概要
平成10年11月5日付の医薬発第968号(厚生省医薬安全局長通知)により、医薬品等の広告に関する従来の価格表示規制の一部が廃止されました。 これまで禁止または制限されていた「二重価格表示」や「大廉売」等の表現を用いた広告に関する規制通知が廃止され、価格競争を制限しうる過剰規制が是正されます。 一方で、医薬品の過量消費や乱用を助長するような広告については、引き続き医薬品等適正広告基準に基づく監視指導が続けられます。 医薬品・医療機器の製造販売業者や販売業者は、廃止される規制と継続される規制を正確に把握し、適切な広告活動を行う必要があります。

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1. 背景と目的
1.1 従来の価格表示規制の経緯
医薬品等の広告に関しては、保健衛生上の危害防止や安全性確保の観点から、薬事法および関連通知に基づく監視指導が行われてきました。 特に価格表示については、「二重価格表示」や「大廉売」等の表現が禁止等の指導対象とされてきた経緯があります。 「二重価格表示」とは参考上代価格と実売価格を並記して割引感を演出する手法、「大廉売」とは大幅な値引きを強調する広告手法を指します。 これらが医薬品の品位を傷つけ乱用を助長するとして規制されてきました。
この規制の根拠となっていたのは、昭和35年から昭和44年にかけて発出された3本の通知です。 これらは、医薬品の特殊性を踏まえた価格表示の適正化を図る観点から策定されたものでした。
1.2 規制緩和の必要性
しかしながら、価格表示に関する規制は、その運用によっては事業者の公正かつ自由な競争を制限するおそれがあることが指摘されるようになりました。 一般の消費財では価格の透明性向上や競争促進が消費者利益につながるという考え方が広まっています。 そのような流れの中で、医薬品についてのみ厳格な価格表示規制を維持することの合理性が問い直されました。 このような背景から、今回の通知において価格表示に関する規制通知の廃止が決定されました。
2. 廃止される規制通知の内容
2.1 廃止される3本の通知
今回の医薬発第968号通知により、以下の3本の通知が廃止されます。
- 昭和35年2月12日薬発第67号「いわゆる乱売に伴う医薬品等の監視について」
- 昭和38年1月28日薬発第40号「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項に関する質疑照会について」
- 昭和44年7月3日薬監第111号「不当な価格表示に関する不当景品類及び不当表示防止法第4条第2号の運用基準について」
これらの通知はいずれも医薬品の価格表示に関する監視指導の根拠となっていたものです。
2.2 一部削除される通知
廃止に加えて、既存通知の一部削除も行われます。
- 昭和37年4月5日薬発第152号「薬局、一般販売業の許可等の取扱いについて」の「3」を削除
- 昭和50年6月28日薬発第561号「薬事法の一部を改正する法律の施行について」の「記の第2の(1)及び(4)」を削除
これらの削除部分は、価格表示の規制に直接関連する内容です。
3. 継続される規制と実務上の注意点
3.1 過量消費・乱用助長広告への継続監視
価格表示規制が緩和される一方で、医薬品の過量消費または乱用助長を促す広告については、引き続き医薬品等適正広告基準に基づく監視指導が継続されます。 価格表示が自由になったからといって、過量消費を促すような広告表現は依然として禁止されます。 例えば「まとめ買いがお得」「飲みすぎても安心」等の表現は規制対象となります。 保健衛生上の観点からの規制は、規制緩和後も変わらず機能することに注意が必要です。
3.2 医薬品等適正広告基準の位置づけ
医薬品等適正広告基準は、医薬品の広告が虚偽誇大にならないよう定めた基準であり、今回の改正後も引き続き適用されます。 価格表示に関する規制が廃止されても、以下の点は変わらず規制の対象となります。
- 承認・許可を受けていない効能・効果の広告
- 虚偽または誇大な表現による広告
- 消費者の不安をあおる広告
- 医師・薬剤師等が推薦しているかのような不適切な表現
3.3 景品付き販売広告の取扱い
景品付き販売の広告については、同日付の事務連絡(監視指導課通知)により詳細な運用方針が別途示されています。 景品類を提供して販売・広告することは、「不当景品類及び不当表示防止法」の限度内であれば認められます。 ただし、医薬品の過量消費または乱用助長を促す広告は依然として不適当とされています。
4. 実務対応のポイント
4.1 広告審査体制の見直し
今回の規制廃止を受け、自社の広告審査基準を見直す必要があります。 廃止された通知を根拠として設けていた社内ルールや審査基準がある場合は、それらの根拠が消滅したことになります。 ただし、医薬品等適正広告基準は引き続き有効であるため、価格表示に関する部分の緩和と、乱用助長防止に関する部分の継続という整理が必要です。
4.2 過量消費助長に注意した価格広告の設計
価格表示が自由になった後も、広告の文脈全体として過量消費や乱用を促す印象を与えないよう配慮することが重要です。 例えば、「大量購入で割引」「まとめて買えばお得」等の表現が用量・用法の逸脱を促しかねないと判断される場合は、引き続き慎重な対応が求められます。 広告表現に迷う場合は、都道府県担当部署への事前相談を活用することも有効です。
4.3 医療機器・医薬品メーカーへの共通の注意点
今回の通知は「医薬品等」の広告として、医薬品だけでなく医療機器も対象に含まれます。 医療機器メーカーも価格表示や景品提供に関する広告を行う場合は、この通知の趣旨を踏まえた対応が必要です。 特に、医療機器の大量購入を促すような価格訴求広告が、医薬品等適正広告基準に抵触しないかどうかを確認することが重要です。
まとめ
医薬品・医療機器広告における価格表示規制の廃止により、「二重価格表示」や値引き訴求の自由度は大きく広がりました。しかし一方で、過量消費や乱用を助長する広告は引き続き厳しく規制されており、従来以上に表現の文脈が問われる時代に入っています。単なる価格訴求であっても、用量・用法の逸脱を連想させる場合には指導対象となるリスクがあるため注意が必要です。
特に実務上は、「価格表示はOKでも広告全体としてNGになるケース」が増えることが想定され、社内の広告審査基準やチェック体制の見直しが不可欠です。医薬品等適正広告基準との整合性を踏まえた判断が求められるため、従来のルールに依存した運用では対応しきれない場面も出てきます。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、医薬品・医療機器の広告規制対応や社内審査体制の構築支援、具体的な広告表現の適法性チェックまで実務レベルでサポートしております。「この表現は問題ないか」「価格訴求のどこまでが許容されるか」など判断に迷われる場合は、お気軽にご相談ください。