概要
厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課は、令和2年12月2日付けで再製造単回使用医療機器(再製造SUD)に関する重要な事務連絡を発出しました。本通知では、再製造SUDに供する使用済み単回使用医療機器の医療機関からの引取り、運搬、製造所における受入工程、さらには分解及び組立て等に関する基本的な考え方について、事業者向けの詳細なガイドラインと質疑応答集が示されています。
再製造SUDとは、医療機関で使用された単回使用の医療機器(Single-use device:SUD)を、再製造SUD基準に基づいて製造販売業者が収集、検査、分解、洗浄、部品交換、再組立て、滅菌等の必要な処理を行い、原型医療機器と同等の品質、有効性及び安全性を確保して再流通させる医療機器です。平成29年7月31日に創設されたこの制度は、医療機器の適切な再利用を可能にする画期的な仕組みです。
今回の通知は、令和元年度における再製造SUD基準策定等事業の検討結果を踏まえてまとめられたもので、前年度に発出された洗浄ガイドラインに続く重要な位置づけとなっています。事業者が再製造SUDを適切に取り扱うための実務的な指針として、医療機関との連携方法、品質管理の要点、リスクマネジメントの考え方等が体系的に整理されています。
1. 医療機関からの引取り、運搬、製造所における受入工程
1.1 製造販売業者が行うべき事項の体系化
再製造SUDの製造販売業者は、使用済みSUDを医療機関から適切に収集するための体制構築が必要です。まず、再生部品の引取り及び輸送形態・方法を確立することが求められます。承認書に記載された方法に従い、運搬容器の形状や医療機関からの引取り頻度、医療機関との責任関係等の取り決めを明確に規定しなければなりません。
医療機関の特定と教育訓練も重要な要素です。適切な協力を得られる医療機関を選定し、初回開始時及びその後定期的に医療機関を訪問して、選別及び保管の適切性を確認する必要があります。さらに、各医療機関において選別及び保管に関する講習・トレーニングを実施することが承認条件として求められる予定です。
再生部品の選別基準の作成と記録管理も必須事項です。医療機関の名称・所在地、引取り年月日、シリアル番号、再製造回数、再製造基準への適合性確認結果等を記録し保存しなければなりません。GS1標準バーコードを参考にしたバーコード等を付すことで、製造から流通段階までの追跡可能性(トレーサビリティ)を確保することが求められています。
1.2 医療機関との連携体制
医療機関に対しては、破損、劣化、病原微生物汚染を防ぐための区分保管を求める必要があります。専用の密閉性容器を使用し、適切な状態で再生部品を引取ることが基準で定められています。廃棄物処理法との関係にも注意が必要で、本来医療機関で処理すべき医療廃棄物が混入した場合は、医療機関に返送することになっています。
運搬業務を第三者に委託する場合は、再委託の禁止という重要な制限があります。委託を受ける者に対して適切な方法で運搬させ、必要事項を取り決めて書面として保存することが義務付けられています。
1.3 医療機関側の責任と体制
医療機関においても、作業手順の構築と責任者・担当者の決定が必要です。製造販売業者との取り決めによる収集過程をマニュアル化し、ヒューマンエラー回避のための工夫を講じることが求められます。適切な選別・保管体制を確立し、製造販売業者が行う講習・トレーニングを受けて、規定された手順に則った運用を行うことが重要です。
2. 分解及び組立て等に関する基本的な考え方
2.1 分解・組立て工程の要否検討
再製造SUDの製造において、分解及び組立て工程が必要かどうかは、原型医療機器の設計上の材質特性、構造の複雑性、ワーストケースでの汚染の程度等を踏まえて検討されます。リバースエンジニアリングの技術を活用し、これらのプロセスを導入する可否及び要否を慎重に判断する必要があります。
分解・組立て工程の技術的特性として、設計上容易に分解・再組立て可能な構造(ビス留め式、ねじ込み式、嵌め合わせ式等)と、設計上分解を意図しない構造(接着、溶着、一体成型等)に分類されます。後者の場合でも、物理的に離断・破壊し、洗浄後に再接着・再接合等を行うことが可能な場合があります。
2.2 リスクマネジメントの実施
分解及び組立て工程のリスクマネジメントは、ISO 14971を参照規格として実施されます。再生部品の汚染度、保管条件、保管期間、材質劣化、再製造回数等、使用済みSUDのライフサイクル全体における技術的、環境的又は人為的な特質を明確化し、品質上・安全上の問題を生じる可能性がある要因を抽出することが必要です。
残留リスクの評価を経て、一連のリスクマネジメント活動を再検討し、記録を保管します。市場出荷を継続的に行う段階では、工程及び製品の監視・測定等の製造工程内情報と使用者の意見等の臨床使用情報を適切に収集し、リスクマネジメントプロセスへフィードバックするシステムを確立することが求められています。
2.3 評価項目と交換部品の管理
再製造製品の評価では、原型医療機器と同等の強度、性能、操作性が保たれていることを確認する必要があります。清浄性の評価は「再製造単回使用医療機器に係る事業者向けの洗浄ガイドライン」を参考に実施されます。
交換部品を使用する場合は、原型医療機器に対するリバースエンジニアリングを通じて明らかにした製品特性を踏まえ、同等の強度、性能、耐久性等を有するように設計する必要があります。交換部品の品質、有効性及び安全性については、バリデーションを実施し、評価記録を保管することが求められています。
3. 質疑応答集(Q&A)による実務上の留意点
3.1 引取り・運搬工程に関する実務指針
質疑応答集では、製造販売業者と医療機関が共有すべき情報として、トレーサビリティ確保のための必要情報が示されています。収集対象となる医療機器の基準への充足性、使用日時等の情報提供方法として、収集票等を利用した伝達が推奨されています。秘密保持契約の関係上、契約を締結した製造販売業者以外の第三者への情報譲渡は禁止されています。
作業工程の立案では、各医療機関における人員の特性(医師、看護師、臨床工学技士、材料部員、清掃担当者等)を想定し、作業工程を明確化することが重要です。ヒューマンエラーとして回避すべき事項には、収集対象外の医療機器の誤投入、収集票の未記入・未添付、患者個人情報の記載、破損容器の使用等があげられています。
3.2 分解・組立て工程に関する技術的要件
分解・組立ての可否判断において、確実な洗浄が困難な原型医療機器は再製造に適さないとされています。ただし、リバースエンジニアリングによる適切な手段で品質や性能に影響を与えることなく分解・組立てが可能な製品については、清浄性が確保でき、原型医療機器と同等の品質、有効性及び安全性を示すことで再製造SUDとしての実現が可能な場合があります。
交換部品の使用については、原型医療機器の性能、安全性等と比較し、同等であると評価できる限りにおいて可能とされています。形状又は構造の差異等については、承認申請書に必要な内容を記載することが求められています。
3.3 製造管理・品質管理における留意事項
分解・組立て工程後の製品評価では、適切な負荷条件を設定し、承認申請書で規定した製品の性能や規格値、基準値等の安全性に係る要件を満たすことを試験・検査等によって示す必要があります。作業員の教育訓練では、リスクアセスメントを通じて発生しうる人為的リスクを推定し、必要な力量を定めて教育訓練計画を作成・実施することが求められています。
組立て工程において再製造工程等のバリデーションの対象となる工程が含まれる場合、作業員の力量も当該バリデーションの重要な要素となることに留意が必要です。
4. 承認申請における実務的配慮
4.1 承認申請書の記載要領
再製造において分解・組立てを行う場合、承認申請書の「形状、構造及び原理」欄に具体的な設計情報を記載し、「原材料」欄、「性能及び安全性に関する規格」欄にも必要な内容を記載します。「製造方法」欄では、製造フロー図の中で分解・組立てのプロセスや交換部品の使用の有無等について記載することが必要です。
異なる洗浄剤や洗浄方法を用いる部品を組み合わせて使用する場合は、工程フロー図等に部品ごとの洗浄工程を記載し、洗浄条件、洗浄剤等の洗浄方法とその妥当性を示すための基準・ガイドライン等を記載する必要があります。
4.2 使用有効期限の設定
再製造SUDの使用有効期限は、臨床使用や洗浄・滅菌工程等における物理的・化学的影響に由来する材質及び包装の疲労、劣化等を考慮して設定されます。原型医療機器の使用有効期限と異なる期限を設定することも可能ですが、原型医療機器の製造販売業者が設定した使用有効期限も十分考慮した上で、確実に保証できる使用有効期限を設定する必要があります。
まとめ
本ガイドラインと質疑応答集は、再製造単回使用医療機器(再製造SUD)を適切に製造・運用するための実務要件を体系的に示した重要資料です。医療機関からの引取り・運搬・受入工程、分解・組立て、清浄性評価、交換部品管理、リスクマネジメント、承認申請書の記載方法まで、事業者が直面する実務課題に踏み込んだ内容となっています。
再製造SUDでは、医療機関との連携体制構築、トレーサビリティ確保、洗浄・滅菌バリデーション、交換部品の同等性評価、使用有効期限の設定など、多岐にわたる規制対応と技術的検討が必要です。また、承認申請では「形状・構造・原理」「製造方法」「性能安全性規格」の書き分けなど、書類作成の難易度も高く、専門的な判断が要求されます。
これらの要件を満たし、安全性と品質を確保しながら承認取得・運用開始を進めるためには、最新ガイドラインの正確な理解と、実務に落とし込むためのノウハウが不可欠です。弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、再製造SUDの承認申請支援、QMS適合性調査、洗浄・滅菌バリデーション設計、工程フロー構築、医療機関連携体制の構築支援など、制度導入から実運用まで幅広くサポートしております。
自社での対応に不安がある場合や、承認申請の進め方に悩まれている場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。実例に基づいた最適な方針をご提案いたします。