概要
平成26年9月25日、厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)より、各都道府県衛生主管部(局)長宛てに「医療機器及び体外診断用医薬品に係る認証の承継手続について」(薬食機参発0925第1号)が発出されました。この通知は、平成25年11月27日に公布された薬事法等の一部を改正する法律(平成25年法律第84号)により、改正後の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)第23条の3の2において新たに設けられた医療機器等の認証取得者の地位の承継規定に基づく具体的な取扱いを定めたものです。
医療機器業界では、企業の合併、事業譲渡、会社分割などの組織再編が活発に行われており、これらに伴う認証の取扱いは重要な課題となっていました。本通知により、医療機器及び体外診断用医薬品(以下「医療機器等」)の認証取得者が変更となる場合の手続きが明確化され、事業承継を円滑に進めることが可能となりました。特に注目すべき点は、承継に伴い登録認証機関を変更する場合の手続きについても新たに規定されたことで、企業のニーズに応じた柔軟な対応が可能となったことです。
1. 承継に関する基本的な手続き
1.1 承継届の提出時期と必要書類
医療機器等の認証取得者の地位を承継する場合、承継の種類により提出時期が異なります。相続以外の承継(合併、分割、事業譲渡等)では承継予定日から起算して原則として1か月前までに、相続の場合は相続後遅滞なく、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(施行規則)様式第68の5による届書を登録認証機関に提出する必要があります。
ただし、この届出時期は目安として示されているものであり、承継の内容が複雑な場合や手続きに疑義がある場合は、余裕を持って登録認証機関に相談することが重要です。特に、初めて承継手続きを行う企業や、複数の品目を同時に承継する場合などは、早期から登録認証機関と協議を開始し、手続きの流れを確認しておくことが推奨されます。
承継者であることを証する書類として、以下のものを添付する必要があります。
まず、承継の根拠となる書類として、相続の場合は遺産分割協議書の写し、合併又は分割の場合は合併契約書又は分割契約書の写し、契約による承継の場合は当該契約書の写しを提出します。合併や分割など登記を必要とするものについては、登記完了後にその謄本を速やかに提出する必要があります。これは、法的に承継が完了したことを証明するために必要な手続きです。
次に、相続の場合を除き、施行規則第118条の2第1項各号に掲げる資料及び情報を承継者に移譲する旨の被承継者の誓約書が必要となります。この誓約書は、認証に関する技術資料、品質管理に関する資料、市販後安全管理に関する情報など、認証取得者として必要な全ての情報が確実に承継者に引き継がれることを保証するものです。
さらに、承継に係る医療機器等の認証書の写しの提出も必要です。被承継者と認証書の氏名が異なる場合(例えば、過去に社名変更や承継があった場合)には、その経緯を示すため、承継届書の写し又は変更届の写しも添付する必要があります。
1.2 販売名変更の特例措置
承継品目については、その認証事項に関して一切変更されることなく承継されることが大原則です。認証事項には、販売名、形状・構造及び原理、使用目的又は効果、使用方法、製造方法、製造所などが含まれ、これらは原則として変更できません。
しかしながら、実務上の必要性から、商号の一部が付されている販売名について特例措置が設けられています。例えば、「ABC社製心電計XYZ」という販売名の製品を、DEF社が承継する場合、「DEF社製心電計XYZ」と変更することが認められています。この場合、当該商号の一部を削除し、又は削除された部分に代えて承継者の商号の一部を使用する販売名の変更に限り、承継届書の販売名欄に新販売名と旧販売名を記載すれば足りるとされています。
この特例措置により、別途認証事項の変更手続きを行うことなく、企業名が含まれる製品名の変更が可能となり、承継手続きが大幅に簡素化されています。ただし、この特例が適用されるのは商号部分の変更のみであり、製品の本体名称部分を変更することはできない点に注意が必要です。
1.3 製造業者の実態に変更がない場合の取扱い
製造業者の実態に変更がない場合においては、製造販売業者間で認証取得者の地位を承継することが認められています。これは、実際に製品を製造している工場、製造設備、製造工程、品質管理体制などに変更がなく、製造販売業者のみが変わる場合を指します。
例えば、A社が製造販売業者として認証を取得し、B工場で製造している医療機器について、C社がA社から事業を譲り受ける場合、B工場での製造実態に変更がなければ、C社は承継手続きにより認証を引き継ぐことができます。これにより、製造現場に影響を与えることなく、スムーズな事業承継が可能となります。
一方、製品の製造を他の製造業者に変更する場合、つまり製造所を変更する場合や、製造方法を変更する場合については、承継手続きだけでは対応できません。このような場合は、認証事項の変更手続きが必要となります。認証事項の変更は、品質、有効性、安全性に影響を与える可能性があるため、適切な審査が必要とされています。なお、この取扱いの詳細については別途通知されることとなっており、製造所変更を伴う承継を検討している企業は、最新の通知を確認する必要があります。
2. 登録認証機関変更を伴う承継手続き
2.1 登録認証機関変更の基本的な考え方
承継に関する手続きは、原則として承継前と同じ登録認証機関に対して届け出ることとされています。これは、認証の継続性を確保し、品質管理の一貫性を保つための基本原則です。しかし、企業の事情により、承継を機に登録認証機関を変更したいというニーズも存在します。
例えば、承継者が既に別の登録認証機関と取引関係があり、管理の一元化を図りたい場合や、地理的な理由により別の登録認証機関の方が利便性が高い場合などが考えられます。このようなニーズに応えるため、本通知では承継に伴い登録認証機関を変更する場合の手続きが定められました。
本通知に基づく手続きを行う場合、登録認証機関における審査手続きを簡略化することができます。これは、既に認証を取得している製品と同一であることが確認できるためです。一方、本通知に基づかない場合でも、承継後に承継者が新たに他の登録認証機関に対して認証申請を行うことは可能ですが、この場合は通常の新規認証申請として全ての審査プロセスを経る必要があり、時間とコストがかかることになります。
2.2 認証申請の期限と手続き
承継品目について他の登録認証機関による認証を希望する場合、承継日から3か月を経た日までに、希望する登録認証機関に対して認証申請を行う必要があります。この3か月という期限は、承継後の事業の継続性を確保しつつ、適切な移行期間を設けるという観点から設定されています。
複数販売名に係る医療機器の場合、特別な配慮が必要です。「医療機器の複数販売名に係る製造販売承認(認証)に関する取扱いについて」(平成17年7月7日付け薬食機発第0707003号)に基づく医療機器の場合、申請書の添付資料が省略されていない医療機器(主たる品目)及び申請書の添付資料が省略されている全ての医療機器(従たる品目)を同時に認証申請することが求められています。これは、複数販売名品目の関連性を維持し、適切な管理を行うためです。
承継日に合わせて他の登録認証機関による認証を希望する場合には、承継日前であっても本通知に基づく認証申請が可能とされています。これにより、承継日に認証の空白期間が生じることを防ぐことができます。ただし、この場合は認証申請しようとする登録認証機関と十分に相談し、承継予定日、必要書類、手続きのスケジュールなどを事前に確認しておくことが重要です。
認証申請書の作成にあたっては、備考欄に「承継時の登録認証機関変更に係る認証申請」と明記する必要があります。また、承継品目に係る認証書(一部変更認証書及び軽微変更届書を含む)の写し及び承継届書の写しを添付します。これらの書類により、申請品目が承継品目と同一であることを証明します。
認証取得後の手続きも重要です。新たな登録認証機関から認証を取得した後は、速やかに承継に関する手続きを行った元の登録認証機関に対して認証整理届書を届け出る必要があります。また、その写しを変更後の登録認証機関にも届け出ることで、両機関での情報共有が図られます。
2.3 登録認証機関による審査手続き
申請を受け付けた登録認証機関では、当該申請を形式上は新規認証申請として扱いますが、実質的な審査においては、承継品目と同一であることを確認した上で、審査手続きを簡略化し、速やかに認証することとされています。
審査の簡略化とは、既に他の登録認証機関で認証を受けている製品と同一であることが確認できれば、技術基準への適合性や品質管理体制などの詳細な審査を省略できることを意味します。ただし、提出された書類の確認、承継の正当性の確認、認証事項の同一性の確認などは適切に行われます。
認証番号の付与についても特別な配慮がなされています。通常の新規認証では新たな認証番号が付与されますが、承継に伴う登録認証機関変更の場合は、承継品目の認証番号を準用して付与することとされています。これにより、製品のトレーサビリティが維持され、市場での混乱を防ぐことができます。具体的な認証番号の付与方法については、別途通知されることになっています。
ただし、認証後においても品質管理は継続されます。認証後に当該承継品目の基準適合性に疑義が生じた場合は、登録認証機関において疑義内容を認証取得者等に確認し、必要に応じて一部変更申請、軽微変更届等の適切な手続きを求めることがあります。これは、認証の信頼性を維持し、医療機器等の品質、有効性、安全性を確保するための重要な措置です。
3. 承継に伴う実務上の留意事項
3.1 承継手続きにおける登録認証機関との連携
承継手続きを円滑に進めるためには、登録認証機関との密接な連携が不可欠です。特に初めて承継手続きを行う企業や、複雑な承継案件を扱う場合は、早期から登録認証機関に相談することが重要です。
相談のタイミングとしては、承継の計画が具体化した段階で、まず登録認証機関に概要を説明し、必要な手続きや書類について確認することが推奨されます。承継予定日の1か月前という届出時期はあくまで原則であり、案件の複雑性や特殊事情を考慮して、より早期から準備を開始することが望ましいです。
登録認証機関との相談において確認すべき事項には、必要書類の詳細、提出時期、承継に伴う販売名変更の可否、複数品目を承継する場合の手続き、登録認証機関変更を検討している場合の手順などが含まれます。また、過去の承継事例や類似案件についての情報提供を受けることも有用です。
医療機器の複数販売名に係る製造販売承認(認証)の取扱いに基づく医療機器の場合は、特に慎重な準備が必要です。主たる品目と従たる品目の関係を正確に把握し、全ての関連品目を同時に申請する必要があるため、品目リストの作成と確認を入念に行う必要があります。
3.2 認証事項の変更に関する注意点
承継においては、認証事項が一切変更されることなく引き継がれることが大原則です。認証事項には、販売名(商号部分を除く)、形状・構造及び原理、使用目的又は効果、使用方法、製造方法、製造所、品質管理の方法などが含まれます。
製造所の変更は特に注意が必要な事項です。製造所を変更する場合は、単なる承継手続きでは対応できず、認証事項の変更手続きが必要となります。これは、製造所の変更が製品の品質に影響を与える可能性があるためです。製造所変更を伴う承継を検討している場合は、承継手続きと認証事項変更手続きの両方が必要となることを認識し、適切なスケジュール管理を行う必要があります。
また、製造方法の変更についても同様の注意が必要です。製造工程の改善や効率化を目的とした変更であっても、認証事項に該当する場合は適切な変更手続きが必要となります。承継を機に製造方法の見直しを検討している場合は、その変更が認証事項に該当するか否かを事前に確認することが重要です。
3.3 承継後の品質管理体制の確保
承継後も医療機器等の品質、有効性、安全性を確保するため、適切な品質管理体制を維持することが求められます。承継者は、被承継者から引き継いだ技術資料、品質管理記録、市販後安全管理情報などを適切に管理し、継続的な品質確保に努める必要があります。
特に重要なのは、QMS(品質管理システム)の継続性です。承継により製造販売業者が変わっても、製品の品質管理体制は維持される必要があります。承継者は、被承継者のQMS体制を理解し、必要に応じて自社のQMS体制に統合する作業が必要となります。この際、品質管理の空白期間が生じないよう、計画的な移行を行うことが重要です。
市販後安全管理についても継続性が求められます。不具合報告、回収情報、顧客からの問い合わせ記録など、被承継者が保有していた安全管理情報は確実に承継者に引き継がれる必要があります。また、医療機関や販売業者への連絡体制も速やかに更新し、承継後も適切な安全管理が行えるよう体制を整備する必要があります。
3.4 登録認証機関変更時の認証整理届の重要性
登録認証機関を変更する場合、新たな認証取得後に元の登録認証機関に対して認証整理届書を提出することは、重複認証を防ぐために極めて重要な手続きです。認証整理届書の提出により、元の認証が適切に整理され、一つの製品に対して複数の有効な認証が存在する状態を防ぐことができます。
認証整理届書の提出時期は、新たな認証を取得した後「速やかに」とされています。実務的には、新認証取得後1週間以内を目安に提出することが望ましいでしょう。また、認証整理届書の写しを新たな登録認証機関にも提出することで、両機関間での情報共有が図られ、適切な移行管理が確保されます。
この手続きを怠ると、市場に同一製品に対する複数の認証が存在することになり、市場の混乱を招く可能性があります。また、不具合報告や回収などの際にも、どちらの認証に基づく対応を行うべきか不明確となり、適切な対応が困難となる恐れがあります。
まとめ
承継手続きの基本は、適切な時期での届出、必要書類の整備、そして登録認証機関との緊密な連携です。本記事では、承継届の提出時期と必要書類、販売名変更における特例措置、登録認証機関を変更する場合の具体的な流れ、さらに承継後の品質管理体制の確保や認証整理届の重要性など、実務上押さえておくべきポイントを詳しく整理しました。
医療機器や体外診断用医薬品の事業承継は、企業の合併や事業譲渡、組織再編などの経営戦略と密接に関わる重要な局面です。承継手続きを適切に進めることで、認証の継続性を確保し、市場での混乱を防ぎながらスムーズな事業移行が可能となります。
弊社では、承継に関わる具体的な手続きの流れや必要書類の作成支援、登録認証機関との調整、複数品目承継や製造所変更を伴うケースへの対応まで、幅広くサポートしております。事業承継を検討されている企業様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。