概要

令和7年4月8日付けで厚生労働省より発出された通知は、家庭でのシリンジ法による精子の膣内挿入に使用される医療機器について、新たな一般的名称「家庭用精液注入用シリンジ」を設定したことを周知するものです。これまで「精液注入用子宮カテーテル」として届出されていた製品のうち、実際は家庭用として使用されているものについて、より実態に即した規制を行うための措置となります。本通知では、既存製品の取扱いや製造販売時の注意事項について具体的な指示が示されています。

1. 一般的名称の新設背景と意義

1.1 従来の規制上の課題

これまで家庭でシリンジ法により精子を膣内に挿入するための製品は、「精液注入用子宮カテーテル」という一般的名称で製造販売の届出が行われていました。しかし、「精液注入用子宮カテーテル」は本来、医療機関において子宮内に精液を注入するための医療機器を指すものであり、家庭での使用を前提とした製品とは使用環境や使用方法が大きく異なっていました。

1.2 新設の目的

今回の一般的名称の新設は、医療機器の実際の使用実態に即した適切な規制を行うことを目的としています。家庭用と医療機関用では、求められる性能や安全性の観点が異なるため、それぞれに適した規制を設けることで、使用者の安全性を確保しつつ、製品の適正な流通を促進することが期待されます。

2. 新旧一般的名称の定義と相違点

2.1 家庭用精液注入用シリンジの定義

新設された「家庭用精液注入用シリンジ」は、「家庭において、シリンジ法にて精子を膣内に挿入するために用いるシリンジ型の製品」と定義されています。重要な点として、本品は単回使用であることが明記されており、再使用による感染リスクを防ぐ設計となっています。

2.2 精液注入用子宮カテーテルとの違い

一方、「精液注入用子宮カテーテル」は「子宮内精液注入手法において精子を子宮内に挿入するために用いる、半剛性または剛性の管」と定義されています。両者の主な相違点は以下の通りです。

家庭用精液注入用シリンジ精液注入用子宮カテーテル
使用場所家庭医療機関
挿入部位膣内子宮内
形状シリンジ型半剛性または剛性の管
使用者一般使用者医療従事者

3. 既存製品の移行手続き

3.1 対象となる製品

既に「精液注入用子宮カテーテル」として製造販売届出を行っている製品のうち、実際は家庭でのシリンジ法による使用を目的としており、新設された「家庭用精液注入用シリンジ」の定義に該当する製品が対象となります。

3.2 移行期限と手続き

該当する製品については、本通知発出から遅くとも1年を経過するまでに、一般的名称欄の変更を行う製造販売届出事項変更届書を提出する必要があります。この移行期間は、製造販売業者が適切な準備を行い、円滑な移行を実現するために設けられています。

4. 製造販売時の注意事項

4.1 主なリスクの認識

家庭用精液注入用シリンジは専ら家庭で使用されることから、以下の主なリスクが想定されます。

感染リスク

  • 医療機器の再使用による感染
  • 不衛生な取り扱いによる感染
  • 適切な滅菌状態の維持が困難

受診機会の喪失による妊娠機会の喪失

  • 家庭では精液性状等の確認が適切にできない
  • シリンジ法と医療機関での子宮内注入では確実性が異なる
  • 従来の医療機関での方法と比較して有効性・安全性が劣る可能性

4.2 情報提供の必要性

製造販売業者は、個別製品の特性を踏まえた使用方法を考慮し、注意事項情報等において以下の点について使用者に適切な情報提供を行う必要があります。

  • 医療機器使用に伴うリスクの明確な説明
  • 適切な使用方法と使用上の注意
  • 医療機関への受診が推奨される状況の明示
  • 製品の限界と医療機関での治療との違い

5. 今後の対応と留意点

5.1 製造販売業者の対応

製造販売業者は、以下の点に留意して対応を進める必要があります。

短期的対応(1年以内)

  • 該当製品の特定と分類
  • 製造販売届出事項変更届書の準備と提出
  • 添付文書等の改訂準備

中長期的対応

  • 使用者への適切な情報提供体制の構築
  • 製品の安全性確保のための品質管理強化
  • 市販後調査による安全性情報の収集

5.2 医療機関との連携

家庭用製品であっても、適切なタイミングでの医療機関受診を促すことが重要です。製造販売業者は、以下の観点から医療機関との連携を考慮すべきです。

  • 製品使用前の医療機関受診の推奨
  • 一定期間使用しても妊娠に至らない場合の受診勧奨
  • 異常を感じた場合の速やかな受診指示

まとめ

今回の通知により、「家庭用精液注入用シリンジ」が新たに一般的名称として設定され、家庭でのシリンジ法による使用実態に即した規制が導入されました。製造販売業者においては、1年以内の届出変更や添付文書の見直しを含む対応が求められるとともに、感染リスクや適切な医療機関受診の重要性について、使用者への情報提供も強化する必要があります。

本通知への対応にあたって、該当製品の判定や手続き内容、表示・添付文書の見直し等についてご不明な点がございましたら、ぜひ弊社までお気軽にお問い合わせください。法規対応の専門スタッフが、御社の状況に応じて丁寧にサポートいたします。

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