概要
平成10年3月31日付の医薬審第351号通知は、非観血電子血圧計の承認申請における試験資料の法的位置付けを明確化した重要な通知です。 血圧測定性能を確認する試験は「性能に関する資料」に分類され、「臨床試験の試験成績に関する資料」ではないと整理されました。 この結果、医療用具GCP(医療用具の臨床試験の実施に関する基準)は適用対象外となります。 非観血電子血圧計の製造・輸入業者および申請担当者は、この変更を正確に理解した上で申請資料を準備しなければなりません。
本通知が発出された背景には、規制緩和推進計画に基づく見直しがあります。 「性能確認」と「治験」の混同を解消することで、申請業者にとっての手続き的負担を適切な水準に合わせることが目的でした。

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1. 背景と目的
1.1 規制緩和推進計画に基づく見直し
本通知は、平成9年3月28日の閣議決定「規制緩和推進計画の再改定について」を受けて発出されました。 この計画には、電子式血圧計およびコンタクトレンズの臨床試験のあり方について、専門家による検討と見直しを行うことが盛り込まれていました。
従来、非観血電子血圧計の承認申請では、臨床試験の試験成績に関する資料の提出が求められていました。 しかし、血圧計の性能確認試験は、医薬品の有効性・安全性を人体で評価する臨床試験とは本質的に性格が異なります。 このズレを解消するために、本通知によって試験の法的位置付けが改めて整理されました。
1.2 「性能試験」と「臨床試験」の本質的な違い
非観血電子血圧計の性能確認試験の目的は、血圧計が正確に血圧を測定できるかを検証することです。 被験者の体内に薬物として作用したり、疾患を治療したりするものではありません。
こうした試験は、薬事法施行規則第18条の3第1項第4号に定める「性能に関する資料」に該当します。 一方、「臨床試験の試験成績に関する資料」は、医療用具や医薬品の有効性・安全性を人体で検証する治験データを指します。 非観血電子血圧計の性能確認はこれに当たらないため、薬事法上の「治験」にも該当しないことが明確化されました。
1.3 規制整合性の確保
医療機器・医療用具の承認申請では、性質の異なる試験に対して同一の規制を適用することが申請業者に不必要な負担を課す場合があります。 本通知は、試験の本質的な目的に合わせて適用される規制を整合させることで、制度の合理化を図った措置です。 規制緩和の目的は安全性・有効性の確保水準を下げることではなく、試験の性質に応じた適切な規制を適用することにあります。
2. 主要な変更点と実務への影響
2.1 医療用具GCPが適用されない
本通知で最も重要なのは、非観血電子血圧計の性能試験が薬事法に基づく治験に該当しないと明確化された点です。
これにより、平成4年7月1日付薬発第615号「医療用具の臨床試験の実施に関する基準について」の別添、いわゆる「医療用具GCP」は適用されません。 GCPが適用されないということは、治験固有の手続きが必ずしも求められないことを意味します。 具体的には、治験審査委員会(IRB)での審査、治験の届出、GCP基準に基づくインフォームドコンセントの取得などが対象です。
ただし、GCPが適用されないからといって、試験の科学的適切性が問われなくなるわけではありません。 申請に添付する資料として求められる水準は変わらないため、試験設計・実施・記録においては適切な質を維持する必要があります。
2.2 薬事法施行規則第67条に準じた実施が必要
GCPは適用されないものの、性能試験の実施にあたっては薬事法施行規則第67条に準じることが求められます。 「GCPが不要だから何でもよい」という解釈は誤りです。
規則第67条は、承認申請に添付する試験に関する一般的な要件を定めた条項です。 試験計画の策定、データの正確な記録・保管、試験結果の適切な報告といった基本的な科学的要件は、引き続き遵守しなければなりません。 特に試験成績の再現性や信頼性を確保するための記録管理が重要です。
2.3 申請書類における資料の位置付け
申請書類においては、性能確認試験のデータを「臨床試験の試験成績に関する資料」としてではなく、「性能に関する資料」として添付します。 記載する欄が変わるため、承認申請書の様式および記載要領を改めて確認してください。
過去にGCPを前提として試験を実施してきた企業では、申請書の組み立てを見直す必要があります。 資料の分類を誤ると、審査段階で照会が発生する可能性があります。 申請前に社内の担当者間で位置付けを統一しておくことが重要です。
3. 実務対応のポイント
3.1 試験計画段階での位置付けの明確化
非観血電子血圧計の性能確認試験を計画する段階で、その位置付けを「性能試験」として社内で明確にしておくことが不可欠です。 治験として計画を立ててしまうと、IRBへの申請や治験届など不要な手続きが発生し、時間・コストの無駄が生じます。
試験が「性能試験」として適切に計画されていれば、科学的妥当性を維持しながらも手続き的負担を適切な水準に抑えられます。 社内の試験計画書・議事録等で、この位置付けを明記しておくと審査対応がスムーズになります。
3.2 申請資料作成時の確認事項
申請担当者は以下の点を確認してください。
- 血圧測定性能試験のデータを「性能に関する資料」として添付していること
- 「臨床試験の試験成績に関する資料」欄に誤って配置していないこと
- 試験が薬事法施行規則第67条に準じて実施されていること
- 試験記録・生データが適切に保管されていること
- 試験計画書、試験報告書に試験の目的・方法・結果が正確に記載されていること
3.3 他の製品への適用範囲
本通知の対象は非観血電子血圧計に限定されています。 侵襲的な血圧測定装置(観血式血圧計)や他の生体計測機器については、別途の取扱いが定められている場合があります。 自社製品が本通知の対象に該当するかどうかを、製品の特性と照らし合わせて確認してください。
また、コンタクトレンズについても同様の規制見直しが規制緩和推進計画に盛り込まれていますが、別の通知で取り扱われます。 非観血電子血圧計とコンタクトレンズの取扱いを混同しないよう注意が必要です。
まとめ
非観血電子血圧計の血圧測定性能確認試験は、規制緩和推進計画に基づく見直しにより「性能に関する資料」として整理され、医療用具GCPの適用対象外となりました。これは、性能確認試験と治験の性質の違いを踏まえ、医療機器承認申請の手続き的負担を合理化することを目的とした制度整理です。
一方で、GCPが適用されない場合でも、試験は薬事法施行規則第67条に準じて科学的妥当性・記録管理・試験計画の適切性を確保する必要があります。特に申請資料では、血圧測定性能試験を「臨床試験の試験成績に関する資料」ではなく「性能に関する資料」として正しく整理することが重要であり、資料区分を誤るとPMDA審査で照会を受ける可能性があります。
非観血電子血圧計を含む医療機器の承認申請では、試験の法的位置付けや申請資料の整理方法によって審査対応の難易度が大きく変わります。弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、医療機器の薬機法対応、承認申請戦略、試験資料の整理、QMS体制構築まで実務に基づいた支援を行っています。非観血電子血圧計の承認申請や医療機器の薬事対応でお悩みの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。