概要
医療機器は、私たちの健康や医療を支える重要な機器ですが、その定義や分類、規制については理解が難しい面があります。本稿では薬機法(医薬品医療機器等法)における医療機器の定義、クラス分類、規制の仕組みについて解説します。医療機器は人や動物の疾病の診断・治療・予防、または身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的とした機械器具であり、その危険度に応じて4段階のクラスに分類されています。この分類に基づき、製造販売業の許可区分や規制手続きが決まる仕組みとなっているのです。医療機器業界に参入を検討している方々にとって、基本的な知識となる内容をわかりやすくまとめました。
1. 医療機器の定義
1.1 薬機法における医療機器の定義
薬機法(医薬品医療機器等法)第2条第4項では、医療機器を以下のように定義しています。
「人もしくは動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用されること、または人もしくは動物の身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具であって、政令で定めるもの」
つまり、医療機器とは次の2つの目的を持つ機械器具を指します。
- 疾病の診断、治療、予防に使用される機械器具
- 身体の構造、機能に影響を及ぼす機械器具
1.2 医療機器と非医療機器の区別
同じ形状や構造を持つ製品でも、その「目的」によって医療機器かどうかが決まります。例えば:
- コンタクトレンズ、体温計、家庭用マッサージ器などは医療機器です
- 運動器具、福祉器具などは医療機器ではありません
例として、エルゴメーターが挙げられます。エルゴメーターはトレーニング用に使用されるものは非医療機器ですが、運動負荷の検査やリハビリに使用される場合には医療機器に該当します。このように「目的」が重要な判断基準となるのです。
2. 医療機器のクラス分類
2.1 リスクに基づく4段階の分類
医療機器は、不具合が起きた際の人体に対するリスクの大きさによって、クラスⅠ(低リスク)からクラスⅣ(高リスク)までの4段階に分類されています。
- クラスⅠ(一般医療機器):リスクが低い
- 例:救急絆創膏、副木、舌圧子、手術用手袋など
- 不具合が生じても人体への影響が低い
- クラスⅡ(管理医療機器):リスクが比較的低い
- 例:X線撮影装置、心電計、超音波診断装置、血圧計、補聴器、家庭用マッサージ器、コンドーム、MRIなど
- 比較的人体への影響が低い
- クラスⅢ(高度管理医療機器):リスクが比較的高い
- 例:透析治療装置、人工透析器、縫合糸、輸液ポンプ、自動膵臓、人工骨、人工心肺装置、多人数用透析液供給装置、成分採血装置、人工呼吸器など
- 比較的人体への影響が高い
- クラスⅣ(高度管理医療機器):リスクが極めて高い
- 例:ペースメーカー、植込み型除細動器、ステント、人工血管、PTCAカテーテル、中心静脈カテーテル、吸収性体内固定用ボルト、プログラムなど
- 不具合が生じると生命の危険に直結する可能性がある
2.2 クラス分類に応じた販売規制
クラス分類に応じて、販売に関する規制も異なります。
- クラスⅠ(一般医療機器):基本的に手続き不要(特定保守管理医療機器を除く)
- クラスⅡ(管理医療機器):管理医療機器販売業届が必要(特定保守管理医療機器を除く)
- クラスⅢ、Ⅳ(高度管理医療機器):高度管理医療機器等販売業許可が必要
3. 医療機器の製造販売に関する規制
3.1 製造販売業の許可区分
医療機器を製造販売するためには、取り扱う医療機器のクラスに応じた製造販売業の許可が必要です。
- 第一種医療機器製造販売業許可:高度管理医療機器(クラスⅢ、Ⅳ)の製造販売に必要
- 第二種医療機器製造販売業許可:管理医療機器(クラスⅡ)の製造販売に必要
- 第三種医療機器製造販売業許可:一般医療機器(クラスⅠ)の製造販売に必要
なお、上位の許可を持っていれば下位の許可も有しているとみなされます。つまり、第一種医療機器製造販売業許可を取得すれば、クラスⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳのすべての医療機器を製造販売することが可能です。
3.2 品目ごとの手続き
医療機器を市場に流通させるためには、製造販売業の許可に加えて、個々の医療機器(品目)ごとに、クラス分類に応じた手続きが必要です。
- クラスⅠ(一般医療機器):製造販売届出
- 手続き先:PMDA(医薬品医療機器総合機構)
- ただし、届出のみで書類の審査はございません。
- クラスⅡ(管理医療機器):
- 認証基準に適合する場合:製造販売認証
- 手続き先:第三者認証機関
- ※民間の審査機関が対応を行います。
- 認証基準がない場合:製造販売承認
- 手続き先:PMDA
- 認証基準に適合する場合:製造販売認証
- クラスⅢ、Ⅳ(高度管理医療機器):製造販売承認
- 手続き先:PMDA
- ※一部クラスⅢの認証基準があるものについては、クラスⅡと同様に第三者認証機関が手続きを行います。
新医療機器の場合は、クラスに関係なく承認申請が必要です。
3.3 届出・認証・承認の違い
医療機器の市場への流通には、リスク分類に応じて3種類の手続きがあります。
- 届出:一般医療機器(クラスⅠ)が対象
- 届出を行った時点で製造販売ができます
- 生体へのリスクがきわめて低い一般医療機器が対象
- 認証:認証基準がある管理医療機器(クラスⅡ)が対象
- 医療機器認証の審査の迅速化を行う為、厚生労働大臣の指定を受けた「登録認証機関」が行う業務
- 一般用医療機器よりリスクは高くなりますが、生体へのリスクが比較的低い医療機器が対象
- 承認:認証基準がない管理医療機器(クラスⅡ)および高度管理医療機器(クラスⅢ、Ⅳ)が対象
- 製造販売までの期間・費用ともに最もかかります
- 生体へのリスクが比較的高い、または生命の危険に直結するおそれがある管理医療機器および高度管理医療機器が対象
4. 医療機器の製造業と製造販売業の違い
4.1 製造業と製造販売業の役割の違い
医療機器において、製造業と製造販売業は明確に異なる役割を持ちます。
- 製造業:医療機器を生産するための専門の登録
- 医療機器の物理的な製造を担当
- 製造販売業者からの管理監督を受ける
- 製造販売業:市場に医療機器を出荷するための許可
- 品目ごとに「製造販売承認(認証、届出)」を受ける必要がある(ライセンスホルダー)
- 製品の品質、有効性、安全性に最終的な責任を持つ(出荷判定を行う)
製造業は製造のみ、製造販売業は市場への出荷と責任を持つというように役割が分かれているのです。
4.2 製造業登録が必要な製造工程
製造業の登録が必要となる製造工程は以下の通りです。
- 設計
- 主たる組み立て
- 滅菌
- 国内における最終保管
単体プログラムや記録媒体を有するプログラム医療機器については、製造工程によって登録要件が異なります。
4.3 部材企業としての参入
医療機器の部材供給業者として参入する場合は、製造販売業等の許認可は必要ありません。ただし、取引先となる医療機器メーカー(製造販売業者)から、供給する部材の品質担保を求められることがあります。販売ルート確立のためには、医療機器メーカーへの売り込みが必要であり、医療機器関連の展示会への出展も有効な方法です。
5. 医療機器と医薬品の違い
5.1 品目特性の違い
医療機器と医薬品には大きな違いがあります。
- 品目数:
- 医薬品:約1万7千品目
- 医療機器:20万品目以上(多種多様)
- 品目特性:
- 医薬品:原材料、有効成分の構造、剤形
- 医療機器:構成部品、形状、構造、原理、ソフトウェアなど「モノ」以外も有する
5.2 使用方法と保守の違い
- 使用方法:
- 医薬品:標準的使用(飲む、貼る、注射等)
- 医療機器:手技が重要(専門的技術を要する)、説明やトレーニングが必要
- 保守:
- 医薬品:保存、保管
- 医療機器:保存、保管に加え、保守、修理、アフターサービスが必要
5.3 ライフサイクルの違い
- ライフサイクル:
- 医薬品:開発は長期、ライフサイクル長い
- 医療機器:開発は短く、ライフサイクルが短いもの多数、継続的なマイナーチェンジ
まとめ
医療機器は薬機法において、疾病の診断・治療・予防、または身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的とした機械器具と定義されています。これらは人体へのリスクに応じてクラスⅠ~Ⅳの4段階に分類され、それぞれに応じた規制や手続きが定められています。
医療機器の製造販売には、クラスごとの製造販売業許可が必要であり、さらに個別の品目ごとに届出・認証・承認といった手続きを経る必要があります。製造業と製造販売業の役割は異なり、それぞれの要件や責任範囲を正しく理解することが、スムーズな事業運営の鍵となります。
また、医療機器は医薬品と異なり、品目数が多く、技術的な操作やアフターサービスが求められるほか、製品ライフサイクルが短いという特徴もあります。これらの特性を踏まえ、参入に際しては柔軟で持続可能な体制構築が欠かせません。
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