概要
電波環境協議会がまとめた「医用テレメータの電波管理実践ガイド」(2025年6月発行)を、医療機関と製造販売業者へ周知するよう求める通知です。令和7年8月26日、厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室長と医薬局医薬安全対策課長の連名で発出されました。宛先は都道府県等の衛生主管部(局)長で、総務省からの協力依頼を受けたものです。
ガイドの読み手は主に看護師・臨床工学技士・医療機関の管理者です。それでも医用テレメータを製造販売する事業者には直接関係します。ガイドは、アンテナ配線図や無線チャネル管理表の提供、受信不良時の点検と改善策の提案、アンテナ工事の施工などを「メーカ」の役割として繰り返し挙げているからです。
新たな届出や申請を求める通知ではありません。ただし医療機関はこのガイドを手元に置いてメーカに相談してきます。何を求められるかを先に把握し、提供する情報と体制を見直しておくことが実務上の対応になります。医用テレメータやセントラルモニタを扱わない事業者には、直接の影響はほぼありません。

1. 背景と目的
1.1 医療機関の電波管理が追いついていない
医用テレメータは、病室の患者の心電図などを電波で送り、ナースステーションのセントラルモニタで集中監視する機器です。ガイドが引く2024年度の総務省・厚生労働省アンケートでは、回答病院の75.4%が医用テレメータを導入していました。一方、導入病院のうち無線チャネル管理を実施しているのは59.3%にとどまります。
臨床工学技士の有無で差も出ています。在籍する病院の管理実施率は74.4%、不在の病院は38.3%でした。
1.2 トラブルの8割は「電波が届かない」
電波に関するトラブルの経験がある病院は36.8%でした。内訳で最も多いのは「特定の場所で電波が十分に届かない」の79.2%です。チャネル設定の誤り、電池切れの見落とし、同一チャネルの送信機の重複使用といった人的ミスも目立ちます。
ガイドは原因として次の点を挙げています。
- 梁や防火壁に貫通口がなく、病室内に受信アンテナを配線できない
- 病院建設がメーカや臨床工学技士に相談のないまま進み、手遅れになる
- アンテナシステムの経年劣化
- 同じ帯域を使う無線機器や、天井裏のLED照明・無線LANアクセスポイント・監視カメラからの雑音
ガイドは、トラブル経験が「ない」と答えた約6割の病院こそ問題だと指摘します。トラブルに気付いていない可能性があるからです。
1.3 ガイドのねらい
ガイドは、電波環境協議会の「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」とその後の知見をもとに作られました。看護師、臨床工学技士、管理者・事務職の職種別に、すぐ使える実践手順を示すことが目的です。既存施設の不感エリア対策の実例集と、システム概要・チャネル管理・測定方法などの付属資料も収録されています。
2. 主要要件と事例
2.1 メーカに向けられる要求
ガイドの中で製造販売業者が関わる記述を拾うと、次のとおりです。
- アンテナ配線図・機器配置図の共有。臨床工学技士はこれを保管・随時更新し、メーカと共有するよう求められています。対策事例でも、図面が不備の医療機関がメーカから入手していました
- 無線チャネル管理表。納入時に製造販売業者から提供された管理表を医療機関が保管し、変更のたびに更新する運用です
- 受信不良時の詳細点検と改善策の検討。C/Nが30dB未満なら、メーカに相談して点検し改善策を検討してもらう流れになっています
- アンテナ工事の施工。既存施設での増設では、配線方法と固定方法は製造販売業者の施工要領に従い、製造販売業者の責任で配線工事を行うとされています
- 定期点検の支援。受信電波状況の点検は少なくとも年1回程度とされ、電波管理担当者またはメーカ等の支援で行う想定です
C/N(Carrier to Noise Ratio)は、受信レベルとノイズレベルの差をdBで表した値です。ガイドは、正常受信に必要なC/N 15dBに、アンテナの状態や体動・障害物による損失15dBを見込み、30dB以上を推奨しています。
一方で「システム更新時に同じメーカが実施するとは限らないためメーカ頼みにしないこと」とも書かれています。図面や管理表を医療機関側で持てる形で渡すことが、前提として求められているわけです。
2.2 製品機能として活用が期待されるもの
ガイドは、セントラルモニタの簡易スペアナ機能とID機能の活用を臨床工学技士に勧めています。簡易スペアナ機能は受信レベルとノイズレベルを画面で確認できる機能です。ただしガイドは、表示値は校正されていないため目安として扱うよう注意しています。ID機能はグループIDまたはホスピタルIDと呼ばれ、他施設から届く電波を誤って受信表示しない機能です。
テクニカルアラームについても指摘があります。電波切れや電池切れを知らせるアラームは、音が控えめな設計が多く見落とされやすいとされています。ガイドには各社のセントラルモニタの表示例が掲載されています。
2.3 事例 既存病院の不感エリア対策
総務省の令和5年度「医用テレメータの電波不感エリア対策に関する調査検討」では、応募した32医療機関から13医療機関を選んで対策を行いました。
効果が大きかったのは、廊下や病室入口にあったアンテナを病室中央付近へ移した対策です。C/Nが15〜54dB改善して30dB以上となり、電波変動も69〜100%削減しました。
アンテナ位置に問題がなくても、機器構成の不具合で電波が弱くなっていた病院もあります。合成器の後ろにあったブースタを合成前に入れ直した例や、ブースタに電源が供給されていなかった例です。こちらもC/Nが10〜50dB改善し、30dB以上になりました。
応募32医療機関の約7割は、アンテナ設置から10年以上が経過していました。
3. 実務対応と留意点
3.1 納入時に渡す情報を点検する
医療機関から求められる資料は、ガイドの記述から予測できます。アンテナ配線図、機器配置図、無線チャネル管理表です。これらを納入時に確実に渡し、更新時にも最新版を提供できる体制か確認しておきます。ガイドの付属資料には、メーカが無料で公開するチャネル管理ツールの例も紹介されています。
3.2 ブースタと電源の仕様を明示する
ガイドは、ブースタの電源供給方法がメーカで異なることを注意点に挙げています。セントラルモニタから同軸ケーブルで直流を送る方式なら、合成器は全端子電流通過型を使います。別電源の方式なら、停電時に備えて非常用電源から供給するよう求めています。既設メーカ以外がアンテナ増設やブースタ更新をする場面が想定されています。他社が工事をしても誤らないよう、取扱説明書や施工要領で方式を明示しておくことが有効です。
3.3 チャネル設定と使用者教育を支える
ゾーン配置とチャネルの組み合わせは、JEITAの「小電力医用テレメータの運用規定」(AE-5201B)に沿って行います。医用テレメータは420MHz帯〜440MHz帯の480チャネルを6バンドに分けて使います。バンド3はテレメータ・テレコントロールと共用のため、極力使わないとされています。ここでいうテレメータ・テレコントロールには、無線式離床センサやクレーンのリモコンなどが含まれます。
看護師向けガイドには、検査で病棟を離れる際は送信機の電源を切って病室に置く、といった運用ルールが並びます。導入時の説明や研修資料をこの内容とそろえておくと、医療機関側の教育がしやすくなります。
3.4 新築・改修案件では設計段階から関わる
ガイドは、建築設計者・施工者、病院関係者、医用テレメータ製造販売業者が施設計画段階から情報を共有するよう求めています。参照先は日本建築学会の建築ガイドライン(AIJES-E0005-2021)です。新築・増改築の引き合いがあれば、貫通口や点検口の確保、天井裏の電気機器や金属ダクトとの離隔について、早い段階で設計側へ伝えることになります。
3.5 無線LANテレメータの扱い
付属資料では、2.4GHz帯・5GHz帯の無線LANテレメータにも触れています。本体ラベルに通信規格や周波数帯を表記すること、電池の連続動作が1日程度と短いこと、ネットワークの専門知識が必要なことが挙げられています。無線LAN方式の製品を扱う事業者は、これらの点を医療機関向け説明に反映しておくと安心です。
罰則や行政処分に関する記載はありません。本通知は周知の依頼です。
まとめ
「医用テレメータの電波管理実践ガイド」は主に医療機関向けのガイドですが、医用テレメータを扱う製造販売業者・医療機器メーカーにも実務上重要な内容が含まれています。特に、アンテナ配線図・機器配置図・無線チャネル管理表の提供、受信不良時の点検、アンテナ工事、定期的な電波状況の確認など、メーカー側に期待される役割を整理しておく必要があります。
今回の通知によって新たな届出や申請義務が設けられたわけではありません。しかし、医療機関が本ガイドを参考に電波管理を進めることで、受信不良への対応、C/Nの確認、チャネル管理、アンテナ設備の見直し、新築・改修時の電波環境設計などについてメーカーへ相談される機会が増える可能性があります。医用テレメータやセントラルモニタを取り扱う事業者は、納入資料、取扱説明書、施工要領、保守・点検体制がガイドの内容と整合しているか確認しておくことが重要です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、医療機器の製造販売業者を対象に、薬機法対応、承認・認証申請、QMS、製品の安全管理や行政通知への対応などの薬事支援を行っています。「今回の通知が自社製品にどこまで関係するのか」「既存の手順書や提供資料を見直す必要があるのか」など、医用テレメータを含む医療機器の薬事対応でお困りの場合は、ぜひ弊社までご相談ください。