概要
令和3年9月9日、環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長および厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長から、単回使用医療機器(SUD)の再製造に関する重要な通知が発出されました。本通知は、使用済みSUDの再製造および関連する収集、運搬、保管等の取扱いについて、医薬品医療機器等法(薬機法)と廃棄物処理法との適用関係を明確化したものです。
SUDとは、Single-use Deviceの略称で、1回限り使用できることとされている医療機器を指します。これらの医療機器は従来、使用後は医療廃棄物として処理されていましたが、適切な検査、分解、洗浄、滅菌等の処理を経て再製造することで、新たな医療機器として製造販売することが可能となっています。本通知により、この再製造プロセスにおける法的な取扱いが整理されました。
1. 単回使用医療機器(SUD)の再製造とは
1.1 SUDの定義と再製造の概念
単回使用医療機器(SUD)は、医療現場において1回限り使用することを前提に設計・製造された医療機器です。手術用メス、カテーテル、注射針など、感染防止や安全性の観点から使い捨てとされてきた医療機器が該当します。
再製造とは、使用されたSUDに対して、新たに製造販売することを目的として行われる一連の処理プロセスを指します。このプロセスには、検査、分解、洗浄、滅菌その他必要な処理が含まれます。再製造されたSUDは、元の製品と同等の品質、有効性、安全性を確保することが求められます。
1.2 再製造に関連する活動
本通知では、再製造そのものだけでなく、これに必要な使用済みSUDの収集、運搬、保管等の活動も含めて「単回使用の医療機器の再製造等」として定義しています。これらの活動は一体的に管理される必要があり、全体として薬機法の規制下に置かれることとなります。
医療機関から排出された使用済みSUDは、通常であれば医療廃棄物として処理されますが、再製造を前提とする場合は、その収集段階から薬機法に基づく適切な管理が必要となります。
2. 法的枠組みと適用関係
2.1 医薬品医療機器等法の優先適用
本通知の最も重要なポイントは、SUDの再製造等に関して、医薬品医療機器等法関連法令が廃棄物処理法に優先して適用されることを明確にした点です。これまで使用済み医療機器の取扱いについては、廃棄物処理法と薬機法の適用関係が必ずしも明確ではありませんでした。
薬機法に従って行われるSUDの再製造等については、廃棄物処理法の規定によらず、薬機法関連法令の規定に従うべきことが示されています。これにより、再製造を目的とした使用済みSUDの収集、運搬、保管等は、産業廃棄物としての規制ではなく、医療機器の製造に関する規制の下で管理されることになります。
2.2 関係法令の整理
医薬品医療機器等法は、昭和35年法律第145号として制定され、医療機器の品質、有効性、安全性の確保を目的としています。一方、廃棄物処理法は昭和45年法律第137号として制定され、廃棄物の適正な処理を通じて生活環境の保全と公衆衛生の向上を図ることを目的としています。
本通知により、SUDの再製造という特定の活動については、医療機器としての品質管理の観点が優先され、薬機法の規制体系の中で一貫して管理されることが明確になりました。これは、再製造SUDの品質確保と安全性担保の観点から重要な整理といえます。
3. 通知の背景と意義
3.1 医療機器の適正な再利用の推進
近年、医療費の抑制や資源の有効活用の観点から、SUDの再製造に対する関心が高まっています。欧米では既にSUDの再製造が制度化されており、適切な品質管理の下で再製造されたSUDが医療現場で使用されています。
日本においても、平成29年の薬機法改正により、SUDの再製造に関する制度が整備されました。本通知は、この制度運用における実務的な課題の一つであった法的な取扱いを明確化したものです。
3.2 環境負荷の低減と医療の持続可能性
SUDの再製造は、医療廃棄物の削減による環境負荷の低減にも寄与します。適切に再製造されたSUDの活用により、新規製造に必要な資源やエネルギーの削減、廃棄物処理に伴う環境負荷の軽減が期待されます。
また、医療機器の安定供給の観点からも、SUDの再製造は重要な選択肢となります。特に高額な医療機器や供給が限定的な機器については、再製造により医療アクセスの向上が期待されます。
4. 実務上の留意点
4.1 再製造業者の要件と責任
SUDの再製造を行う事業者は、薬機法に基づく製造販売業の許可を取得する必要があります。再製造業者は、使用済みSUDの収集から最終製品の出荷まで、一貫した品質管理体制を構築し、維持する責任を負います。
再製造されたSUDは、新たな医療機器として扱われるため、製造販売承認の取得が必要となります。承認申請においては、再製造プロセスの妥当性、最終製品の品質、有効性、安全性に関するデータの提出が求められます。
4.2 医療機関における対応
医療機関においては、再製造を前提としたSUDの分別管理が重要となります。再製造に適したSUDとそうでないものを適切に分別し、再製造業者への引き渡しまで適切に保管する必要があります。
また、再製造SUDを使用する際には、患者への適切な情報提供も重要です。再製造品であることを明示し、必要に応じて同意を得るなど、透明性の確保が求められます。
4.3 トレーサビリティの確保
SUDの再製造においては、使用済み機器から再製造品まで一貫したトレーサビリティの確保が不可欠です。万が一、品質上の問題が発生した場合に、迅速な原因究明と対応が可能となるよう、各段階での記録管理が重要となります。
再製造業者は、収集した使用済みSUDの履歴、再製造プロセスの記録、出荷先の情報等を適切に管理し、必要に応じて追跡調査が可能な体制を整備する必要があります。
5. 今後の展望と課題
5.1 制度の定着に向けて
本通知により法的な取扱いが明確化されたことで、SUDの再製造制度の実用化に向けた環境整備が一歩前進しました。今後は、実際の運用を通じて、より詳細なガイドラインの整備や運用上の課題への対応が進められることが期待されます。
業界団体や関係学会による標準化の取組みも重要です。再製造プロセスの標準化、品質基準の確立、医療現場での適正使用に関するガイドラインの策定等により、制度の定着と発展が促進されるでしょう。
5.2 国際的な動向との調和
SUDの再製造は国際的にも注目されている分野であり、各国で制度整備が進んでいます。日本の制度も、国際的な基準や慣行との調和を図りながら発展させていく必要があります。
特に、品質管理システムや安全性評価の方法について、国際的なベストプラクティスを参考にしながら、日本の医療環境に適した制度設計を進めることが重要です。
まとめ
本通知は、単回使用医療機器(SUD)の再製造等に関する法的な位置付けを明確にし、薬機法が廃棄物処理法に優先して適用されることを示した重要な文書です。再製造プロセスの管理一体化により、品質・安全性を確保しながら医療廃棄物削減や医療費の適正化にも寄与します。
SUD再製造の制度運用には、収集・運搬・保管の管理方法、製造販売承認申請のポイント、医療機関での分別・保管手順、再製造プロセスのリスク管理、QMS省令との整合など、実務レベルでの高度な判断が求められます。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、再製造SUDの制度設計、承認申請資料作成、運用フロー構築、医療機関向け説明資料作成など、実務に直結したサポートが可能です。
SUD再製造に関する具体的な疑問や導入検討については、ぜひお気軽にお問い合わせください。