概要

厚生労働省は令和3年1月29日、医薬品医療機器等法(薬機法)の改正に伴い、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売業者及び製造業者に対する法令遵守体制の整備に関するガイドラインを発出しました。本ガイドラインは、令和3年8月1日から施行される法令遵守体制の整備義務に向けて、企業が取り組むべき具体的な方策を示したものです。

近年、製薬業界では承認内容と異なる製造方法での医薬品製造や、副作用報告の遅延、不適切な広告活動など、重大な法令違反事例が相次いで発生しています。これらの背景には、経営層の法令遵守意識の欠如や、総括製造販売責任者等の権限不足、組織的な管理体制の不備などがあることが指摘されてきました。こうした状況を踏まえ、本ガイドラインでは、法令遵守を確実に実施するための体制構築と、責任の所在の明確化を求めています。

1. ガイドライン策定の背景と法令違反の実態

1.1 許可等業者の社会的責務

医薬品等の製造販売、製造、販売等を行う事業者は、国民の生命と健康に直接関わる製品を取り扱う立場にあります。薬機法違反が発生した場合、品質、有効性又は安全性に問題のある医薬品等が流通し、保健衛生上の危害が発生又は拡大する恐れがあることから、これらの事業者には高い倫理観と法令遵守の責務が課せられています。

製造販売業者等は、単に法令を守るだけでなく、積極的に法令遵守体制を構築し、継続的に改善していく必要があります。このような体制の構築は、消費者への安心で安全な医薬品等の供給を可能にし、結果として企業の持続的な成長にもつながるものです。

1.2 法令違反事例の類型と課題

本ガイドラインでは、近年発生した法令違反事例を2つの類型に分類しています。

第一の類型は、違法状態にあることを役員が認識しながら、その改善を怠り、漫然と違法行為を継続するものです。承認書と異なる製造方法で医薬品の製造が行われていることを役員が認識しながら長期間にわたり継続していた事例や、一部変更承認が必要であることを認識しながら改造した医療機器を製造販売していた事例などが該当します。

第二の類型は、適切な業務運営体制や管理監督体制が構築されていないことにより、違法行為を防止、発見又は改善できないものです。副作用情報を管理するシステムや適時報告を行う社内体制が構築されていなかったために副作用報告が常態的に遅延していた事例や、販売情報提供資材の社内チェック体制が不備であったために不適切な広告資材が使用された事例などが含まれます。

1.3 法令遵守に向けた制度的課題

これまでの薬機法では、総括製造販売責任者等の責任者と役員のそれぞれが負うべき責務や相互の関係が明確でなく、責任者による意見申述が適切に行われない状況や、役員による責任者任せといった実態を招く恐れがありました。また、法令遵守や社内体制の構築と運用に責任を有する者が不明確となっている問題も指摘されていました。

2. 法令遵守体制の構築と具体的な措置

2.1 法令遵守体制整備の基本的考え方

製造販売業者等が組織における法令遵守を確保するためには、責任役員及び従業者により法令を遵守して適正に業務が行われるための仕組みを構築し運用する必要があります。法令遵守体制の構築及び運用は、責任役員の責務として明確に位置付けられました。

法令遵守体制の基礎となるのは、製造販売業者等の全ての役職員に法令遵守を最優先して業務を行うという意識が根付いていることです。責任役員は、あらゆる機会をとらえて法令遵守を最優先した経営を行うというメッセージを発信するとともに、自ら法令遵守を徹底する姿勢を示すことが重要です。企業行動規範等に法令遵守の重要性を明確に盛り込み、従業者に対して継続的に発信することが求められます。

2.2 業務の適正を確保するための体制整備

製造販売業者等は、以下の体制を整備しなければなりません。

まず、役職員が遵守すべき規範の策定が必要です。適正に業務を遂行するための意思決定の仕組みとして、意思決定を行う権限を有する者及び当該権限の範囲、意思決定に必要な判断基準、意思決定に至る社内手続等を明確にする必要があります。また、意思決定に従い各役職員が適正に業務を遂行するための仕組みとして、指揮命令権限を有する者、当該権限の範囲及び指揮命令の方法、業務の手順等を明確にすることが含まれます。

次に、役職員に対する教育訓練及び評価の実施が重要です。法令等及び社内規程の内容を役職員に周知し、その遵守を徹底するため、計画的かつ継続的な研修の実施や、法令等や社内規程について相談できる部署や窓口の設置が必要です。また、役職員による法令等及び社内規程の理解やその遵守状況を確認し評価することも重要な要素となります。

2.3 業務の監督体制の確立

製造販売業者等の業務の適正を確保するためには、役職員が法令等及び社内規程を遵守して意思決定及び業務遂行を行っているかどうかを確認し、必要に応じて改善措置を講じるための監督体制が不可欠です。

具体的には、役職員の業務をモニタリングする体制の構築、内部監査部門による法令遵守上のリスクを勘案した内部監査計画に基づく内部監査の実施、責任役員への報告体制の整備が求められます。また、実効性のある内部通報制度を構築し、内部通報の手続や通報者の保護等を明確にすることも重要です。

業務記録の作成、管理及び保存についても適切な体制が必要です。役職員による意思決定及び業務遂行の内容が社内において適切に報告され、事後的に確認できるよう、業務記録の作成、管理及び保存の方法等の文書管理に関する社内規程を定め、適切に運用する必要があります。

3. 責任役員の範囲と責務の明確化

3.1 責任役員の意義と範囲

薬機法改正により、製造販売業者等において法令遵守体制を構築し、薬事に関する法令を遵守するために主体的に行動し、法令違反について責任を負う者として、「薬事に関する業務に責任を有する役員」が法的に位置付けられました。

株式会社においては、会社を代表する取締役及び薬事に関する法令に関する業務を担当する取締役が責任役員となります。指名委員会等設置会社の場合は、代表執行役及び薬事に関する法令に関する業務を担当する執行役が該当します。薬事に関する法令に関する業務を担当しない役員や、いわゆる執行役員は責任役員には該当しません。

3.2 責任役員が担う業務と責任

薬事に関する法令に関する業務とは、医薬品等に係る申請や届出、製造販売、製造管理、品質管理、製造販売後安全管理及び広告等、薬機法の規制対象となる事項に係る業務並びにその他の薬事に関する法令の規制対象となる事項に係る業務を指し、法令遵守に係る業務を含みます。

責任役員は、法令遵守体制の構築と運用について主導的な役割を果たす責務を有しています。社内規程等において責任役員の権限や分掌する業務と組織の範囲を明確に定め、その内容を社内において周知することが求められます。これにより、責任役員が法令遵守の徹底に向けて主体的に対応するという姿勢を従業者に対して示すことができます。

4. 総括製造販売責任者等の権限強化と意見申述

4.1 総括製造販売責任者等の選任要件

総括製造販売責任者等は、医薬品等の製造管理、品質管理、製造販売後安全管理を統括する責任者であり、薬機法及びGQP省令等を遵守して当該業務が遂行されることを確保するための重要な役割を有しています。

製造販売業者等は、総括製造販売責任者等が遵守すべき事項及び行わせなければならない事項を前提として、必要な権限を付与し、その権限の範囲を明確にした上で、当該権限に係る業務を行うことができる知識、経験、理解力及び判断力を有する者を選任しなければなりません。また、製造管理、品質管理、製造販売後安全管理に関する各部門との密接な連携を図りながら、実効的な指示及び監督を行うことができる指導力を有しているかどうか、責任役員に対して忌憚なく意見を述べることができる職務上の位置付けを有するかどうかについても、十分に考慮する必要があります。

4.2 総括製造販売責任者等の意見申述義務

総括製造販売責任者等は、製造管理、品質管理、製造販売後安全管理を公正かつ適正に行うために必要があるときは、製造販売業者等に対し、意見を書面により述べなければなりません。

総括製造販売責任者等は、製造管理、品質管理、製造販売後安全管理に係る業務に関する法令及び実務に精通しており、品質保証責任者、国内品質業務運営責任者及び安全管理責任者等と相互に密接な連携を行い、各種の報告を受ける立場にあることから、法令遵守上の問題点を最も実効的に知り得る者です。総括製造販売責任者等は、自ら主体的かつ積極的に法令遵守上の問題点の把握に努め、関係する部門並びにその責任者及び担当者と密接な連携を図らなければなりません。

4.3 製造販売業者等による意見尊重と措置義務

製造販売業者等は、総括製造販売責任者等の意見を尊重し、法令遵守のために措置を講じる必要があるかどうかを検討しなければなりません。措置を講じる必要がある場合は当該措置を講じ、講じた措置の内容については記録した上で適切に保存しなければなりません。総括製造販売責任者等から意見が述べられたにもかかわらず措置を講じない場合は、措置を講じない旨及びその理由を記録した上で適切に保存する必要があります。

製造販売業者等は、総括製造販売責任者等が意見を述べる方法及び必要な措置を講じる体制を明確にする必要があります。意見を受け付け、措置を講じる必要があるかどうかを検討する責任役員や会議体、当該措置を講じる責任役員を明示することで、実効的な改善サイクルを機能させることができます。

まとめ

本ガイドラインは、医薬品等の製造販売業者及び製造業者が法令遵守体制を構築するための具体的な指針を示したものです。企業は、責任役員を中心とした法令遵守体制を整備し、総括製造販売責任者等の権限を明確化するとともに、その意見を尊重する仕組みを構築することが求められます。

法令遵守体制の構築は、単なる規制への対応ではなく、医薬品等を使用する消費者への安心で安全な供給を可能にし、企業の持続的な成長にもつながる重要な取り組みです。各企業においては、本ガイドラインの考え方を基本としつつ、自社の業態や規模に応じた具体的な取組みを検討し、形式主義に陥ることなく、実効性のある体制を構築していくことが重要です。

また、企業内のガバナンス向上に努める上では、常に医薬関係者や消費者などの外部の視点を意識し、継続的な改善に取り組むことが求められます。法令遵守体制の構築と運用を通じて、製薬業界全体の信頼性向上と、国民の健康と安全の確保に貢献することが期待されています。

御社の業態や規模に応じた具体的な法令遵守体制の構築についてご不明点やご相談がありましたら、ぜひ弊社までお問い合わせください。実務に即したサポートを通じて、適切な体制整備をご支援いたします。

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