通りに動作することの評価
- リスクマネジメント:ISO 14971 または JIS T 14971 に基づく実施
- ソフトウェアライフサイクル/ユーザビリティ:IEC 62304、IEC 62366-1 系の枠組み
- サイバーセキュリティ:薬生機審発0523第1号に従い、サーバー利用時の情報漏洩対策・市販後監視まで含める
臨床情報を扱う場合は、個人情報保護法と関連ガイドラインに則り、取得範囲、保管、廃棄まで設計しておきます。
3.3 臨床評価の考え方
家庭用SaMDの有効性・安全性は、非臨床のみでは評価困難です。想定使用者での検証的治験が原則必要となります。
治験デザインの基本は二重盲検ランダム化比較試験ですが、SaMDでは盲検性確保が難しいケースが多くあります。実施困難と判断した場合は、PMDA相談を早期に活用し、優越性または非劣性を選んだ理由の妥当性も整理しておきます。対照群にはシャムアプリ(プラセボ薬に相当するソフトウェア)の要否を検討し、心理的影響の評価方法を決めます。
評価項目は、臨床的に意義があり広く認知された客観的指標を優先します。主観的指標を使わざるを得ない場合は、信頼性と妥当性が検証されたものを選び、回答方法の標準化やトレーニングでデータ品質を担保します。
スイッチ型では、医療現場向けSaMDの治験データを家庭使用者集団で追加解析した結果を提出できます。ただし表現やキャラクター、コンテンツを変更した場合、有効性が再評価対象になる可能性があり、追加治験の要否はPMDA相談で詰めるのが安全です。
国内未使用の海外データは、人種差・生活環境・医療環境の違いから国内治験が求められる場合があります。開発時期が古い製品も、参照ガイドライン改訂の影響評価が必要です。継続使用率に影響するUI、表現、方言・キャラクターといった嗜好要素も評価対象です。
3.4 添付文書・販売名の留意点
スイッチ型では、医療現場向けと家庭用の販売名を明確に区別し、本来の位置づけや有効性の範囲を超える印象を与えない名称にします。使用目的・効果は、医療現場向けの範囲内で使用者が理解しやすい説明に置き換えます。
注意事項等情報提供では、想定される不具合・有害事象の対処方法、改善が見られない場合の受診誘導、他疾患での受診時に当該SaMD使用を医師に伝える注意喚起、情報提供サイトと問い合わせ窓口を必ず記載します。
3.5 市販後対応
家庭用SaMDは、使用者が他疾患を併発した場合に、SaMDが提示する内容が医学的に不適切となる可能性があります。問い合わせ窓口の設置は必須です。
提示内容の根拠となったガイドラインが更新された場合、新たな臨床評価を要する変更にあたるなら、検証的治験の必要性とデザインを通知8項に準じて再検討します。ダイレクト型は本邦使用実績が治験に限られるため、使用成績評価の対象となる可能性があります。
まとめ
今回公表された「疾病治療用の家庭用プログラム医療機器に関する評価指標」は、家庭用SaMDの承認申請において求められる考え方を体系的に整理した重要な指針です。特に、家庭用SaMD特有の6要件への適合性、不適切介入リスクの評価、検証的治験の設計、添付文書や市販後対応までを開発初期から見据えて準備することが、PMDA審査を円滑に進めるポイントとなります。
また、スイッチ家庭用SaMDとダイレクト家庭用SaMDでは、必要となる臨床評価戦略や提出資料が大きく異なります。 開発が進んでから治験デザインや評価項目の見直しが発生すると、承認申請スケジュールの遅延や開発コストの増加につながる可能性があります。そのため、早い段階でPMDA対面助言を活用し、開発方針や治験戦略を整理しておくことが重要です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、家庭用SaMDを含むプログラム医療機器の薬事戦略立案、PMDA相談資料作成支援、承認申請資料レビュー、臨床評価戦略の検討、QMS対応まで様々なサポートをしています。 家庭用SaMDの承認申請、評価指標への対応、PMDA相談、治験計画の立案などでお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。