概要
平成29年5月17日付で厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課から発出された本通知は、医療機器の基本要件基準第12条第2項(プログラムを用いた医療機器に対する配慮)の適用に関する重要な取り扱いを示しています。
この規定は平成29年11月25日から適用され、プログラムを用いた医療機器の開発ライフサイクル、リスクマネジメント、確認及び検証の方法について、JIS T 2304(医療機器ソフトウェア-ソフトウェアライフサイクルプロセス)への適合を求めるものです。製造販売業者は、医療機器プログラムまたはこれを記録した記録媒体を含む医療機器について、最新の技術に基づく品質と性能の検証を実施する必要があります。
1. 基本要件基準第12条第2項の適用時期と対象
1.1 適用開始時期
基本要件基準第12条第2項は、平成29年11月25日から適用されます。経過措置期間終了日(平成29年11月24日)の翌日以降に製造販売されるプログラムを用いた医療機器が対象となります。
1.2 対象となる医療機器
対象は、プログラムを用いた医療機器全般です。これには医療機器プログラム単体と、プログラムを記録した記録媒体を含む医療機器の両方が含まれます。高度管理医療機器、管理医療機器、一般医療機器のすべてのクラスで適合確認が必要となります。
1.3 適合確認の基本原則
JIS T 2304への適合をもって基本要件基準第12条第2項への適合を確認したものとします。ただし、JIS T 2304以外にも国際的に用いられている適切な規格等がある場合は、それらへの適合性確認も認められます。その際は、承認申請または認証申請において、その規格を用いることの妥当性説明が必要です。
2. 適合性確認の具体的要求事項
2.1 承認・認証申請における対応
経過措置期間終了日の翌日以降に高度管理医療機器または管理医療機器の承認申請・認証申請を行う場合、製造販売業者等はJIS T 2304等への適合性確認が必須となります。申請書添付資料において、適合性の説明が求められます。
2.2 経過措置の取り扱い
経過措置期間終了日までに設計が完了している医療機器については、特別な対応が認められています。JIS T 2304等への完全適合が困難な場合、要求事項と利用可能な情報等との差分を分析し、リスクマネジメントの中で対応することができます。この場合、必要な記録を残すことが重要です。
2.3 体制整備の要求
製造販売業者等は、プログラムを用いた医療機器のライフサイクル、リスクマネジメント、動作確認・検証を適切に実施する体制を整備する必要があります。また、適合に関する確認等を適切に記録し保管することが求められ、調査権者の求めに応じて資料を提示し、適切な説明を行う義務があります。
3. JIS T 2304への適合性説明資料の作成
3.1 基本要件への適合性証拠の記載
承認・認証申請書の添付資料では、基本要件基準第12条第2項への適合を示すため、認知された規格(JIS T 2304)の該当項目への適合と、リスク管理が計画・実施されていることを明記します。
3.2 組織体制とSOPに関する事項
JIS T 2304の各要求事項(一般要求事項、ソフトウェア開発プロセス、保守プロセス、リスクマネジメントプロセス、構成管理プロセス、問題解決プロセス)について、社内規定やプロセスの確立状況を具体的に示す必要があります。
3.3 実施状況の文書化
各プロセスの実施内容を概要として記載し、対応する社内文書名と文書番号を明確にします。ソフトウェア開発計画書、要求仕様書、試験報告書、リスクマネジメントファイル、構成管理記録、変更管理記録など、すべての関連文書を体系的に管理します。
4. リスクマネジメントとの統合
4.1 JIS T 14971との連携
医療機器のリスクマネジメント(JIS T 14971)とソフトウェアのライフサイクルプロセス(JIS T 2304)は密接に連携させる必要があります。ソフトウェア特有のリスク(既製品ソフトウェア、安全性に関わる変更等)を加味したリスク評価の実施が求められます。
4.2 ソフトウェア安全クラスの分類
リスクベースアプローチに基づき、ソフトウェアアイテムの安全クラス分類を決定し、それに応じた開発・保守プロセスを適用します。危険状態を引き起こす可能性のあるソフトウェアについては、適切なリスクコントロール手段を選択し、トレーサビリティを確保することが重要です。
5. 既設計完了品への対応方法
5.1 差分分析の実施
経過措置期間終了日までに設計が完了している医療機器については、JIS T 2304の要求事項と当該医療機器に関して利用可能な情報等との差分を詳細に分析します。
5.2 リスクマネジメントによる対応
差分が存在する場合、その影響をリスクマネジメントの枠組みで評価し、リスクが受容可能なレベルになるよう適切な措置を講じます。この過程では、医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準(QMS省令)、基本要件基準第1条の設計管理、第2条のリスクマネジメントの実施状況も勘案されます。
5.3 記録の保持
差分分析の結果、実施した措置、リスク評価の根拠等、すべての対応について適切な記録を作成し保管します。これらの記録は、将来の調査や監査において重要な証拠となります。
まとめ
本通知により、プログラムを用いた医療機器に求められる品質・安全性確保の実務対応が明確化されました。特に、JIS T 2304への適合やリスクマネジメント(JIS T 14971)との統合的運用は、SaMD(Software as a Medical Device)を扱う企業にとって不可欠な要素となっています。
医療機器製造販売業者は、ソフトウェアライフサイクル全体の管理体制や文書化、SOP整備、差分分析の記録保持などを通じて、形式的な適合にとどまらず実質的な品質保証を実現する必要があります。
弊社「一般社団法人薬事支援機構」では、JIS T 2304/JIS T 14971適合支援、SaMD薬事戦略策定、承認・認証申請資料作成サポートなどを専門的に行っています。
本記事の内容に関してご不明点や社内対応のご相談がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。