概要

令和3年5月31日付けで厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長から発出された薬生機審発0531第5号「歯科用医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方の一部改正について」は、歯科用医療機器の製造販売承認申請等に際して添付すべき生物学的安全性評価に関する資料の取扱いを定めたものです。

本改正は、ISO 7405:2018「Dentistry — Evaluation of biocompatibility of medical devices used in dentistry」及びJIS T 6001「歯科用医療機器の生体適合性の評価」が改訂されたことに伴い、従来のガイダンスを最新の国際規格と整合させることを目的としています。適用開始日は令和3年5月31日ですが、令和6年2月29日までに行われる申請については、改正前のガイドラインに従って評価を行ったものを添付することも可能とされています。

1. 本ガイダンスの目的と位置づけ

1.1 生物学的安全性評価の目的

医療機器の生物学的安全性評価は、医療機器の使用によって生じる潜在的な生物学的リスクからヒトを保護するために実施するものです。この評価は、JIS T 14971「医療機器−リスクマネジメントの医療機器への適用」またはISO 14971に規定されるリスクマネジメントプロセスの検証作業の一つとして位置づけられています。

1.2 歯科用医療機器の特質

歯科用医療機器には、用時加工・調製されて使用されるという特質があります。たとえば、歯科用セメントは粉と液の状態で供給され、使用時に練和されて適用されます。このため、本ガイダンスでは、練和直後の状態と硬化後の状態の両方を「最終製品」として評価対象に含めています。この点は、他の医療機器分野にはない歯科領域特有の考慮事項といえます。

1.3 用語の定義

本ガイダンスでは、以下の重要な用語が定義されています。

「原材料」とは、歯科用医療機器を構成する材料または製造工程中で用いられる材料であり、合成または天然高分子化合物、金属、合金、セラミックス、その他の化学物質などを指します。「最終製品」とは、包装を含む全ての製造工程を終えた歯科用医療機器または構成部材を指し、該当する場合は滅菌処理も含みます。用時加工・調製されるものについては、実際に使用される状態の製品が最終製品となります。

「ハザード」とは、ヒトの健康に不利益な影響を及ぼす原因となりうる要素であり、遺伝毒性、遅延型過敏症(感作性)、慢性全身毒性などが含まれます。「リスク」とは、ハザードにより引き起こされる不利益な影響の発生確率及びその重大さとの組合せを意味します。「エンドポイント」とは、歯科用医療機器の生物学的安全性を評価するために必要な項目を指します。

2. 適用される公的規格と試験法の選択

2.1 基本となる規格体系

歯科用医療機器の生物学的安全性評価は、原則としてJIS T 0993-1「医療機器の生物学的評価-第1部:リスクマネジメントプロセスにおける評価及び試験」及びJIS T 6001「歯科用医療機器の生体適合性の評価」に準拠して行います。国際規格としては、ISO 10993シリーズ及びISO 7405が対応規格となります。

評価にあたっては、個々の歯科用医療機器の接触部位と接触期間に応じて必要な評価項目を選定し、各評価項目についてはISO 10993シリーズの各試験法ガイダンス及びJIS T 6001の試験法を参考として適切な試験法を選定します。歯科用医療機器の安全性評価を適切に実施できるのであれば、他の公的規格に準拠した試験法による評価で代替することも可能です。

2.2 参照すべきISO 10993シリーズ

本ガイダンスでは、2020年3月1日時点で有効な以下のISO 10993シリーズ文書を引用しています。

ISO 10993-1は評価及び試験の基本的枠組みを規定し、ISO 10993-2は動物福祉要件を定めています。ISO 10993-3は遺伝毒性、発がん性及び生殖毒性試験を、ISO 10993-5はin vitro細胞毒性試験を規定しています。ISO 10993-9からISO 10993-15は分解生成物の同定と定量に関する規定であり、高分子、セラミックス、金属それぞれについて個別の規格が用意されています。ISO 10993-17は溶出物質の許容限度設定、ISO 10993-18は化学的特性評価に関する規定です。

2.3 試験法選択の考え方

ISO 10993シリーズ及びJIS T 6001では、評価項目ごとに複数の試験法が並列的に記述されていますが、どの試験法を選択すべきかについては明確に規定されていません。試験法の選択にあたっては、目的とする歯科用医療機器の生物学的安全性評価の意義との関連において、試験の原理、感度、選択性、定量性、再現性、試験試料の適用方法とその制限などを勘案して決定する必要があります。

3. 生物学的安全性評価の原則と評価項目

3.1 リスク分析手法に基づく評価

歯科用医療機器及び原材料の生物学的安全性評価は、JIS T 14971またはISO 14971に示されたリスク分析手法により実施されなければなりません。具体的には、意図する使用または意図する目的及び歯科用医療機器の安全性に関する特質を明確化し、既知または予見できるハザードを特定し、各ハザードによる不利益のリスクを推定する必要があります。

このリスク分析手法のアプローチにおいては、「陽性」の結果はハザードが検出・特定できたことを意味するものであって、それが直ちに歯科用医療機器としての不適格性を意味するものではありません。当該歯科用医療機器の安全性は、引き続き行われるリスク評価により判断されます。

3.2 総合的な評価の必要性

生物学的安全性評価は、構成材料、添加物・製造工程での混入物及び残存物、包装材料、溶出物、分解生成物、最終製品の成分及びそれらの相互作用、製品の性質・特徴、製品の物理学的特性などの情報を踏まえて、リスク・ベネフィットを考慮しつつ総合的に行う必要があります。また、当該歯科用医療機器に特有の安全性評価項目の試験結果、関連の最新科学文献、非臨床試験、臨床使用経験(市販後調査を含む)なども評価に含めるべきです。

3.3 再評価が必要となる場合

原材料及び歯科用医療機器において、以下の項目のいずれかに該当する変更や事象が確認された場合には、再度、生物学的リスクの評価を行わなければなりません。

製品の製造に使用される材料の供給元または仕様の変更、製品の成分・配合、加工、一次包装または滅菌方法の変更、用時加工・調製方法の変更が該当します。また、保管中に最終製品または製品に化学変化が認められた場合の有効期限・保管条件・輸送条件の変更、製品の使用目的に変更があった場合、製品が人体に使用された際に何らかの有害な作用を生じる可能性を示す知見が得られた場合も再評価の対象となります。

ただし、上記条件に該当しても、最終製品からの溶出化学物質とその溶出量を分析し、毒性学的情報に基づいた摂取許容値との対比により生物学的安全性が確保できる場合には、必ずしも生物学的安全性試験を再実施する必要はありません。

3.4 接触部位によるカテゴリ分類

歯科用医療機器は、接触部位により以下のカテゴリに分類されます。

「非接触機器」は、直接・間接を問わず患者の身体に接触しない歯科用医療機器です。「表面接触機器」は、皮膚(健常な皮膚の表面のみに接触)、口腔内組織(健常な口腔粘膜組織または歯の硬組織の外面に接触)、損傷表面(創傷皮膚または口腔粘膜組織に接触)に分けられます。

「体内と体外とを連結する機器」は、口腔粘膜組織、歯の硬組織、歯髄組織もしくは骨、またはこれらの組合せに侵入しまたは接触するもので、その一部が口腔環境にさらされている歯科用医療機器です。「歯科用体内植込み機器」は、軟組織、骨、歯髄象牙質系、またはこれらの組合せに部分的にまたは完全に埋め込む歯科用インプラント及び他の歯科用の体内植込み機器を指します。

3.5 接触期間によるカテゴリ分類

接触期間によるカテゴリは以下のとおりです。

「一時的接触」は、単回または複数回使用され、その累積接触期間が24時間以内の歯科用医療機器です。「短・中期的接触」は、累積接触期間が24時間を超え30日以内のものを指します。「長期的接触」は、累積接触期間が30日を超える歯科用医療機器です。繰り返し使用される歯科用医療機器は、その接触する累積期間で分類します。

4. 評価の進め方と試験方法

4.1 評価のフローチャート

生物学的安全性評価は、JIS T 0993-1の図1またはISO 10993-1のFigure 1に提示されたフローチャートに従って行います。なお、非接触機器については、JIS T 0993-1及びJIS T 6001による生物学的安全性評価は求められません。

評価を実施する上では、まず対象となる歯科用医療機器及びその構成成分の物理学的及び化学的情報を収集することが重要です。これらの情報は、材料、製造方法、滅菌方法、形状、物理学的特性、身体接触及び臨床使用に関する質問を充足できる内容であることが望まれます。

4.2 同等性の判断

対象の歯科用医療機器と既承認・認証の歯科用医療機器との生物学的安全性における同等性を判断します。JIS T 0993-1では、原材料(配合組成など)、製造工程・滅菌の種類・工程、幾何学的形状及び物理学的特性、接触部位及び臨床適用における同等性の確認を要求しています。

同等性が確認できなかった場合は、原材料の化学物質毒性データ、それが他の化学物質混合時にも適用可能なデータであること、当該歯科用医療機器の安全性評価可能な用量及びばく露経路を踏まえたデータであることの3点を充足する情報またはデータにより、臨床適用における生物学的安全性の担保が可能か否かを判断します。

4.3 試験法の選択における留意点

細胞毒性試験に関しては、JIS T 6001に間接接触法(寒天拡散法、フィルタ拡散法及び象牙質バリア法)が、ISO 10993-5に抽出液による試験法、直接接触法、及び間接接触法が示されています。これらの試験法は感度や定量性などが異なるため、リスク評価のためのハザード検出にあたっては、感度が高く定量性のある方法を用いる必要があります。一般的に、抽出液による試験法は感度が高いため、この方法で試験するのが望ましいとされています。

遅延型過敏症(感作性)試験及び遺伝毒性試験のハザード検出にあたっては、ISO 10993-12の抽出溶媒に関する規定やISO 10993-3及びISO 10993-10に記載されている抽出法を参照し、各材料に適したものであって、かつ抽出率の高い溶媒を選択して歯科用医療機器の安全性を評価することが必要です。

4.4 使用模擬試験

歯科用医療機器の中には使用模擬試験により生物学的安全性を評価すべきものがあり、JIS T 6001の中で使用模擬試験方法が記述されています。

「歯髄・象牙質使用模擬試験」は、歯科用医療機器またはその成分が象牙質を透過して歯髄に到達する場合の歯髄への影響を評価するための試験であり、象牙質に接触する歯科用医療機器の場合に実施を必要とします。「覆髄試験」は、歯髄に直接接触する歯科用医療機器による歯髄への影響を評価するための試験です。「根管充塡使用模擬試験」は、歯科用医療機器による根尖周囲組織への影響を評価するための試験です。「歯科用骨内インプラント使用模擬試験」は、咬合による歯科用インプラント材料の周囲組織(硬組織)への影響を評価するための試験です。

5. 試験試料、GLP適用及び動物福祉

5.1 試験試料の選択

歯科用医療機器の生物学的安全性試験を実施する場合の試験試料としては、最終製品、最終製品の一部、製品及び原材料などが考えられます。試験試料の選択においては、最終製品の安全性を十分に評価できるか否かを検討し、その選択の妥当性を明らかにする必要があります。

歯科用医療機器は複数の材料を組合せて製造されることが多く、滅菌を含む製造工程において材料が化学的に変化する可能性があります。このため、生物学的安全性試験を実施する際には、最終製品及び製品、最終製品または製品が人体と接触する部分を切り出した試験試料、最終仕様の試作品あるいは同じ条件で製造した模擬試験試料を用いて実施することを基本とします。

用時加工・調製される歯科材料については、その加工・調製過程において材料が化学的に変化する場合には、同じ条件で加工・調製した模擬試験試料を用いて試験を行う必要があります。特に、用時調製の過程のまま生体に適用する材料にあっては、練和直後及び硬化後の両方の状態の試験試料についての試験を考慮する必要があります。

5.2 GLPの適用

生物学的安全性試験は、「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」で定める基準(Good Laboratory Practice、GLP)に従って実施することが求められます。ただし、当該製品に求められる機能性・有効性を評価する試験で安全性評価の目的が副次的である場合には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」第114条の22を遵守することとされています。

生物学的安全性評価を目的とした試験はGLPに準拠した実施が求められますが、性能確認試験など、その他の目的で実施する場合は、必ずしもGLP準拠が求められるものではないことに留意が必要です。

5.3 動物福祉への配慮

試験に動物を用いる際の動物の取扱いについては、「動物の愛護及び管理に関する法律」、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」及びISO 10993-2などに従い、動物実験の代替法の3Rの原則に則り動物の福祉に努めつつ、適正な動物実験を実施することが求められます。

3Rの原則とは、Replacement(実験動物の置き換え)、Reduction(実験動物数の削減)、Refinement(実験方法の改善による動物の苦痛の軽減)を指します。

まとめ

薬生機審発0531第5号「歯科用医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方の一部改正について」は、ISO 7405:2018およびJIS T 6001の改訂を踏まえ、歯科用医療機器の生体適合性評価を国際整合の観点からアップデートした重要な通知です。歯科用材料・歯科用医療機器は、口腔内組織への接触だけでなく、象牙質や歯髄、骨への影響が問題となる場合もあり、他分野の医療機器以上に、評価の考え方を明確に整理することが求められます。

本改正のポイントは、試験項目を単純に増やすことではなく、ISO/JIS 14971に基づくリスクマネジメントの枠組みの中で、化学的特性評価・溶出物評価・既存文献・同等性評価等を踏まえて、必要十分な根拠により生物学的安全性を説明することにあります。特に用時加工・調製される歯科材料では、「練和直後」「硬化後」といった最終製品状態の設定や、使用模擬試験の位置づけが審査上の論点になりやすく、申請戦略の段階から整理しておくことが重要です。

弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、歯科用医療機器の生物学的安全性評価(ISO 10993/ISO 7405/JIS T 6001)の考え方整理、同等性評価・文献評価の妥当性確認、試験計画立案(必要試験範囲の判断)から評価書作成、宣誓書・添付資料作成支援など、承認申請に向けた実務支援を行っています。「このケースはどこまで試験が必要か」「同等性で説明できるか」「申請資料として通る根拠にできるか」等でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

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