概要
平成29年7月31日、厚生労働省は単回使用医療機器の再製造に関する制度を新たに設けました。これは、一度使用された単回使用医療機器(Single-Use Device: SUD)を適切な処理を施して再び医療機器として製造販売することを可能にする画期的な制度です。
本制度により、医薬品医療機器等法施行規則の改正、手数料規則の改正、QMS省令の改正が行われ、併せて「再製造単回使用医療機器基準」が新たに制定されました。再製造単回使用医療機器は原型医療機器とは別品目として扱われ、その製造販売には新規承認が必要となります。
制度の最大の特徴は、医療機関で使用済みの医療機器を安全に再製造するための厳格な基準と管理体制を定めたことです。特に洗浄・滅菌工程の確実性を重視し、細菌学的知識を有する専門家の配置を義務付けるなど、患者の安全を最優先に考慮した制度設計となっています。
1. 再製造単回使用医療機器の定義と基本概念
1.1 主要な用語の定義
再製造単回使用医療機器に関する制度を理解する上で、まず基本となる用語の定義を明確にする必要があります。
単回使用の医療機器とは、1回限り使用できることとされている医療機器を指します。再製造とは、これらの単回使用医療機器が使用された後、新たに製造販売することを目的として、検査、分解、洗浄、滅菌その他必要な処理を行うことを意味します。
再製造単回使用医療機器は、単回使用の医療機器のうち、再製造をされたものを指し、原型医療機器とは、再製造の用に供される単回使用の医療機器であって、未だ再製造をされていないものをいいます。再生部品は医療機関において使用された単回使用の医療機器の全て又は一部であって、再製造の用に供されるものを、交換部品は再製造単回使用医療機器を構成する部品であって新たに製造されるものを指します。
1.2 制度創設の意義
本制度は、医療資源の有効活用と医療廃棄物の削減を図りながら、同時に患者の安全を確保することを目的としています。海外では既に実施されている国もあり、日本においても適切な規制の下で導入されることとなりました。
再製造単回使用医療機器は、原型医療機器と同等の品質、有効性及び安全性を有することが求められ、これを確保するための詳細な基準と管理体制が定められています。
2. 承認申請と規制要件
2.1 製造販売承認の取得
再製造単回使用医療機器は原型医療機器とは別品目として扱われるため、その製造販売にあたっては法第23条の2の5第1項の製造販売承認又は法第23条の2の17第1項の外国製造医療機器等の製造販売の承認を新たに取得する必要があります。
承認申請にあたっては、再製造基準への適合性を示す必要があり、手数料令第12条第1項第1号イ(2)又は(4)に掲げる医療機器として、所要の手数料を納めなければなりません。
2.2 クラス分類の取り扱い
再製造単回使用医療機器のクラス分類は、原則として原型医療機器と同一とされます。ただし、重要な例外があります。原型医療機器がクラスIの一般医療機器である場合、再製造単回使用医療機器はクラスIIの管理医療機器として扱われます。これは、再製造工程に伴うリスクを考慮した措置です。
2.3 再製造基準への適合
再製造単回使用医療機器は、平成29年厚生労働省告示第261号として制定された「再製造単回使用医療機器基準」に適合しなければなりません。この基準は、再製造工程における品質管理、安全性確保のための具体的な要求事項を定めています。
3. 製造販売業者等の要件と責任
3.1 製造販売業の許可要件
再製造単回使用医療機器の製造販売は、法第23条の2第1項の医療機器の製造販売業の許可を有する者又は法第23条の3第1項の規定により選任された製造販売業者により行われる必要があります。
特に重要な点として、洗浄及び滅菌が確実に行われていることを保証するため、医療機器等総括製造販売責任者、国内品質業務運営責任者及び医療機器等安全管理責任者のいずれもが細菌学的知識を有しない場合は、医療機器等総括製造販売責任者を補佐する者として細菌学的知識を有する者を置くことが義務付けられています。
3.2 細菌学的知識を有する者の要件
細菌学的知識を有する者として認められるのは、医師、医学の学位を持つ者、歯科医師であって細菌学を専攻した者、細菌学を専攻し修士課程を修めた者、または大学等で微生物学の講義及び実習を受講し、修得した後、3年以上の生物由来製品若しくはそれと同等の保健衛生上の注意を要する医療機器等の製造等に関する経験を有する者とされています。
3.3 製造業の登録要件
単回使用医療機器の再製造工程のうち、設計、使用された単回使用医療機器の受入・分解・洗浄等、主たる組立てその他の主たる製造工程、滅菌、国内における最終製品の保管の各工程について、法第23条の2の3第1項又は第23条の2の4第1項の登録を受けなければなりません。
製造所の医療機器責任技術者が医師でない場合又は細菌学的知識若しくは医療機器の滅菌に関する専門的知識を有しない場合には、医療機器責任技術者を補佐する者として医師又は当該知識を有する者を置くことが求められます。
4. 再生部品の管理と製造工程
4.1 医療機関からの引き取り要件
再生部品は国内において使用されたものでなければならず、さらに厳格な条件を満たす必要があります。プリオンの洗浄・除去が困難であることから、脳、脊髄、硬膜、脳神経節、脊髄神経節、網膜又は視神経に接触したものは使用できません。また、人の体内に植え込まれたものや、感染症法に定める一類から四類感染症等の患者の治療、検査等に用いられたものも除外されます。
医療機関において、これらの条件を満たさない使用済み医療機器が混入しないよう適切に選別され、破損、劣化、病原微生物等に汚染されないよう区別して保管される必要があります。
4.2 運搬と受入工程の管理
使用済みの単回使用医療機器は、医療機関から引き取られた後、汚染の拡大防止を図るため、専用の密閉性の容器に密閉された状態で運搬されなければなりません。容器の設計は承認審査の過程で審査されます。
再製造単回使用医療機器の製造販売業者等は、各医療機関において事前に規定した手順に基づき適切な方法により選別されているかを確認する必要があります。この確認は、引き取り開始時のみならず、定期的に行わなければなりません。
4.3 製造工程における品質管理
再製造の工程では、特に洗浄及び滅菌が確実に行われていることが重要です。製造販売業者等は、医療機関における選別及び保管に関する講習・トレーニングを実施することが承認条件として求められる予定です。
医療廃棄物が混入していることが判明した場合には、廃棄物処理法違反の可能性があるため、医療機関に返送する必要があります。
5. 製造販売後の安全対策とトレーサビリティ
5.1 継続的な品質管理
再製造単回使用医療機器の製造販売業者等は、原型医療機器の原材料の変更その他の品質、有効性及び安全性に影響を与えるおそれのある変更の有無を継続的に確認し、当該変更が生じた場合には必要な設計の変更その他の必要な措置を講じることが義務付けられています。
原型医療機器の効能が追加された場合、再製造単回使用医療機器は自動的に効能追加とはならないものの、医療機関における混乱を避けるため、速やかに効能追加を行うことを検討することが求められます。
5.2 安全性情報の収集と報告
再製造単回使用医療機器の製造販売後安全対策については、再製造単回使用医療機器の製造販売業者等が一義的に責任を負います。再製造工程に由来する不具合情報を収集するだけでなく、原型医療機器の不具合報告や回収情報といった製造販売後安全性情報を収集し、適切に反映していく必要があります。
また、当該製品に関する承認の取得、回収情報、安全管理情報等の原型医療機器の適切な管理に影響を与える事項について、原型医療機器の製造販売業者に対し速やかに情報提供を行うことも義務付けられています。
5.3 QMS調査と定期確認
再製造単回使用医療機器は追加的調査の対象とされ、製造販売の承認の条件として付された定期確認調査を定期的に受けなければなりません。調査対象施設は原則として製造販売業者等の主たる事務所及び承認申請書に記載された全ての登録製造所とし、調査の頻度は承認取得の日から概ね1年に1回とされています。
QMS省令第5章の2が新設され、再生部品を供する医療機関から再製造単回使用医療機器の販売先までのトレーサビリティを確保することや、最終製品の汚染を防止するための構造設備を有すること等の追加要求事項が規定されました。
まとめ
再製造単回使用医療機器制度は、医療廃棄物の削減と資源の再利用を実現する革新的な枠組みとして注目されています。一方で、医療機関で使用された機器を再び市場に供給するためには、厳格な品質管理・洗浄滅菌工程の確実性・細菌学的知識を有する専門人材の配置など、高度な技術と管理体制が求められます。
また、製造販売業者は「再製造単回使用医療機器基準」やQMS省令の追加要件に適合する必要があり、承認申請・製造業登録・トレーサビリティ確保など、通常の医療機器とは異なる手続きが必要です。特に、原型医療機器の情報共有や安全性データの反映など、製造販売後の対応も重要なポイントとなります。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、再製造単回使用医療機器の承認申請、基準適合性確認、PMDA対応、品質保証体制の構築支援まで一貫してサポートいたします。制度導入の検討や実務対応にお困りの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。