概要
平成10年8月11日付の医薬発第739号通知は、外国で実施された臨床試験データの承認申請への活用に関するルールを更新したものです。 日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)での合意を踏まえ、民族的要因の科学的評価に基づいて外国臨床試験データを最大限に活用できる仕組みへと移行しました。 本通知によって、昭和60年6月29日付薬発第660号通知は廃止されました。 外国臨床試験データを承認申請に活用する予定の企業は、新たなICH指針に基づく取扱いを理解した上で試験計画を立てる必要があります。

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1. 背景と目的
1.1 従来の外国臨床試験データの受入れ
外国で実施された臨床試験データは、昭和60年の厚生省通知以来、一定の条件を満たすものについて製造(輸入)承認申請の添付資料として受け入れてきました。 ただし、民族的要因(人種的差異、環境因子・医療実態の差等)が医薬品の有効性・安全性に与える影響を考慮し、追加の国内データ提出が求められていました。 具体的には、吸収・分布・代謝・排泄試験、投与量設定試験、比較臨床試験のデータが対象です。 これは外国臨床試験データの内容に関わらず一律に課されていた要件でした。
この要件は、医薬品の民族間差を慎重に評価するための措置でしたが、一方でグローバルな医薬品開発における試験の重複を招いていました。
1.2 ICHにおける国際的な検討
平成4年以来、ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)において継続的な検討が行われてきました。 日本・米国・EUの三極が参加し、民族的要因の影響を科学的に評価する方法と、外国臨床試験データの利用促進策が議論されてきました。 この国際的な議論の結果、民族的要因を科学的に評価する方法論についての合意がICH指針としてまとめられました。
1.3 本通知の位置付け
本通知は、このICH指針への合意を踏まえ、日本における外国臨床試験データの受入れをICH指針に基づく科学的評価に切り替えるものです。 従来の「民族的要因を考慮するために国内試験を一律に要求する」画一的な方針が改められました。 「ICH指針に基づいて科学的に必要な国内試験のみを求める」アプローチへと移行しました。 これにより、外国臨床試験データをより効果的に活用できるようになります。
2. 外国臨床試験データの受入れ要件
2.1 データ受入れの基本条件
薬事法施行規則第18条の4の2で定める医薬品については、外国臨床試験データが以下の2条件に適合する場合に承認審査資料として受け入れます。
条件1 — 試験基準への適合 当該資料が、医薬品の臨床試験の実施基準に関する省令(平成9年厚生省令第28号)に示された基準に従って収集・作成されたものであること。 また、薬事法施行規則第18条の4の3の規定(申請資料の信頼性の基準)に適合していることも必要です。
条件2 — 適合確認 当該資料が条件1に掲げた基準に適合することが、薬事法第14条第4項の規定に基づく書面による調査または実地調査によって確認できること。
これら2条件は、外国臨床試験データを承認審査資料として使用するための最低条件です。 日本のGCP基準および信頼性基準に準拠した形でデータが収集・管理されていることが前提となります。
2.2 上記以外の医薬品への適用
薬事法施行規則第18条の4の2で定める医薬品以外についても、原則として上記条件1に適合する資料は承認審査資料として受け入れます。 これは平成9年3月27日付薬発第421号通知「薬事法等の一部を改正する法律の施行について」の内容を踏まえたものです。
2.3 国内臨床試験データの提出要否
外国臨床試験データを日本人における有効性・安全性の評価資料として活用するかを判断する際、原則として国内臨床試験成績の併せた提出が求められます。
ただし、以下の2点についてはICH指針に基づいて判断されます。
- 提出すべき国内臨床試験データの範囲・内容
- 国内臨床試験データの提出を必要としない場合の取扱い
ICH指針に基づく評価では、民族的要因が当該医薬品の有効性・安全性に影響を与えるかを科学的に分析した上で、追加すべき国内試験の範囲を決定します。 民族的要因の影響が小さいと科学的に評価できる場合には、国内での追加試験を省略できる可能性があります。
3. 実務上の対応
3.1 ICH指針の内容確認
本通知は外国臨床試験データの取扱い方針を示したものですが、具体的なICH指針の内容については別途通知するとされています。 ICH指針の詳細を正確に把握した上で、試験計画や申請戦略を策定してください。
民族的要因の評価方法、外国試験データを内包する統合データセットの作成方法、国内追加試験の設計など、具体的な実務は指針に基づいて行われます。
3.2 外国臨床試験のGCP適合性確認
外国で実施された臨床試験が日本のGCP基準に適合しているかどうかの確認は、申請前に行う必要があります。 書面調査と実地調査のいずれかの方法で適合性が確認されなければ、当該データは承認審査資料として受け入れられません。 外国の試験実施機関が日本のGCP基準に対応した記録管理・SOPを整備しているかどうかを、試験の実施段階から確認しておくことが重要です。
3.3 廃止された旧通知の取扱い
本通知の施行に伴い、昭和60年6月29日付薬発第660号厚生省薬務局長通知「外国で実施された医薬品等の臨床試験データの取扱いについて」は廃止されました。 旧通知に基づく対応を継続している場合は、本通知およびICH指針に基づく新しい取扱いに切り替えてください。 過去の申請で旧通知に基づいてデータを整理していた場合は、審査担当部署に確認することを推奨します。
3.4 グローバル開発計画への影響
本通知による外国臨床試験データの活用拡大は、日本を含むグローバルな医薬品開発計画に影響を与えます。 外国試験データの受入れ要件が科学的評価ベースへと移行しました。 民族的要因の影響が小さい薬剤については、日本国内での追加試験なしに承認申請できる可能性があります。 グローバル開発戦略を立案する段階から、ICH指針に基づく民族的要因の評価を組み込んでください。
まとめ
外国臨床試験データの承認申請への活用は、ICH指針への対応により、従来の一律な国内試験要求から、民族的要因の科学的評価に基づく柔軟な運用へと変更されました。現在では、外国臨床試験データのみで承認審査資料として使用できる可能性もあり、グローバル開発における申請戦略の立案が極めて重要になっています。
一方で、外国臨床試験データを承認資料として使用するためには、日本GCPへの適合確認、信頼性基準への適合、民族的要因評価、国内臨床試験の要否判断など、多くの実務的検討が必要となります。これらの判断を誤ると、追加試験の要求・審査遅延・申請やり直しにつながる可能性があるため、開発初期段階からICH指針を踏まえた申請戦略を設計することが不可欠です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、外国臨床試験データの活用を前提とした承認申請戦略の立案、ICH指針対応の整理、国内試験要否の検討、PMDA相談資料作成、GCP適合性確認対応まで実務レベルで支援しています。外国データを用いた承認申請をご検討中の場合は、早い段階でのご相談をおすすめします。