概要
本記事では、平成21年7月1日に厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室から発出された事務連絡「組合せ医療機器、複数の一般的名称が該当する品目に係る質疑応答集(Q&A)(その1)」について解説します。
この質疑応答集は、複数の一般的名称に該当する品目や組合せ医療機器の取扱いについて、製造販売届出、製造販売認証申請、製造販売承認申請における具体的な運用を明確にするために作成されました。平成20年2月15日付け薬食機発第0215001号「複数の一般的名称に該当する医療機器に係る製造販売認証申請の取扱いについて(その1)」(複数一般的名称通知)および平成21年3月31日付け薬食機発第0331002号「組合せ医療機器に係る製造販売承認申請、製造販売認証申請及び製造販売届出に係る取扱いについて」(組合せ通知)の具体的な運用について、52項目のQ&Aとして整理されています。
本Q&Aは各地方厚生局、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、日本医療機器産業連合会、各業界団体、薬事法登録認証機関協議会代表幹事にも送付されており、医療機器の薬事申請実務における重要な参照資料となっています。
1. 組合せ通知の基本的な考え方
1.1 組合せ通知の主旨
組合せ通知の主旨は、従来から組合せ医療機器として一品目の範囲で取り扱われてきた品目、および今後組合せ医療機器として一品目の範囲で取り扱うことが適切である品目について、当該組合せ医療機器の製造販売届出、製造販売認証申請および製造販売承認申請における留意事項を定めることにあります。
1.2 対象となる組合せ医療機器の範囲
組合せ通知の対象となる組合せ医療機器とは、臨床上の必要性が認められる範囲で、主として複数の医療機器を接続せずに単に組み合わせたもの、または複数の医療機器をあらかじめ接続して組み合わせたものを指します。
複数の医療機器を接続せずに単に組み合わせたものの具体例としては、血管造影キット、動脈採血キット、創部用ドレナージキット、歯科用充填材料キット、金属マーカとイントロデューサを組み合わせたもの、単回使用吸引生検針と滅菌済みシリンジを組み合わせたものなどがあります。
複数の医療機器をあらかじめ接続して組み合わせたものの具体例としては、輸液ポンプ用輸液セット、透析用血液回路セット、呼吸回路セット、人工心肺用回路システムなどがあります。
また、構成機器等に個別の一般的名称があるため、複数の一般的名称に該当することになる品目(装置製品の事例)として、内視鏡と単回使用鉗子栓を組み合わせたもの、ビデオプロセッサ装置とカメラヘッドを組み合わせたもの、内視鏡用シースと各種オブチュレータを組み合わせたものなどがあります。
1.3 臨床上、必要性が認められる範囲の具体的内容
組合せ通知が対象とする組合せ医療機器は「臨床上、必要性が認められる範囲」とされていますが、具体的には以下の両方に該当するものを指します。
第一に、臨床上の診断、治療、処置等、または臨床に用いる製作物の作製(例えば、歯科などの技工に用いる材料等)において、一連(同時、順次又は継続的)の処置、作業に必要と認められる妥当な範囲内の医療機器を組み合わせたものであることが必要です。
第二に、上記における組み合わせる医療機器の範囲は、当該医療機器を適用する患者等又は使用者(術者等)の多様性に対応するため若しくは使用者の利便性向上のために必要な範囲内のものに限るものとされています。
「臨床上、必要性が認められる範囲」については、必要により総合機構に相談することができます。
2. 一般的名称の選択ルール
2.1 基本的な選択ルール
組合せ医療機器における一般的名称の選択は、組合せ通知および承認申請留意事項通知を参考にし、別紙1の「組合せ医療機器における一般的名称の選択ルール」に従って選択します。
基本的な流れとしては、まず組合せ医療機器を構成する医療機器および組合せ医療機器全体を総称する一般的名称をリストアップします。次に、組合せ医療機器を構成する医療機器および組合せ医療機器を総称する一般的名称から製造販売届出、製造販売認証若しくは製造販売承認のどれに該当するか判断します。そして、組合せ医療機器全体を総称する一般的名称があるかどうか検討します。
総称する一般的名称がある場合は、その一般的名称を選択します。承認品目の場合は、原則として個々の構成医療機器のうち最も高いクラス分類に該当する医療機器と同じクラス分類に該当する一般的名称を選択します。
総称する一般的名称がない場合、または認証品目の場合で総称する一般的名称が指定管理医療機器に該当しない場合は、主たる性能から判断して最も適切であると考えられる一般的名称を選択します。
2.2 類別欄の記載方法
一般的名称として「単回使用クラスI処置キット」「単回使用クラスII処置キット」「単回使用クラスIII処置キット」または「単回使用クラスIV処置キット」を選択した場合、類別欄は構成医療機器のうち最も高リスクに分類される医療機器の類別を記載します。最も高リスクに分類される医療機器が複数になる場合には、主たる性能から判断して最も適切であると考えられる類別を選択します。
2.3 承認申請時の留意点(クラスIVを含む場合)
単回使用遠心ポンプ(クラスIV)を組み合わせた人工心肺用回路システム(クラスIII)の例のように、クラスIVの構成品を含む場合には特別な留意が必要です。
名称欄に記載する一般的名称は、全体を総称する一般的名称として「人工心肺用回路システム」(クラスIII)を選択することで差し支えありませんが、「単回使用遠心ポンプ」(クラスIV)を含むことから、承認審査はクラスIV品目として取り扱うこととなります。そのため、製造販売する品目の製造所欄の適合性調査申請提出予定先は総合機構を選択するとともに、備考欄に記載するクラス分類はクラスIVを選択し、その選択理由を説明する必要があります。
3. 申請書類の記載方法
3.1 構成医療機器の形状、構造及び原理欄の記載
既承認医療機器等である組合せ医療機器の構成医療機器については、個々の名称(一般的名称及び販売名)、製造販売承認番号等及び製造販売業者の名称(自社の場合は「自社」と記載する。)を記載します。
構成医療機器のうち、承認品目から移行認証申請によって認証された品目がある場合、承認番号がそのまま認証番号となることから、番号だけでは認証品目であるかどうか判断できません。このように移行認証した品目を構成医療機器とする組合せ医療機器について製造販売認証申請を行う場合、形状、構造及び原理欄の記載において、移行認証品目については下記の記載例に沿ってその旨を記載します。
3.2 接続した組合せ医療機器の全体図記載
あらかじめ複数の構成医療機器を接続した組合せ医療機器の場合、接続した状態の全体図を記載することとされています。ただし、組合せが多数に及ぶ場合には、接続する構成医療機器の組合せのバリエーションの事例を示し、当該組合せ医療機器全体が把握できる内容としておくことで差し支えありません。
例えば、人工心肺用回路システムにおいては、大まかな心肺回路全体の代表例を図示して説明し、必要に応じて心筋保護液用回路などの個別の回路の代表例を図示・説明することができます。さらに、構成医療機器がどの回路に含まれているか、その概略が分かるように、星取表等を用いて説明することもできます。組合せ医療機器の全体像を説明することが目的であるので、構成医療機器を一般的名称等で総称するなどして概略を示すことでよく、数量等を限定する必要はありません。
3.3 品目仕様の設定
組合せ医療機器全体の品目仕様として設定する具体的な例としては、以下のようなものが考えられます。
カテーテルやシリンジ等をあらかじめ接続した状態若しくは接続していない状態で組み合わせ、包装して滅菌した製品においては、無菌性保証の担保を品目仕様として設定することが考えられます。
人工肺、人工心肺用貯血槽をチューブ等であらかじめ接続した人工心肺用回路システムにおいては、接続部分の引抜き強度や、回路全体の耐圧性能を品目仕様として設定することが考えられます。
複数の医用電気機器を組み合わせた医療機器の場合、組み合わせた全体の医療機器に対してJIS T 0601-1、0601-1-1及び0601-1-2に規定された安全性の項目を品目仕様として設定することが考えられます。
4. 簡略記載と詳細記載の判断基準
4.1 簡略記載が可能な条件
組合せ通知の別紙2の(2)において、「既に製造販売認証を受けている医療機器、製造販売認証申請中である医療機器又は既に製造販売届出されている一般医療機器(既認証医療機器等)については、次のとおり簡略記載ができるものとする。」とされています。
ただし、指定管理医療機器に該当する(認証基準が定められており当該基準に適合する)ものについて、これを構成医療機器として組み合わせて認証申請する場合、原材料については供給元から詳細な情報が開示されていないことから、原材料の詳細を記載できないが、既承認の医療機器として簡略記載することは認められるかという疑問が生じます。
認証においては、既承認の医療機器であっても、指定管理医療機器に該当する構成医療機器については、認証基準への適合性についてあらためて認証を受ける必要があることから、既承認の医療機器であっても認証申請書において簡略記載することはできず、詳細記載を行って、組合せ医療機器として認証を受けなければなりません。
簡略記載の対象となる既認証医療機器等は、新規に認証された品目、移行認証された品目、製造販売届出された品目のみとなります。ただし、当該構成医療機器について認証基準への適合を説明するにあたり、原材料の生物学的安全性等については、その承認前例を根拠に説明することが可能な場合もあります。
4.2 構成医療機器が承認・認証申請中の場合
構成する医療機器が承認若しくは認証申請中の場合においても、簡略記載することが可能とされています。ただし、当該組合せ医療機器の承認若しくは認証審査においては、構成する医療機器の審査が完了したことを確認しないと審査が完了しません。この場合は、申請者が構成する医療機器の承認若しくは認証審査の状況について、組合せ医療機器の審査担当者に連絡することでよいとされています。
4.3 指定管理医療機器を構成品とする場合の取扱い
既に承認を取得している医療機器であって、指定管理医療機器(認証基準が定められており当該基準に適合する)ものについて、これを構成医療機器として組み合わせて認証申請する場合、当該構成医療機器に係るQMSの適合性については、承認審査において既に確認されていることから、既承認の医療機器を構成医療機器として用いる場合であっても、製造方法欄の記載において既認証医療機器等と同様に構成医療機器の名称(一般的名称及び販売名)、製造販売承認番号及び製造販売業者の名称を記載し、当該構成医療機器の受入れ以降の組合せ医療機器の製造工程について記載するのかという疑問が生じます。
すでに承認を取得している医療機器であっても、当該品目を指定管理医療機器たる構成医療機器として認証申請に含める場合は、認証基準への適合確認が必要となることから、A13にも記載のとおり、製造方法欄も含めて簡略記載はできないものとなります。
5. その他の実務的な留意事項
5.1 有効期間の設定
有効期間が異なる医療機器を組み合わせる場合、組み合わせる構成医療機器の有効期間に合わせてそれぞれに設定することで差し支えありません。例えば、有効期間3年の医療機器Aと医療機器B、並びに有効期間2年の医療機器Cのいずれか同士を組み合わせる場合に、医療機器Aと医療機器Bとのみを組み合わせる場合は有効期間3年、医療機器Aと医療機器Cとを組み合わせる場合は有効期間2年とするなど、組み合わせる内容によって、異なる有効期間を設定することができます。
5.2 供給証明書の記載事項
供給証明書には、販売名、承認(認証)番号等、一般的名称(JMDNコード)、(滅菌医療機器の場合)承認を受けた滅菌方法と供給する状態(未滅菌か滅菌済みかの別)が記載されていればよいとされています。
供給証明書に記載すべき事項としては、複数の医療機器を単に組合せた医療機器の場合でも、あらかじめ接続している(組立工程を有する)医療機器の場合でも同様であり、いずれも供給される形態に合わせた内容のものとなります。また、写しを用いる場合は、原紙と相違ない旨の陳述書も添付することとされています。
「供給証明書」を提出させる意図は、既に承認(認証)又は届出されている医療機器を構成医療機器とする場合には、その承認(認証)又は届出内容について簡略記載ができるものであることから、当該構成医療機器が適正に承認(認証)又は届出されたものであることを、供給者の陳述によって担保することが目的です。
5.3 リスク分析の記載
組合せ医療機器の承認(認証)申請において、資料概要(又は添付資料)の「6. リスク分析」の記載にあたっては、当該組合せ医療機器に係るリスクマネジメントの結果、重大なハザードとして特段にリスクの低減措置を実施したものがあれば、資料概要(又は添付資料)の「6.2 重要なハザード」に記載することとされています。
5.4 滅菌に関する考慮事項
滅菌済みの医療機器を構成医療機器として含む組合せ医療機器の場合であって、構成する医療機器が複数の滅菌方法による場合、製品への滅菌方法の表示については、日本工業規格等で一部の医療機器においては表示することが義務づけられていますが、そうでない医療機器も含め(後者においては薬事法上の表示義務はないものの)、使用者への注意喚起などの目的で構成医療機器ごとに適切に区別して表示することが望ましいとされています。
組合せ医療機器において、同一又は異なる方法の滅菌を重ねて行う場合においては、適切な評価項目(耐圧性試験等)を設定し確認することで差し支えありません。例えば、最終的にEOG滅菌を行う人工心肺用回路システムにおいて、構成医療機器として組み込む人工心肺用熱交換器が滅菌済みで供給される場合など、二重滅菌後に耐圧性の確認を行うことは認められています。ただし、放射線滅菌を行うものにあっては、承認申請留意事項通知で「放射線滅菌を行う医療機器にあっては、製造方法に関する資料に記載した最大照射線量(ワーストケースに相当する線量)で滅菌したもの又は2倍の効果を持つ滅菌条件(例えば、線量、時間)で滅菌したものについて、滅菌直後及び6ヵ月後以上経過後(有効期間が6ヶ月未満のものは除く。)の性状、強度試験等材質劣化に関する資料を添付すること。」が求められている点にも留意する必要があります。
5.5 医薬品を構成品とする場合
医薬品を構成品とする場合は、組合せ通知2. (3) ③に「全体を包装して滅菌したものであって」と記載がありますが、未滅菌状態で組合せ医療機器の構成品とすることは可能です。ただし、医薬品として承認された製造販売形態で組み合わせ、かつ、全体を包装して滅菌した場合に限るものとされています。
まとめ
本Q&Aは、組合せ医療機器や複数の一般的名称に該当する品目について、申請区分の判断、一般的名称の選択、簡略記載の可否、品目仕様設定など、薬事申請に直結する重要な実務ポイントを整理した資料です。これらの判断を誤ると申請差戻しや審査遅延につながるため、慎重な対応が求められます。
特に、組合せ医療機器の対象範囲の理解、クラス分類に基づく一般的名称の選択、指定管理医療機器を含む場合の詳細記載要件などは、実務者が迷いやすい部分です。また、構成品の承認状況や滅菌方法の組み合わせによって、必要資料やリスク評価も大きく変わります。
組合せ医療機器の申請は複雑で、前例確認や総合機構への相談が不可欠です。弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、組合せ医療機器の一般的名称選択、申請戦略立案、申請書作成支援まで一貫してサポートしております。
自社品の該当性判断や最適な申請方法でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。