概要

人工血管基準から強熱残分試験が削除されました。平成元年1月17日付の本通知(薬発第37号)は、厚生省薬務局長から各都道府県知事宛てに発出されたものです。近年の素材技術の進歩により添加物を配合した人工血管が登場し、従来の画一的な基準試験では適切に評価できなくなっていました。本改正により、添加物の配合量や安全性を品目ごとに個別審査する方式へ移行しています。人工血管の製造または輸入の承認申請を行う事業者は、申請書における添加物情報の記載方法の変更に注意が必要です。

弊社(一般社団法人薬事支援機構)の無料相談のお問い合わせは「こちら」のリンクから。

1. 背景と目的

1.1 人工血管基準とは

人工血管基準は昭和45年厚生省告示第298号として制定された、人工血管に適用される承認基準です。人工血管は、動脈瘤や閉塞性動脈硬化症などの血管疾患において、損傷・閉塞した血管を置換するために使用される医療機器です。体内に長期間留置されるインプラントであり、素材の生体適合性、安全性、長期耐久性が極めて重要とされています。

制定当時の人工血管は、ポリエステルやePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)などの素材が主流でした。強熱残分試験によって原材料中の不純物混入を確認する手法が、品質管理として有効に機能していた時代の基準です。

1.2 改正が必要となった背景

その後の素材技術の進歩に伴い、意図的に添加物を配合した人工血管が開発されるようになりました。抗血栓性を向上させるためのヘパリン等のコーティング剤や、生体適合性を改善するための表面処理剤などを配合するケースが増えています。人工血管に求められる性能は単なる血液の導管としての機能にとどまらず、血栓形成の抑制や組織との親和性など多岐にわたるようになりました。

こうした製品では、添加物そのものが強熱残分として検出されます。不純物由来の残分と添加物由来の残分を区別できないため、基準の試験項目として一律に適用することが技術的に不適切になっていました。この限界が本改正の直接的な契機です。

1.3 改正の目的

本改正は、強熱残分試験を基準から削除し、代わりに添加物の配合量・配合意義・安全性等を品目ごとに審査する体制へ移行することを目的としています。画一的な基準試験による合否判定から、個別の製品特性に応じた審査へと転換する考え方です。素材技術の革新を適切に評価しつつ、安全性の確保も両立できるようになります。

2. 改正の具体的内容

2.1 強熱残分試験の削除

本改正の核心は、人工血管基準から強熱残分試験を削除した点にあります。

強熱残分試験とは、試料を高温で強熱した後に残る無機物の量を測定する試験です。原材料の純度を確認する目的で設けられていました。試料を約600℃で加熱し、有機物を完全に燃焼させた後の残留物を秤量する方法で、金属やその他の無機不純物の混入を検出できます。

添加物を含まない従来型の人工血管では有効な品質管理手段でした。しかし添加物配合品では、添加物に由来する残分が不純物と区別できず、試験結果の解釈が困難になります。基準項目として維持する合理性が失われたため、今回の削除に至りました。

2.2 日本薬局方の引用更新

併せて、基準中で引用されている日本薬局方一般試験法の参照先も更新されています。昭和51年4月告示第44号から昭和61年3月告示第58号へ改められました。試験方法自体の実質的な変更を伴うものではなく、基準全体の整合性を保つための技術的な修正です。

2.3 施行日

本基準の改正は平成元年1月17日(告示日と同日)から施行されました。経過措置は設けられておらず、施行日以降の申請には直ちに新たな要件が適用されます。

3. 承認申請時の実務対応

3.1 添加物情報の記載要件

本改正に伴い、人工血管の製造または輸入の承認申請では、以下の対応が新たに求められます。

  • 承認申請書の原材料または成分及び分量欄において、人工血管の原材料中に含まれる添加物の成分及び分量を明記する
  • 上記の根拠となる試験成績を申請書に添付する

従来は基準適合性の確認で足りていた部分について、添加物の存在とその量を申請書上で具体的に示す必要があります。審査側が品目ごとに安全性を評価するための情報提供が義務付けられた形です。

記載にあたっては、添加物の化学名、配合量(質量比や濃度)、配合目的を明確にする必要があります。分析方法や定量値の再現性を示す試験成績も添付対象です。

3.2 新規添加物の追加要件

人工血管の素材に新規の添加物を配合する場合は、さらに以下の資料を承認申請書に添付しなければなりません。

  • 添加物の人工血管からの定量的溶出性に関する資料
  • 添加物の毒性に関する資料

新規の添加物は生体への影響が未知です。そのため、体内への溶出可能性と毒性の両面から安全性を評価する必要があります。

溶出性試験では、生理的条件を模した環境下で添加物がどの程度溶出するかを定量的に測定します。温度や浸漬液の組成、浸漬時間などの条件設定が重要であり、実際の使用環境を反映した試験系の構築が求められます。

毒性試験では、溶出した添加物が生体組織に与える影響を評価します。急性毒性、慢性毒性、局所刺激性、感作性など、添加物の化学的特性や予想される暴露量に応じた試験項目の選定が必要です。生体内で分解・代謝される添加物の場合は、代謝産物の安全性についても検討が求められます。

これらの試験データは承認申請前に取得しておく必要があるため、開発初期段階から試験計画に組み込んでおくことが重要です。

3.3 既存品目への影響

本通知は新規の承認申請に関する運用上の留意事項を示したものです。ただし、既存の承認品目についても、一部変更承認申請の際には改正後の要件に沿った記載が求められる可能性があります。従来は添加物の詳細を記載していなかった品目では、変更申請時に情報の追記が必要になる場合もあるため、事前の確認をお勧めします。

まとめ

今回の人工血管基準改正では、強熱残分試験の削除により、従来の画一的な基準適合確認から、添加物の安全性を個別に評価する審査体制へと大きく転換しました。特に添加物を配合した人工血管の承認申請では、成分・分量の明確な記載、定量試験データの添付、さらには新規添加物に関する溶出性試験・毒性試験データの準備が不可欠となります。今後の審査では、添加物の配合意義と安全性を論理的に説明できるかが重要なポイントになります。

人工血管は長期留置型のインプラント医療機器であり、生体適合性や溶出リスク評価の妥当性は審査上の重要論点です。「どのレベルまで溶出性データが必要か」「毒性試験の範囲はどこまで求められるのか」「既承認品の変更申請ではどこまで追加資料が必要か」など、実務上の判断に迷われるケースも少なくありません。特に添加物配合品では、開発初期段階から承認申請を見据えた試験設計が成否を左右します。

弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、人工血管を含むインプラント医療機器の承認申請支援、添加物評価戦略の整理、溶出性・毒性試験計画の立案、申請書記載内容の妥当性確認など様々なサポートをしています。「この添加物はどこまで評価が必要か」「基準削除後の申請書はどう書くべきか」「PMDA審査で指摘されやすいポイントは何か」などでお困りの際は、お気軽にご相談ください。初期段階からの戦略設計が、スムーズな承認取得につながります。

    お問い合わせはこちらから

    一般社団法人薬事支援機構は医療機器専門の薬事コンサルティング会社です。
    医療機器の薬事申請やQMSでお困りの際にはこちらからお問い合わせください。

    ご相談内容
    必須

    お名前
    必須

    メールアドレス
    必須

    お電話番号

    御社名
    必須

    メッセージ本文
    必須