概要
平成10年10月26日付の審査実務連絡(No.98-3)により、人工股関節等整形用インプラント製品の承認申請書を作成する際の留意事項が示されました。 骨セメント使用時に急激な血圧低下・ショックが発現するという重大リスクへの安全対策として、申請書の記載内容を強化することが求められています。 この通知は新規の承認申請だけでなく、承認事項一部変更承認申請にも適用されます。 製造業者・輸入業者は、今後の申請機会に必ずこの留意事項を反映した申請書を作成しなければなりません。

弊社(一般社団法人薬事支援機構)の無料相談のお問い合わせは「こちら」のリンクから。
1. 背景と目的
1.1 骨セメント植込みに伴う重大副作用のリスク
股関節置換術における骨セメント使用時の急激な血圧低下・ショックは、重篤な合併症です。 いわゆる「骨セメント植込み症候群(BCIS: Bone Cement Implantation Syndrome)」と呼ばれています。 このリスクについては、平成4年9月発行の「医薬品副作用情報第116号」で最初に広く情報提供が行われました。 その後、平成10年3月発行の「医薬品等安全性情報第147号」でも改めて情報提供が行われ、当面の安全対策として骨セメント自体の使用上の注意の改訂も実施されました。
骨セメントは人工股関節を骨に固着させる材料として広く使用されていますが、骨髄腔内への圧入時に血圧低下・心停止といった重篤な合併症を引き起こすことがあります。 特に高齢者や心機能が低下した患者では発現リスクが高まるため、術前の患者評価と術中監視が非常に重要です。
1.2 通知が出された経緯と目的
骨セメント自体の使用上の注意は改訂されました。 しかし、人工股関節等インプラント製品の承認申請書において、骨セメント使用に関する記載が不十分なケースがありました。 医療現場では人工股関節の添付文書も参照されるため、インプラント製品側にも適切なリスク情報を記載することが安全確保上不可欠です。 この通知は、そうした状況を踏まえて厚生省医薬安全局審査管理課から各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課を通じて関係業者に周知されたものです。
2. 申請書作成の具体的な留意事項
2.1 「操作方法及び使用方法」欄への骨セメント使用の明記
人工股関節の承認申請書の「操作方法及び使用方法」欄には、骨セメントの使用の有無を含めて使用方法を具体的に記載することが義務付けられました。 従来の申請書では「固定方法:骨セメント固定」といった記載が省略されていたケースや、骨セメント使用の有無が不明確なケースがありました。 今後は「セメント固定型」か「セメントレス型」かを問わず、施術における骨セメントとの関係を明示しなければなりません。
具体的には、以下のような観点での記載が求められます。
– 骨セメントを使用して固定する場合には、その旨と使用する骨セメントの種類・用途を明示する
– 骨セメントを使用しない場合(プレスフィット等)には、その旨を明示する
– 骨セメントの使用に関連する手術手技上の注意事項を具体的に記載する
2.2 骨セメント使用時の使用上の注意への必須文言
骨セメントを使用する人工股関節については、使用上の注意事項として以下の文言を盛り込むことが求められています。
「骨セメントを使用する場合には、その添付文書を熟読し、使用上の注意を十分に遵守した上で使用する」
この文言は通知に明示された必須記載事項です。 骨セメントの添付文書への参照を促すことで、術者が適切な安全対策(注入速度の管理、患者モニタリングの徹底等)をとれるよう担保する仕組みです。 骨セメントメーカーと人工股関節メーカーが異なる場合でも、インプラント製品側からこの注意喚起を行うことが重要です。
2.3 整形用インプラント全般の添付文書充実
人工股関節に限らず、整形用インプラント製品全般についても添付文書の記載内容を充実させることが求められています。 参考とすべき情報源は以下のとおりです。
- 主たる使用国(米国、EU加盟国等)での使用上の注意の内容
- 国内外の類似製品の使用上の注意の内容
- 類似製品における不具合等の発生状況
平成7年6月27日薬機第100号通知(平成10年3月31日医薬審第355号により一部改正)があります。 この通知の「記の第3の1(1)ウ」に該当する医療用具には、主たる使用国の使用上の注意の写し等の添付が義務付けられています。 それ以外の整形用インプラントについても、同様の観点から積極的に記載充実を図ることが求められています。
3. 実務対応のポイント
3.1 適用範囲の確認
この通知は、新規の承認申請だけでなく承認事項一部変更承認申請にも適用されます。 人工股関節の適応追加や仕様変更に伴う一変申請の機会を捉えて、申請書の記載を整備することが必要です。 既存の承認書の記載が不十分な場合でも、次回の申請機会に合わせて段階的に整備を進める方針で取り組むことが現実的です。
3.2 海外文書の収集体制の整備
主たる使用国での使用上の注意を申請書に反映させるためには、海外の添付文書(Instructions for Use: IFU)の継続的な収集と管理が不可欠です。 特に米国FDAの承認製品については、FDAのデータベースや製品パッケージから最新のIFUを入手できます。 英語等の外国語で記載されている場合は、日本語への翻訳または抄訳を準備し、申請書の根拠資料として保管してください。
国内外の類似製品の不具合情報については、PMDAが公表している不具合情報データベースが活用できます。 医学・工学系学術誌や国際的な医療機器関連団体(AdvaMed、Eucomed等)の情報も参考になります。
3.3 申請書提出前のチェックポイント
申請書提出前に、以下の事項を確認することが重要です。
- 「操作方法及び使用方法」欄に骨セメントの使用の有無が明示されているか
- 骨セメント使用品の場合、使用上の注意に通知所定の文言が盛り込まれているか
- 主たる使用国の添付文書等が収集・翻訳・整理されているか
- 国内外類似製品の不具合情報が参照・必要に応じて反映されているか
まとめ
本通知により、人工股関節の承認申請では骨セメント使用の有無の明確な記載と、所定文言の追記が必須対応となりました。特にBCIS(骨セメント植込み症候群)といった重大リスクを踏まえた安全情報の記載は、PMDA審査においても重要な確認ポイントとなります。従来の記載内容のままでは、指摘や補正対応が発生する可能性があるため注意が必要です。
また、整形用インプラント全般においても、主たる使用国の添付文書(IFU)や類似製品の不具合情報を踏まえた記載充実が求められています。一変申請を含め、今後の申請機会ごとに段階的な見直しを行うことが実務上重要であり、海外文書の収集・翻訳体制の整備も不可欠です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、人工股関節を含む整形用インプラントの承認申請書作成支援や、骨セメント使用に関する記載整備、添付文書のブラッシュアップまでサポートしております。「この記載で審査に通るか不安」「既存申請書の見直しをしたい」といった課題があれば、お気軽にご相談ください。