概要

令和元年6月17日、厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課より、再製造単回使用医療機器(再製造SUD)に供する使用済み単回使用医療機器の洗浄方法とその評価に関するガイドライン及び質疑応答集が発出されました。本ガイドラインは、平成30年度再製造SUD基準策定等事業の検討結果を踏まえ、科学的根拠に基づいた適切な洗浄工程の確立を目的としています。

再製造SUDは、医療機関で使用された単回使用医療機器を製造販売業者の責任において収集、分解、洗浄、再組み立て、滅菌等の処理を行い、原型医療機器と同等の品質、有効性及び安全性を確保して再流通させるものです。資源の有効活用、医療機関の廃棄物削減、医療費低減の可能性から注目される一方、適切な洗浄方法の確立が不可欠となっています。

本ガイドラインは、医療機器製造販売業者等が再製造過程における洗浄工程を設計、検証、確立する際の技術的要求事項と評価方法を示しており、リスクマネジメント手法を用いた洗浄工程の確立、清浄性評価マーカーの設定、バリデーションの実施等について具体的に規定しています。

1. 洗浄ガイドラインの基本要件

1.1 対象範囲と位置づけ

本ガイドラインは、使用済みSUDの収集から滅菌までの一連の再製造過程における洗浄工程に適用されます。滅菌に関しては「滅菌バリデーション基準の改正について」(平成29年2月15日付け薬生監麻発0215第13号)を参照することが規定されています。現時点で留意すべき事項を示したものであり、今後の技術革新や知見の集積等を踏まえて改訂される可能性があります。

1.2 リスクマネジメントによる洗浄工程の確立

洗浄工程の確立にあたっては、まずリバースエンジニアリングの観点から原型医療機器の諸特性を明確化することが求められます。ISO 14971/JIS T 14971に準拠したリスクマネジメント手法を用いて、洗浄に影響を及ぼす要因を特定し、そのリスクアセスメント結果を踏まえた洗浄効果の検証が必要となります。

洗浄効果の検証においては、QMS省令における設計開発工程に従い、合理的な根拠に基づくワーストケースを決定し、統計学的手法によるサンプルサイズの決定を行うことが求められています。再製造SUDとしては、一時接触型の表面接触機器、体内と体外を連結する機器が想定されており、それぞれの材質、構造の複雑性、生体適用部位と接触時間、使用から洗浄までの経過時間及び環境条件等を考慮した個別設定が必要です。

2. 原型医療機器の特性明確化と洗浄工程の設計

2.1 原型医療機器の特性評価項目

原型医療機器の特性明確化では、基本情報(法律上の分類、一般的名称、使用目的、適用部位、機器の仕様、原材料、使用方法)、設計情報(構成、材質特性、構造の複雑性、分解の可否)、臨床的特性(汚染範囲、患者適用部位、接触の程度と時間、付着可能性のある汚染物)を収集し、それぞれの特性ごとにリスク分析を実施します。

特に重要な評価項目として、材質への洗浄の影響(耐熱性、耐久性、耐腐食性、耐薬品性)、構造の複雑性が洗浄方法選択に与える影響(分解の要否、用手洗浄の併用、超音波洗浄の併用)、臨床使用から洗浄までの時間と環境条件が汚染物の洗浄抵抗力に及ぼす影響等が挙げられます。

2.2 洗浄方法の選択と条件設定

洗浄方法は、用手洗浄、ウォッシャーディスインフェクター(WD)、超音波洗浄の3つの方法から選択または併用します。用手洗浄では手順、使用する水、洗浄剤の特性、条件等を規定します。WDを使用する場合は、装置の選定、プロセスケミカルズの特性、各工程(冷水すすぎ、洗浄、熱水消毒、中間すすぎ、最終すすぎ、乾燥)の条件と積載方法を設定します。

超音波洗浄では、装置の選定、使用する水、プロセスケミカルズの特性、積載方法、洗浄条件を規定します。いずれの方法においても、洗浄効果を判定する際の汚染物として、物理的・化学的特性、汚染の程度、使用から洗浄までの経過時間及び環境条件等のワーストケースを設定することが求められます。

2.3 清浄性評価マーカーと許容値の設定

清浄性評価マーカーとその許容値については、臨床上の安全性が確認されている再使用可能な医療機器の基準を参考に設定します。内視鏡の洗浄後の残留物質に関しては、タンパク質6.4μg/cm²未満、炭水化物1.8μg/cm²未満、ヘモグロビン2.2μg/cm²未満、エンドトキシン2.2 EU/cm²未満、バイオバーデン3-log10の削減、残留洗剤は安全なレベルまでの削減が示されています。

鋼製小物では、タンパク質の許容値200μg/器械、目標値100μg/器械が設定されています。実使用器械については、ドイツのガイドラインを参考に、器械の種類(ヒンジの有無、分解可否、内腔の有無等)に応じて詳細な許容値が設定されています。再製造SUDの清浄性評価では、これらを参考としつつ、機器の使用方法や患者へのリスクに応じた適切な評価とマーカー及び許容値の選定理由を科学的根拠に基づいて説明することが必要です。

3. 洗浄バリデーションと品質管理

3.1 洗浄後評価の実施

洗浄後評価では、評価項目の選定とその理由、試験試料の調製法、機器の設計及び用途に応じた評価法の選定理由を明確にします。評価方法としては、目視法、色素染色法、拭き取り法、抽出法等から適切なものを選択します。評価項目の選定、試験試料の調製法、機器の設計及び用途に応じた評価法の選定理由を明確にし、試験方法と許容値に対する適合性を確認します。

3.2 洗浄工程のバリデーション

洗浄工程のバリデーションでは、較正(calibration)、据付時適格性確認(IQ)、運転時適格性確認(OQ)、稼働性能適格性確認(PQ)を実施し、選択した洗浄方法で確実に許容値を満たせることを保証します。日常及び定期モニタリングとして、洗浄条件の記録、装置の日常点検・メンテナンス、定期的な洗浄評価判定、記録の維持と有効性の確認を実施します。

3.3 教育訓練と安全管理

各工程で手作業を行う場合を含め、洗浄の質の担保及び作業者の安全管理等を考慮した教育訓練の実施や安全対策を講じることが必要です。特に手洗浄を選択する場合は、設計開発等で検証された手順に従って洗浄した結果が許容基準内であることを確実にするため、定期的な教育訓練の実施と汚染物質の測定等による有効性検証が求められます。

4. 質疑応答集の主要ポイント

4.1 ガイドラインの適用と承認申請

本ガイドラインは洗浄の有効性評価に特化したものであり、試験データや関連資料は承認申請時の添付資料として提出が必要です。リスクマネジメントに係る資料や洗浄工程のバリデーション資料は、製造販売承認申請の審査及びQMS適合性調査の確認対象となります。

4.2 ワーストケース設定と検査用汚染物

検査用汚染物は、原型医療機器の使用目的や使用方法を考慮し、付着・残留する可能性のあるすべての汚染物を特定した上で、ワーストケースとなりうる条件を選択します。臨床使用で実際に付着した生体物質での評価と、人工的に作製した汚染物での評価の両方が可能ですが、人工汚染物を使用する場合は実際の汚染状況に代わり得ることを承認審査で適切に説明する必要があります。

臨床使用から洗浄までの経過時間の上限値を承認事項として定め、これを超えたものは再製造に供しないという条件でワーストケースを決定することも可能ですが、個々の製品ごとに確実に追跡できる体制の整備が必要です。

4.3 機械洗浄と手洗浄の管理

ウォッシャーディスインフェクターによる洗浄工程を連続して行う場合、初期汚染低減のための冷水すすぎ工程において、汚染物の固化を防ぐため水温確認が必要です。連続運転により水温が上昇する可能性があるため、工程間で時間差を設けるか水温を低減させる工程の設置が求められます。

手洗浄の場合は、QMS省令に基づき作業者の知識や力量を明確にし、必要な教育訓練を実施します。設計開発で検証された手順による洗浄結果が許容基準内であることを確実にするため、定期的な教育訓練と汚染物質測定による有効性検証が必要です。

4.4 施設と設備の共用

使用目的や適用部位が異なる複数品目の再生部品を同一設備で洗浄することは可能ですが、再製造単回使用医療機器を管理する区画を明確にし、混同や交叉汚染など再製造工程に影響を及ぼす事象が生じないよう厳格な管理が必要です。洗浄設備を共用する場合、洗浄バリデーションは製品ごとに個別評価することが求められます。

5. まとめ

再製造単回使用医療機器(再製造SUD)の洗浄ガイドラインは、リスクマネジメントに基づく洗浄工程の確立、適切な清浄性評価マーカーの設定、洗浄バリデーションの実施など、多岐にわたる技術要件への確実な対応が求められます。特に承認申請においては、洗浄工程の妥当性を科学的根拠で説明できる資料整備が不可欠です。

再製造SUDに取り組む企業では、原型医療機器の特性分析、ワーストケースの設定、人工汚染物の妥当性説明、WD・手洗浄の条件設計など、多くの実務課題が発生します。これらは専門的な知見がないと判断が難しく、申請遅延やバリデーション不備のリスクがあります。

弊社一般社団法人薬事支援機構では、再製造SUDの承認申請、洗浄バリデーション設計、QMS対応、添付資料作成まで一貫してサポートしています。再製造SUDの制度対応や洗浄工程の構築でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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