概要

令和6年3月18日、厚生労働省医薬局医療機器審査管理課より「セラミック製歯科用インプラントに係る評価について」(医薬機審発0318第2号)が発出されました。本通知は、主にジルコニアを原材料とするセラミック製歯科用インプラントの製造販売承認申請において、有効性及び安全性評価の考え方を示す評価指標を定めたものです。

従来、歯科用インプラントの承認基準ではチタン製が主流でしたが、セラミック材料を用いた製品については承認基準が整備されていませんでした。本評価指標の策定により、セラミック製歯科用インプラントの適正かつ迅速な承認審査が可能となります。

本記事では、この評価指標の内容について、適用範囲から具体的な評価項目、臨床試験の要否判断まで、体系的に解説します。

1. 本評価指標の位置づけと適用範囲

1.1 評価指標の法的位置づけ

本評価指標は、承認申請資料の収集及び審査の迅速化等の観点から、製品の評価に対して留意すべき事項を示すものです。重要な点として、本評価指標は法令に基づく基準ではなく、現時点で考えられる事項を示したものであることが明記されています。したがって、承認申請内容に対して拘束力を持つものではありません。

今後の技術革新や知見の集積等を踏まえて改訂される可能性があり、個別の製品特性を十分理解したうえで、科学的な合理性に基づいた対応が求められます。

1.2 適用対象となる医療機器

本評価指標が適用される医療機器は、医薬品医療機器等法に基づく告示(平成16年厚生労働省告示第298号)別表第1に規定される以下の4種類のうち、セラミック製のものです。

第1041号の歯科用骨内インプラント材は、部分的又は全体的に顎骨内に埋植する歯科用インプラントを指し、歯科用インプラントフィクスチャ及び歯科用インプラントアバットメントを含みます。第1042号の歯科用インプラントフィクスチャは、外科的に骨内に埋植する歯科用インプラントの一部であり、スクリュ型及びシリンダ型があります。第1048号の歯科用インプラントシステムは、歯科用インプラント、埋植手術用器材、技工用器具から成るシステムです。第1049号の歯科用インプラントアバットメントは、フィクスチャに固定して上部構造体の支台となるもの又は歯肉治癒まで暫間的に使用するものを指します。

1.3 対象となるセラミック材料

本評価指標において対象とするセラミック材料は、ジルコニアを主成分とするものです。ジルコニア以外のセラミック材料からなる歯科用インプラントについては、個別の材料特性等を考慮した上で、本評価指標の適用可否及びその他の評価事項の追加等を検討する必要があります。

1.4 承認申請上の取扱い

本通知では、承認申請上の重要な取扱いが3点示されています。

第一に、歯科用骨内インプラント材、歯科用インプラントフィクスチャ及び歯科用インプラントシステムについては、歯科用インプラント承認基準においてセラミック材料に係る基準を有していません。そのため、本評価指標に基づき承認された品目を前例とした品目は「承認基準なし(承認基準不適合)」の取扱いとなります。

第二に、歯科用インプラントアバットメントについては、基準適合性を個別に判断することとされています。

第三に、本評価指標のほか、国内外のその他の関連指針を参考にすることも考慮すべきとされています。

2. 基本的事項の明確化

2.1 開発の経緯

製造販売承認申請にあたっては、製品を設計・開発した経緯について明確にする必要があります。具体的には、製品の独自性、改良点、既存品との同等性の観点から、必要な事項を整理します。

2.2 臨床的位置づけ

製品の臨床的位置づけについて、以下の観点から必要な事項を明確にすることが求められます。

既存のチタン製歯科用インプラントと同等のものであるか、既存のチタン製歯科用インプラントに対して即時負荷や早期負荷等の優位性を意図するものであるか、その他アンメットメディカルニーズに対応するものであるかといった点について整理が必要です。

なお、材料固有の発色による審美性は機能回復の観点における必須事項ではないと考えられることから、本評価指標においては対象としていません。ただし、色調に係る審美性の標榜を意図する場合は、臨床的意義と意図する色調を明らかにし、別途評価が必要となる場合があります。

また、金属アレルギーに対して低リスクであることの標榜を意図する場合は、原材料に金属材料が含まれていないこと、あるいは既に得られている知見等から評価が必要となります。

2.3 使用方法の確立

製品の特性に応じた使用方法を確立し、十分な安全性を確保することが求められます。具体的には、歯科用インプラントフィクスチャについて埋入窩の形成方法及び埋入方法等の留意事項、歯科用インプラントアバットメントをフィクスチャに締結する際及び上部構造材をアバットメントに締結する際の締結方法及び推奨トルク、フィクスチャの抜去が必要となった際の留意事項(特に既存のチタン製歯科用インプラントとは異なる懸念事項)を明確にする必要があります。

2.4 併用医療機器

併用医療機器について、歯科インプラント用上部構造材を接続して使用する場合は販売名及び認証番号等により当該機器を特定することが求められます。また、フィクスチャの埋植やアバットメントの締結等に専用の器具を使用する場合は、販売名、一般的名称及び認証・届出番号等により当該器具を特定します。なお、併用する器具を専用品として特定しない場合は、併用医療機器として求められる条件(適合規格、該当する一般的名称等)を規定することで差し支えありません。

3. 品質、性能及び安全性に関する評価

3.1 品質に関する事項

品質評価においては、以下の項目について評価を行います。

原材料については、ISO 13356又はASTM F 1873に適合することが求められます。適合しない場合は、ISO 13356のTable 1に規定された物理的・化学的性質(bulk density、chemical composition、radio activity)を明確にする必要があります。

化学組成については、セラミック材料の化学組成を明確にし、添加材として金属材料等が含まれる場合は、その目的を明らかにした上で当該材料の化学組成についても明確にします。

微細構造については、最終製品又は最終製品と同一の条件で作製された試験体における平均結晶粒径を明確にします。

表面処理された製品の場合は、表面処理方法及び処理条件を明確にする必要があります。外観については、目視観察により形状の異常、表面のバリ、傷、異物の付着・被覆等を認めてはなりません。

安定性については、関連通知に基づいて評価し、適切な保管方法及び有効期間を設定します。熱水安定性についてはISO 13356を参考に評価を行います。

滅菌済みとして供給される製品は、滅菌バリデーション基準又はこれと同等以上の基準に基づき無菌性の担保を図ります。エチレンオキサイドガス滅菌された製品の残留ガス濃度は、関連通知に定められた許容限度に従う必要があります。

リスク分析及びリスク評価は、表面処理による残留物及び疲労強度に関する点も含めてJIS T 14971又はISO 14971によって実施します。

包装については、一次包装は微生物の侵入を防止でき、通常の取扱い、輸送、保管中に製品を適切に保護できるものであること、二次包装は製品及び一次包装を適切に保護できるものであることが求められます。

3.2 安全性に関する事項

生物学的安全性については、JIS T 0993-1又はISO 10993-1、JIS T 6001又はISO 7405、及び関連通知に基づいて評価を行い、安全性を示す必要があります。歯科用インプラントは接触部位が「体内植込」、接触時間が「長期的(永久)」とされており、原則として当該分類に基づく評価が必要です。充填液を介して包装材料が製品と直接又は間接的に接触する場合は、その評価も行う必要があります。

MR安全性については、令和元年8月1日付け通知「植込み型医療機器等のMR安全性にかかる対応について」に基づいて対応を行います。

3.3 性能に関する事項

物理的要求事項として、以下の評価が必要です。

表面粗さについては、表面処理された製品において、算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)又は輪郭曲面の算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)を測定します。

曲げ強さについては、ISO 13356に準じて試験を行い、アバットメントは500MPa以上(2軸曲げ)又は800MPa以上(4点曲げ)、フィクスチャは800MPa以上(4点曲げ)であることが求められます。

疲労強度については、リスク評価によって破損リスクが最も高いと分析された各最終製品を用いて、規定のトルクで締結して組立て、JIS T 6005又はISO 14801に準じて生理食塩水中で疲労試験を実施します。組立構成品の疲労強度の値が既承認品と同等以上であること、もしくは臨床上許容できる値であることが求められます。特に、組立構成品の一部が他社既承認品である場合には、その組合せを疲労試験によるリスク評価の対象として試験を実施しなければなりません。

破壊靭性については、JIS T 6526又はISO 6872に準じて試験を行います。X線造影性を意図する製品については、JIS T 6006又はISO 13116に準じて試験を行います。

化学的要求事項として、溶解性及び分解性についてJIS T 6526又はISO 6872に準じて試験を行い、16時間当たりの溶解量が50μg/cm²以下であることが求められます。

3.4 使用模擬試験

JIS T 6001又はISO 7405の歯科用骨内インプラント使用模擬試験に準じて試験を行います。歯科用インプラントフィクスチャはイヌ顎骨等において、既存のチタン製歯科用インプラントフィクスチャと比較し、十分な骨結合能があること、及び有害事象の有無を評価します。

4. 臨床試験の要否と評価事項

4.1 非臨床試験による評価

形状、寸法及び使用方法等において既承認品に対して新規性がない場合、臨床的有効性及び安全性を示すための臨床評価までは要しません。ただし、この場合においては既承認品との同等性を論点として、品質、安全性、性能に関する各評価項目を通じて、製品の安全性と有効性を適切に評価する必要があります。併用医療機器等がある場合は、併用した場合の評価も必要です。

4.2 臨床試験が必要となる場合

形状、寸法及び使用方法等に新規性があり、非臨床試験のみでは有効性及び安全性に係る評価が不足する又は困難な場合においては、臨床的有効性及び安全性を示すために臨床評価が必要となる場合があります。

臨床試験における安全性評価では、歯科インプラントに起因する痛み、不快感、知覚の変化、感染の徴候等がないこと、又は既存のチタン製歯科インプラント治療と同等であること等を診察と検査により評価します。

有効性評価では、補綴物装着後の動揺、咬合痛の有無及び骨吸収量等を経時的に評価します。フィクスチャとの骨結合の経時的変化を確認するために共鳴振動周波数分析によるインプラント安定指数及び動的歯周組織診査・診断装置による臨床的動揺度を評価することは差し支えありませんが、それのみを主要な評価とせず、歯科用インプラント治療の成否についても評価することが求められます。

5. 表示及び注意事項等情報

直接の容器又は直接の被包等には、以下の事項を記載(表示)しなければなりません。

製造販売業者の氏名又は名称及び所在地、製品及び構成品の名称、「滅菌済み」の旨及び滅菌方法(該当する場合)、製造番号又は製造記号、滅菌有効期間(該当する場合)が必須記載事項です。滅菌済み及び非滅菌の両方の状態で供給される場合には、どちらの状態であるかを明確に記載するか、JIS T 0307又はISO 15223に規定する滅菌済み記号を使用します。

単回使用の場合にはその旨を記載し、特定の貯蔵・保管方法によらなければ品質を確保することが困難である場合、又は3年以内に経時的に品質の低下をきたす製品については、その貯蔵方法及び条件を記載します。

特に注意を喚起する必要のある場合には、警告及び/又は予防措置を記載します。その他、法定表示事項についても適切に記載する必要があります。

まとめ

本評価指標は、ジルコニアを主成分とするセラミック製歯科用インプラントの承認申請における有効性・安全性評価の考え方を体系的に示した重要な通知です。チタン製インプラントとは異なり、承認基準が存在しない品目として個別評価が求められる点、原材料規格(ISO 13356 等)への適合、曲げ強さ・疲労強度・使用模擬試験など具体的な評価要件が示された点は、申請実務上の大きなポイントとなります。

一方で、どこまで非臨床試験で対応できるのか、臨床試験が必要か否かの判断、既承認品との同等性整理、他社製アバットメント等との組合せ評価など、実務上の判断に迷いやすい論点も少なくありません。評価指標は拘束力のある基準ではないため、製品特性に応じた科学的・合理的な説明構築が承認可否を左右します。

弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、セラミック製歯科用インプラントの承認戦略立案、非臨床試験・臨床評価要否の整理、評価指標に基づく申請資料作成支援、PMDA相談対応まで一貫した支援を行っています。
「この設計変更で臨床試験は必要か」「疲労試験の構成は妥当か」「承認基準不適合品目としてどう説明すべきか」などでお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

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