概要
薬局が販売業許可なしで交付できる高度管理医療機器に、デンプン由来吸収性局所止血材が加わりました。厚生労働省医薬局医療機器審査管理課長通知(医薬機審発0901第1号、令和8年9月1日)による改正で、同日から適用されています。
対象は、処方箋に基づいて特定保険医療材料を患者へ支給する薬局です。新たな届出や申請は要りません。ただし許可なしで交付するには、平成17年通知が示す3つの要件をすべて満たしている必要があります。要件そのものは今回変わっていません。
止血材を扱う医療機器メーカーにとっては、自社製品の流通経路が薬局まで広がる改正です。薬局向けの使用説明や添付文書の整備を前倒しで検討する価値があります。

1. 背景と目的
1.1 高度管理医療機器を渡すには原則として許可が要る
医薬品医療機器等法(薬機法)第39条は、高度管理医療機器または特定保守管理医療機器を業として販売・授与・貸与する場合に許可を求めています。許可は営業所ごとに都道府県知事等が与え、有効期間は6年です。営業所管理者の設置も条件になります。
薬局も例外ではありません。調剤の一環であっても、高度管理医療機器を患者へ渡す行為は「販売・授与」に当たります。素直に読めば、インスリン用の注射器を渡すだけで許可が必要という結論になってしまいます。
1.2 処方箋と薬剤師の関与を代替の担保とする例外
そこで置かれたのが「インスリン注射器等を交付する薬局に係る取扱いについて」(平成17年3月25日付け薬食機発第0325001号、以下「室長通知」)です。医師の処方箋があり、社会保険各法に基づく支給であり、薬剤師が使用方法を指導して記録を残す。この形が整っていれば、販売業許可がなくても患者へ交付できます。
販売業許可が求める安全性の担保を、処方箋と薬剤師の職能で置き換える構造といえます。裏を返せば、処方箋を介さない販売はこの例外に乗りません。
1.3 今回の改正内容
「特定保険医療材料及びその材料価格(材料価格基準)」(平成20年厚生労働省告示第61号)の別表Ⅰ及び別表Ⅷに、デンプン由来吸収性局所止血材が追記されました。これを受けて室長通知の別紙1が改められ、同材が「特定保険医療材料に該当する高度管理医療機器」の一覧に追加されています。
改正はこの1品目の追加のみです。通知の写しは地方厚生局とPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)へ送付されました。業界側では日本医療機器産業連合会、日本薬剤師会、日本保険薬局協会が受け取っています。米国医療機器・IVD工業会と欧州ビジネス協会医療機器委員会も送付先です。
2. 対象品目と要件
2.1 許可不要で交付できる品目
別紙1に挙がる特定保険医療材料は次の8品目です。末尾が今回の追加分になります。
- 腹膜透析液交換セット
- 在宅寝たきり患者処置用栄養用ディスポーザブルカテーテル
- 携帯型ディスポーザブル注入ポンプ
- 在宅寝たきり患者処置用膀胱留置用ディスポーザブルカテーテル
- 在宅血液透析用特定保険医療材料(回路を含む)
- 皮膚欠損用創傷被覆材
- 水循環回路セット
- デンプン由来吸収性局所止血材(今回追加)
別紙2は薬価基準に収載された高度管理医療機器で、外科用接着剤の「アロンアルフアA『三共』」が挙がっています。
2.2 デンプン由来吸収性局所止血材とは
植物デンプンを精製した微小孔デンプン球などを用いる吸収性の局所止血材です。血液中の水分を取り込んで血球や凝固因子を濃縮し、患者自身の凝固を後押しします。ヒト由来・動物由来の成分を含まない製品が中心です。
薬事上の一般的名称は「吸収性局所止血材」、類別は医療用品(4)整形用品にあたります。診療報酬上は医科・歯科それぞれの点数表に区分が設けられ、標準型と織布型で材料価格が分かれています。
2.3 薬局が満たすべき3要件
室長通知1(1)の①から③がそのまま準用されます。読み替えにより「インスリン自己注射用ディスポーザブル注射器、注射針」は「特材高度管理医療機器等」となります。
- 指導と記録 … 患者の使用状況・使用履歴を薬剤師が確認し、添付文書等に基づいて使用方法と管理方法を指導する。調剤録に必要事項を記載し、支給時点で薬剤服用歴に氏名・住所・支給日・処方内容・使用状況・使用履歴・指導内容を残す
- 保管と取扱い … 添付文書等に基づき適切に保管し、取り扱う
- 研修 … 在宅業務従事者等の資質向上のため研修実施計画を作成し、計画に基づく研修を実施する。地域薬剤師会等が行うものを含め、在宅業務等に関する学術研修を定期的に受けさせる
医療機器に関する講習等への定期的な参加は「望ましい」との位置づけです。義務ではないものの、監視指導での説明材料になります。
2.4 インスリン注入器は形状で結論が変わる
同じインスリン注入器でも扱いは一律ではありません。
一体型は薬液と注入器が一体で、インスリンを使い切ったあと再使用できないものです。全体として医薬品として取り扱われるため、処方箋に基づく交付なら許可は要りません。
分離型はカートリッジを交換して本体を再利用します。処方箋に基づいて交付されることがないため、これを取り扱う薬局には販売業許可が必要です。
なお医薬品・ワクチン注入用針は管理医療機器です。薬局が扱う場合でも、高度管理医療機器等販売業の許可は要りません。
3. 実務対応
3.1 薬局側で先に固めること
止血材の取扱いを始める前に、薬剤服用歴の記載項目が室長通知の求める内容を網羅しているか点検してください。既存の在宅向け特定保険医療材料の運用に、新しい品目を1行足すだけで済む薬局が多いはずです。
研修実施計画が名目だけになっていないかも確認しておきます。3要件のうち研修は形骸化しやすく、指摘を受けやすい部分といえます。
3.2 メーカー・製造販売業者側で備えること
薬局が交付主体になると、添付文書の読み手に薬剤師と患者が加わります。保管条件や開封後の取扱いが病院向けの前提で書かれていないか、記載を見直しておく価値があります。
流通面では、卸から薬局への納入が販売業許可なしで成立する範囲を営業部門と共有しておきます。処方箋に基づく支給から外れる取引は、この例外の枠外です。
3.3 例外から外れると許可が必要になる
室長通知の1または2に当てはまらない場面で高度管理医療機器を販売・授与するなら、薬局は高度管理医療機器等販売業の許可を取得しなければなりません。処方箋を介さない販売や、別紙1・別紙2に載っていない品目の取扱いが典型です。
無許可での販売は薬機法違反となり、行政処分の対象になります。「在宅で使う医療機器だから薬局で渡してよい」という一般化はできません。判断の分かれ目は、あくまで別紙に列挙されているかどうかです。
まとめ
今回の改正により、2026年9月1日から、薬局が販売業許可なしで交付できる高度管理医療機器に「デンプン由来吸収性局所止血材」が追加されました。ただし、すべての薬局・すべての取引で自由に交付できるわけではありません。処方箋に基づく支給であることに加え、薬剤師による指導・記録、適切な保管・取扱い、研修の実施という要件を満たすことが重要です。
薬局では、薬剤服用歴や調剤録の記載項目、保管方法、研修実施計画など、現在の運用が通知の要件を満たしているか確認する必要があります。また、医療機器メーカー・製造販売業者にとっても、薬局を通じた交付を想定した添付文書・使用説明、流通体制、営業部門への薬事ルールの周知などを整理しておくことが重要です。処方箋を介さない販売など、今回の特例から外れる場合には、高度管理医療機器等販売業の許可が必要となる可能性があります。
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