概要
平成10年10月26日付の審査実務連絡No.98-1は、発熱性物質に関する規格設定が必要な医療用具の範囲を明確化した通知です。 承認申請書における試験方法の選択についても指針を示しています。 発熱性物質(パイロジェン)は静脈注射後に悪寒戦慄を伴う強い発熱を引き起こす物質であり、医療用具に残存していると患者に重大な健康被害をもたらします。 発熱性物質試験が必要な医療用具の承認申請者は、承認申請書の「規格及び試験方法」欄に適切な規格と試験方法を設定しなければなりません。

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1. 発熱性物質とその危険性
1.1 発熱性物質とは
発熱性物質とは、主として静脈注射後に悪寒戦慄を伴う強い発熱を引き起こす物質の総称です。 その代表はグラム陰性菌の細胞壁成分であるエンドトキシン(内毒素)ですが、エンドトキシン以外にも発熱を引き起こす化学物質が存在することが知られています。
医療用具が体内(特に血管内)に接触する際に発熱性物質が混入していると、患者に発熱・悪寒・ショックなどの重篤な副作用をもたらすおそれがあります。 最終製品中の発熱性物質を事前に確認・管理することで、こうした有害事象を未然に防止できます。
1.2 規格設定が必要な医療用具の範囲
発熱性物質試験が必要な範囲は、平成7年6月27日付薬機第99号医療機器開発課長通知によって通知されたガイドラインで定められています。 具体的には「医療用具及び医用材料の基礎的な生物学的試験のガイドライン」の表1において発熱性物質試験が必要とされている範囲です。
この範囲に該当する医療用具の承認申請書には、「規格及び試験方法」欄に発熱性物質に係る適切な規格および試験方法を設定することが義務付けられています。 表1に示された対象範囲を改めて確認し、自社製品が該当するかどうかを確認してください。
2. 発熱性物質試験の種類と特性
2.1 家兎を用いた発熱性物質試験
発熱性物質試験には、古典的な方法として家兎を用いた試験があります。 家兎に当該製品または抽出液を静脈注射し、体温上昇を測定することで発熱性物質の存在を確認します。
この試験の利点は、エンドトキシン以外の物質による発熱も確認できる点です。 原材料由来の発熱性物質(化学物質等)や製造工程中の細菌汚染由来のものも検出できます。 すなわち、発熱を引き起こす物質の種類を問わず、生体への影響を評価できます。
2.2 LAL試薬を用いたエンドトキシン試験
近年広く普及しているのが、カブトガニの血液(ライセートAmebocyte Lysate: LAL)を使ったエンドトキシン試験です。 LAL試薬はエンドトキシンに特異的に反応するため、高感度かつ定量的な評価が可能で、操作も比較的簡便です。
ただし、エンドトキシン試験が検出できるのはエンドトキシンのみです。 エンドトキシン以外の化学物質による発熱の可能性を確認することはできないため、原材料由来の発熱性物質の確認手段としては必ずしも完全ではありません。
2.3 試験法の選択と組み合わせ
家兎試験とエンドトキシン試験にはそれぞれ特性があります。 承認申請書の規格・試験方法の設定にあたっては、原材料規格の設定内容を勘案して適切な方法を選択してください。
原材料が化学物質を含む場合や、製造工程で化学的発熱物質の混入リスクがある場合は、エンドトキシン試験だけでは不十分な場合があります。 この場合は家兎試験を採用するか、または両者を組み合わせた試験設計を検討してください。
3. 承認申請書への規格設定の実務
3.1 「規格及び試験方法」欄の記載
承認申請書の「規格及び試験方法」欄には、発熱性物質に係る以下の事項を明確に記載します。
- 試験方法(家兎発熱性物質試験またはエンドトキシン試験、あるいは両者)
- 規格値(許容できる発熱性物質量の上限値など)
- 試験条件(抽出条件、試験液の調製方法等)
- 判定基準(合否を判断する基準)
試験方法の選択理由についても社内文書として整理しておくと、審査段階での照会対応がスムーズになります。
3.2 原材料規格との整合
発熱性物質試験の設計にあたっては、原材料の規格設定内容との整合を図ることが重要です。 原材料の段階でエンドトキシンのリスクのみが問題となる場合は、エンドトキシン試験を主体とする設計が合理的です。 一方、原材料に化学物質由来の発熱リスクがある場合は、家兎試験の採用を検討してください。
原材料メーカーから入手できる発熱性物質に関するデータや規格書を参照し、最終製品の試験設計に反映させてください。
3.3 製造工程管理との連携
最終製品での発熱性物質試験に加え、製造工程における衛生管理との連携が重要です。 製造工程中の細菌汚染はエンドトキシンの産生源となるため、製造設備の洗浄・滅菌管理や純水・注射用水の品質管理が最終製品の発熱性物質リスクに直結します。 製造工程管理の記録を整備し、最終製品試験だけでなく工程管理の観点からも発熱性物質リスクを低減してください。
4. 関連する試験への影響と留意点
4.1 医療用具の用途・接触形態による対応
発熱性物質試験の対象となる医療用具は、主に血液・血管・体腔等に直接接触するものです。 皮膚にのみ接触するような医療用具については、発熱性物質試験が不要な場合があります。 生物学的試験ガイドラインの表1を参照し、自社製品の接触形態に基づいて対象範囲を確認してください。
体内留置期間、接触部位(粘膜・血液・体腔・骨等)、製品の最終形態(滅菌済みか否か)によっても必要な試験の内容が変わります。 承認申請書の「規格及び試験方法」欄の設計段階で、製品の使用態様を詳細に整理しておくことが重要です。
4.2 試験方法変更時の対応
一度承認を受けた後に試験方法を変更する場合は、承認事項の変更申請または軽微変更届出が必要になる場合があります。 家兎試験からエンドトキシン試験への切り替えや、規格値の変更などは承認事項の一部に関わる可能性があるため、事前に審査当局に確認することを推奨します。 試験方法の変更が製品の安全性評価に影響しないことを科学的に示すデータを準備した上で変更申請に臨んでください。
まとめ
発熱性物質試験が必要な医療機器の承認申請では、審査実務連絡No.98-1および生物学的試験ガイドラインに基づき、「規格及び試験方法」欄に適切な試験方法と規格値を設定することが必須です。対象範囲の判断を誤ると、審査段階での照会や差戻しの原因となるため、接触部位・使用態様・原材料特性を踏まえて試験設計を行う必要があります。
特に、家兎発熱性物質試験とエンドトキシン試験の選択は原材料規格・製造工程・最終製品のリスク評価と整合していることが求められ, 試験方法の選択理由を説明できない場合、追加資料要求や審査遅延につながる可能性があります。承認申請書の規格設定は、単なる試験記載ではなく、安全性評価全体との整合が重要です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、医療機器の承認申請書作成、規格及び試験方法の設定、生物学的安全性評価、発熱性物質試験の要否判断、PMDA照会対応まで実務レベルで支援しています。発熱性物質試験の設定でお困りの場合や、申請書作成に不安がある場合は、お気軽にご相談ください。