概要
本記事では、平成25年3月29日に厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長より発出された「医療機器の製造販売承認申請資料に試験成績書を添付する際の留意事項について」(薬食機発0329第4号)について解説します。
この通知は、医療機器の製造販売承認申請において、申請書に添付する試験成績書の記載要件を明確化したものです。従来、試験成績書はISO17025またはJIS Q17025の要求事項を全て満たす必要があると解釈される余地がありましたが、本通知により、必要な事項を記載していれば足りることが明確になりました。これにより、申請者の負担軽減と審査の効率化が図られています。
本通知は、平成24年2月に設置された「医療機器規制制度タスクフォース」における医療機器業界との意見交換の結果を踏まえて発出されたものであり、医療機器の特性を踏まえた合理的な規制制度の構築に向けた取り組みの一環として位置づけられています。
1. 通知発出の背景
1.1 医療機器規制制度タスクフォースの設置
厚生労働省は、医療機器の特性を踏まえた、より合理的な規制制度の構築と運用を実現するため、平成24年(2012年)2月に「医療機器規制制度タスクフォース」を立ち上げました。このタスクフォースでは、医療機器業界と建設的な意見交換を行い、解決すべき課題について検討が進められました。得られた結論については、実施可能なものから速やかに実務的な運用改善を行うこととされています。
医療機器は医薬品とは異なる特性を持っており、機械工学、電気工学、材料工学など多様な技術分野にまたがる製品です。そのため、医薬品を前提とした規制の枠組みをそのまま適用することには限界があり、医療機器固有の特性を考慮した規制のあり方が求められていました。
1.2 従来の運用における課題
本通知が発出される以前、医療機器の製造販売承認申請に添付する試験成績書については、平成17年2月16日付けの室長通知「医療機器の製造販売承認申請に際し留意すべき事項について」(薬食機発第0216001号)において、ISO17025またはJIS Q17025の要求事項を満たすことが求められていました。
しかし、この規定については、ISO17025/JIS Q17025の全ての要求事項を満たさなければならないと解釈される場合があり、試験成績書の作成において過度な負担が生じているとの指摘がありました。特に、試験所の認定を受けていない場合や、社内試験を実施する場合などにおいて、どの程度の記載が必要かが不明確であったことが課題とされていました。
1.3 法的根拠
本通知は、薬事法(昭和35年法律第145号)第14条および第19条の2の規定に基づく医療機器の製造販売承認申請等の取扱いに関するものです。第14条は国内製造販売業者による承認申請について、第19条の2は外国製造業者による承認申請について規定しています。これらの条文に基づき、承認申請書に添付すべき資料の要件が定められています。
なお、現行法である医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬機器等法)においても、対応する規定(第23条の2の5等)に基づき、本通知の考え方は引き続き適用されています。
2. 試験成績書の記載要件
2.1 適用される規格
本通知において、試験成績書の記載要件の基準として挙げられているのは以下の2つの規格です。
第一に、国際標準化機構(ISO)が定めるISO17025「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」があります。この規格は、試験所および校正機関が特定の試験または校正を実施する能力があることを実証するための要求事項を規定した国際規格です。
第二に、日本工業標準規格(現:日本産業規格)JIS Q17025「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」があります。これはISO17025を翻訳し、技術的内容を変更することなく日本工業規格として制定したものです。
これらの規格には、試験報告書に対する詳細な要求事項が含まれており、試験所の品質マネジメントシステムの一環として、試験報告書の作成方法が規定されています。
2.2 必要な記載事項
本通知では、試験成績書に記載すべき「必要な事項」として、以下の項目が例示されています。
「題目」は、試験の内容を端的に示すタイトルであり、何の試験を実施したかが明確に分かるように記載します。例えば「生物学的安全性試験(細胞毒性試験)」「電気的安全性試験」などが該当します。
「試験所の名称及び所在地」は、試験を実施した機関の正式名称と住所を記載します。これにより、試験の実施主体が明確になり、必要に応じて追加情報の照会が可能となります。
「試験報告書の識別(一連番号等)」は、試験報告書を特定するための固有の識別子です。報告書番号、発行日、版数などを含めることで、複数の試験報告書が存在する場合でも確実に特定できるようにします。
「試験方法」は、どのような手順・条件で試験を実施したかを記載します。適用した規格(JIS、ISO等)や試験条件、使用した試験装置なども含めて記載することが望ましいです。
「試験検体情報」は、試験に供した検体(サンプル)に関する情報です。製品名、型式、ロット番号、製造日、サンプリング方法などを記載し、試験対象が明確に特定できるようにします。
「試験の実施日」は、試験を実施した日付または期間を記載します。試験の妥当性や結果の有効期限を判断する上で重要な情報となります。
「試験の結果」は、試験によって得られたデータおよびその評価結果を記載します。判定基準と照らし合わせた合否判定も含めて記載することが一般的です。
「発行者の署名等」は、試験報告書の発行責任者による署名または記名押印です。電子署名の場合は、その旨を明記します。これにより、報告書の正式な発行が確認できます。
2.3 「必要な事項」の解釈
本通知において重要なのは、「必要な事項(少なくとも、…)」という表現です。これは、上記に例示された項目が最低限記載すべき事項であることを示しています。「少なくとも」という表現が用いられていることから、これらの項目は必須であり、省略することは認められません。
一方で、ISO17025/JIS Q17025には、上記以外にも多くの要求事項が含まれていますが、それらの全てを満たす必要はないことが明確にされました。例えば、試験所の認定番号、測定の不確かさの記載、サンプリング計画の詳細など、規格で要求されている項目であっても、承認申請の観点から必要性が低いものについては、必ずしも記載する必要はありません。
ただし、審査において追加の情報が求められる場合もあるため、試験の内容や目的に応じて、適切な情報を記載することが望ましいといえます。
3. 室長通知の改正内容
3.1 改正の概要
本通知により、平成17年2月16日付けの室長通知「医療機器の製造販売承認申請に際し留意すべき事項について」の一部が改正されました。改正箇所は「第3 製造販売承認申請書に添付すべき資料の取扱い及び作成上の留意点」の部分です。
3.2 改正前後の比較
改正前の室長通知では、試験成績書について「(ISO17025又はJIS Q17025の要求事項)を満たしていなければならない。」と規定されていました。この表現では、ISO17025/JIS Q17025の全ての要求事項を満たす必要があると解釈される余地がありました。
改正後は、「(ISO17025又はJIS Q17025の要求事項)のうち、必要な事項(少なくとも、題目、試験所の名称及び所在地、試験報告書の識別(一連番号等)、試験方法、試験検体情報、試験の実施日、試験の結果、発行者の署名等)が記載されたものでなければならない。」と改められました。
この改正により、試験成績書に記載すべき事項が具体的に明示され、申請者にとって必要な対応が明確になりました。
3.3 改正の意義
この改正の意義は、規制の明確化と申請者の負担軽減にあります。
規制の明確化という観点では、従来は「要求事項を満たす」という抽象的な表現であったものが、具体的な記載項目として明示されました。これにより、申請者と審査側の双方において、試験成績書の要件に関する解釈の相違が生じにくくなりました。
申請者の負担軽減という観点では、ISO17025/JIS Q17025の全ての要求事項を満たす必要がないことが明確になったことで、試験成績書の作成に係る作業量が軽減されました。特に、試験所の認定を受けていない社内試験所で実施した試験の結果を提出する場合などにおいて、過度な文書作成の負担が解消されました。
4. 実務上の留意点
4.1 試験成績書作成時のポイント
試験成績書を作成する際には、本通知で示された必要な記載事項を漏れなく含めることが重要です。特に以下の点に留意する必要があります。
試験検体情報については、申請品目との同一性が確認できるよう、十分な情報を記載することが求められます。承認申請書に記載された仕様と試験検体の仕様が一致していることが確認できるようにしておく必要があります。
試験方法については、再現性が確保できる程度に詳細な情報を記載することが望ましいです。特に、公定試験法ではない独自の試験方法を採用している場合には、その妥当性が確認できるよう、十分な情報を提供することが重要です。
試験の結果については、生データだけでなく、判定基準に照らした評価結果も含めて記載することが一般的です。規格に適合しているかどうかの判定が明確に分かるようにしておくことが重要です。
4.2 外部試験機関を利用する場合
外部の試験機関に試験を委託する場合には、試験報告書に本通知で求められている記載事項が含まれているかを確認することが重要です。ISO17025の認定を受けた試験所であれば、通常、規格に準拠した試験報告書が発行されるため、必要な事項は網羅されていると考えられます。
一方で、認定を受けていない試験機関の場合には、試験報告書の様式や記載内容が異なる場合があるため、事前に記載事項を確認し、必要に応じて追加情報の記載を依頼することが望ましいです。
4.3 社内試験を実施する場合
社内の試験設備を用いて試験を実施する場合にも、本通知で示された記載事項を含む試験成績書を作成する必要があります。社内試験であっても、試験の信頼性を担保するため、試験手順書の整備、試験装置の校正管理、試験者の教育訓練など、適切な品質管理体制を構築しておくことが重要です。
また、社内試験所の名称・所在地についても明確に記載し、試験の実施主体が特定できるようにしておく必要があります。
まとめ
本通知は、医療機器の製造販売承認申請に添付する試験成績書について、ISO17025/JIS Q17025の全要求事項を満たす必要はなく、必要項目のみを記載すれば足りるという重要な方針を明確化したものです。これにより、社内試験や外部試験の報告書作成における負担が大幅に軽減され、申請の効率化が期待できます。
一方で、試験方法の妥当性、検体情報の整合性、結果評価の適正性など、承認審査で重視されるポイントは製品特性によって異なるため、適切な記載内容を判断するには専門的な知識が不可欠です。また、ISO17025のどの項目が「必須」で、どれが「任意」と扱えるのかの判断も実務では悩みやすい部分です。
弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、試験成績書の作成支援、内容確認、申請資料の整合性チェック、PMDA対応など、承認申請全体をトータルでサポートしています。
試験報告書の書き方に迷われている方、ISO17025対応が必要か判断したい方、申請負担を減らしたい企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。最適な申請戦略をご提案いたします。