概要
令和3年12月24日、厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課より、再製造単回使用医療機器(再製造SUD)に関する新たなガイダンスが発出されました。本通知は、再製造SUDの洗浄評価方法に続く指針として、使用済み医療機器の侵襲性の程度に応じたリスク分類と、それに基づく適切な処理方法を示したものです。
再製造SUDとは、医療機関で一度使用された単回使用医療機器を収集し、洗浄、滅菌などの再製造工程を経て、原型医療機器と同等の品質、有効性、安全性を確保した上で、再び医療現場に提供される医療機器を指します。本ガイダンスは、再製造プロセスにおける清浄化処理の標準化と品質確保を目的として、侵襲性の程度による3段階の分類基準と、各分類に応じた処理要件を明確化しました。
事業者は本ガイダンスを活用することで、対象となるSUDの特性を踏まえた適切なリスクマネジメントを実施し、再製造工程における洗浄・消毒・滅菌方法の選定根拠を明確にすることが可能となります。
1. SUDの侵襲性による3段階分類
1.1 分類の基本的な考え方
再製造の対象となるSUDは、患者への使用目的や使用方法に基づき、以下の3つのカテゴリーに分類されます。
高侵襲機器は、無菌の組織との接触または血管系への挿入を意図して使用されるSUDです。腹腔鏡用血管シーリングデバイス、トロッカー、超音波診断用カテーテル、電極カテーテルなどが該当します。これらの機器には洗浄と滅菌の両方が必要となります。
中侵襲機器は、粘膜および損傷皮膚との接触を意図して使用されるSUDです。気管チューブ、エアウェイ、マウスピースなどが該当し、洗浄に加えて高水準消毒または中水準消毒が必要となります。
非侵襲または低侵襲機器は、患者接触のない、または健常皮膚との接触のみを意図するSUDです。麻酔用マスク、人工呼吸器用回路、パルスオキシメータ用センサーなどが該当し、洗浄と低水準消毒または清拭による処理が行われます。
1.2 分類における考慮事項
分類の決定にあたっては、機器の基本的な使用目的だけでなく、実際の臨床使用状況を考慮する必要があります。例えば、本来は低侵襲に分類される機器であっても、使用中に偶発的に粘膜や損傷皮膚に接触する可能性がある場合、その頻度や影響を評価し、より高い侵襲性カテゴリーとして取り扱うことを検討すべきです。
また、再製造プロセスにおいては、原型医療機器と同等の清浄性を担保することが前提となります。非侵襲の機器であっても、原型医療機器が滅菌済みで提供されている場合は、再製造SUDにおいても滅菌品として提供することを考慮する必要があります。
2. 汚染と劣化に関するワーストケースの考え方
2.1 付着する汚染物の特定と評価
再製造SUDの清浄性確保において最も重要な要素の一つは、機器に付着する可能性のある汚染物を網羅的に特定し、その除去方法を確立することです。
高侵襲機器の場合、血液、体液、組織片、脂肪組織など多岐にわたる汚染物が付着する可能性があります。これらの汚染物は時間経過により変性、乾燥、固化することから、最悪の条件を想定した洗浄バリデーションが必要となります。
中侵襲機器では、粘膜や損傷皮膚との接触により、真菌、細菌、ウイルスなどの病原微生物を媒介する可能性があります。確実な洗浄と高水準消毒の適用を前提として清浄性を評価する必要があります。
非侵襲または低侵襲機器の汚染物は、皮膚(落屑)、皮脂、汗などに限定されますが、意図的または偶発的な健常皮膚以外への接触の可能性も考慮に入れる必要があります。
2.2 機器の劣化評価
患者への使用により生じる物理的影響(曲げ、引っ張り、加圧、摩擦、温度変化)や、併用薬剤による化学的影響を特定し、再製造サイクル全体を通じた劣化の蓄積を評価します。
単一用途で使用されるSUDと複数用途で使用されるSUDでは、受ける負荷の程度が異なることを考慮する必要があります。また、患者の疾病の程度や偶発的要因により治療時間が延長する可能性、使用エラーや異常使用が起こり得る場合の影響も検討対象となります。
2.3 洗浄抵抗性の要因
臨床使用から医療機関内での保管、輸送を経て洗浄工程へ至るまでの時間は、洗浄バリデーションの重要な要素となります。汚染物の変性、固化、浸透、浸潤などの可能性を考慮し、想定される最長の時間や保管環境の変化についてワーストケースを設定します。
医療機関との取り決めにより、再生部品となるSUDの分別・保管方法を明確に定め、人為的エラーの発生を防止するための識別表示やチェックリストの活用などのリスク低減策を事前に講じることが重要です。
3. 最大再製造回数の設定と表示
3.1 最大再製造回数の決定方法
最大再製造回数は、「最大汚染量+最大負荷量+清浄性を保証し得る洗浄・滅菌工程」に目標とする再製造回数を乗じた条件で検証し、当該回数の再製造工程を経ても原型医療機器と同等の有効性・安全性を有することを保証する必要があります。
部品毎の強度基準値等を定め、物理試験等により基準値の充足性を確認するとともに、製品全体として臨床使用に耐え得ることを検証します。様々な使用環境を考慮し、複数の専門家による使用模擬試験等を通じて、使用感も含めた総合的な評価を行うことが推奨されます。
3.2 トレーサビリティの確保
再製造SUDの機器本体には、トレーサビリティ確保のためのシリアル番号(GS1標準バーコード)の表示が求められています。さらに、原型医療機器との混同を防ぐための「再製造」の表示が必須となっています。
再製造回数の上限に達した製品については、使用者が確実に識別できるよう、「再製造の対象にならない製品であり、使用後は収集容器に入れず、必ず廃棄すること」を明確に伝達できる表示を行う必要があります。例えば、「1/4」、「2/4」といった形式で現在の再製造回数と上限回数を表示することも可能ですが、「4/4」と表示された製品については、誤って収集容器に投入されることがないよう、視認性の高い警告表示とすることが重要です。
4. 質疑応答集(Q&A)の要点
4.1 低侵襲機器の処理方法
健常皮膚への接触のみを意図するパルスオキシメータ用センサーなどの低侵襲機器は、塩化ベンザルコニウムによる低水準消毒や、次亜塩素酸ナトリウム、アルコールによる中水準消毒などの処理を選択できます。清浄性の定量的評価は不要ですが、処理工程の標準化は必要です。
4.2 中侵襲機器の清浄性評価
経口エアウェイや経鼻エアウェイなどの中侵襲機器には、洗浄に加えてグルタラール、フタラール、過酢酸等による高水準消毒が望ましいとされています。ただし、機器の接触時間や侵襲性の程度に応じて、滅菌工程の採用も選択肢となります。
4.3 汚染リスクの取り扱い
血液・体液等による汚染の発生確率が極めて低い場合、製造販売業者が「損傷皮膚等への接触による汚染や血液・体液等によって汚染された再生部品は再製造に使用しない」ことを明示して承認を受けることで、非侵襲または低侵襲の機器として清浄化処理を行うことが可能です。この場合、医療機関との契約等において収集対象の明確化と誤収集防止措置が求められます。
まとめ
本ガイダンスは、再製造単回使用医療機器(再製造SUD)における侵襲性に基づく3分類と、それに対応した洗浄・消毒・滅菌方法の選定、最大再製造回数の設定、トレーサビリティ確保など、事業者が遵守すべき実務要件を体系的に示しています。特に、ワーストケースを考慮した洗浄バリデーションや再製造回数の科学的根拠付けは、品質確保と承認取得の上で重要なポイントとなります。
また、分類判断の誤りや収集・保管体制の不備は、PMDA審査やQMS適合性調査において指摘されやすい重大リスクとなり、再製造SUD事業の継続に影響します。医療機関との連携による分別管理や誤収集防止策の徹底も実務上避けて通れない課題であり、適切なリスクマネジメントと運用体制整備が求められます。
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