概要
平成25年5月29日に厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長から発出された通知は、医療機器の原材料変更手続きに関する実務上の疑問点を明確にするための質疑応答集です。この通知は、平成25年3月29日に発出された「医療機器の原材料の変更手続について」の運用を具体化し、医療機器製造販売業者が原材料変更を行う際の手続きを明確にしています。
本通知により、血液・体液・粘膜等に接触する医療機器の原材料変更において、一定の条件を満たす場合には軽微変更届での対応が可能となり、承認書や認証書の変更手続きが不要となる場合が明確化されました。これにより、製造販売業者の事務負担軽減と迅速な製品改良が可能となっています。
1. 適用範囲と除外事項
1.1 血液・体液・粘膜等に接触しない原材料
本通知は血液・体液・粘膜等に接触する原材料の変更を対象としており、これらに接触しない原材料の変更については従来どおり手続き不要です。また、検体検査装置のように採取した血液・体液には接触するものの、検体を人体に戻すことがない医療機器についても本通知の適用外となります。
1.2 体内植込み医療機器の除外
体内植込み医療機器は本通知の適用除外となっています。ここでいう「体内植込み医療機器」とは、医療機器のクラス分類ルールに該当する「植込み型機器および長期外科的侵襲型機器」を指します。ただし、体内植込み医療機器であっても、体内に植え込まれない構成部品については除外の対象とはなりません。
1.3 生物由来原材料を含む医療機器
生物由来原材料を含む医療機器であっても、生物由来原材料以外の原材料の変更については本通知が適用されます。例えば、ヘパリンコーティングカテーテルのカテーテルボディ本体における原材料の変更などが該当します。ただし、医療機器の性能、機能及び安全性が原材料の変更後も同等であることが、新たな試験を実施しなくても説明できる場合に限られます。
2. 軽微変更届による対応の要件
2.1 新たな試験を実施しなくても説明できる場合
軽微変更届による対応が可能となるのは、変更後の性能、機能及び安全性が同等であることが新たな試験を実施することなく説明可能な場合です。具体的には以下の2つのケースが想定されます。
第一に、変更する部位が医療機器の性能及び機能に関与しない部位であることが説明できる場合です。例えば、針付きポリプロピレン縫合糸の針部にコーティングされているシリコーン油を、血液・体液への接触の頻度・程度が同等以上の医療機器にて実績がある他のシリコーン油に変更する場合などが該当します。
第二に、原材料の特性(硬度、粘性など)又は原材料の同等性から医療機器の性能及び機能に変化を与えないことが確認できる場合です。膜型人工肺のハウジングを、原材料の強度及び使用される接着剤等との適合性が変更前後で同等な原材料に変更する場合などが該当します。
2.2 リスク評価の重要性
これらの場合において、変更によって生ずると予見される全てのハザードからリスクを推定し、それが同等であり受容されると説明できることが必要です。原材料変更後の設計・品質確認のために試験実施を妨げるものではありませんが、試験を実施しなかった事実のみでは「新たな試験を実施しなくても説明できる」ことにはならない点に注意が必要です。
3. 使用前例に基づく対応
3.1 使用前例の条件
本通知では、使用前例に基づく軽微変更届による対応についても規定されています。使用前例として認められるためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
①原材料の規格・仕様(物理的特性など)、添加剤の種類及び配合量などが変わらないこと
②本邦と同等の水準にあると認められる承認制度又はこれに相当する制度を有している国で承認等されている医療機器で十分な使用実績があること
③血液、体液又は粘膜等への接触の頻度及び程度が同等以上であること
3.2 対象国と使用実績の考え方
「本邦と同等の水準にあると認められる承認制度」を有する国として、GHTF参加国(米国、欧州、カナダ、オーストラリア)が例示されています。「十分な使用実績」については、ある国で承認を得ていても販売実績がない場合は使用実績があるとは言えず、当該原材料による不具合の発生状況など安全性が把握できる程度の使用実績が必要とされています。
3.3 機密情報への対応
他社製品や海外での使用前例の原材料について、原材料の規格・仕様、添加剤成分の種類、配合量を製造販売業者がすべて確認することが機密情報に該当するため困難な場合があります。このような場合、原材料の供給メーカより、変更予定の原材料が3つの条件を満たした医療機器に使用前例があることの陳述書を入手することで対応可能です。
4. 実務上の留意事項
4.1 自己宣言書の記載
軽微変更届には「適切な変更管理を行った上で対応したことがわかる自己宣言書」の添付が必要です。自己宣言書には、変更が自社製造所における変更管理に基づく変更であること、または製造所からの情報を基に製造販売業者にて行った変更管理に基づく変更であることを記載します。
4.2 別添リストの活用
本通知には使用実績の多い原材料の別添リストが添付されており、このリストに掲載された成分については使用前例があるものとして扱われます。リストは必要に応じて更新される予定で、更新の際には通知されます。リストに掲載されていない原材料であっても、リストに掲載された成分と同等の原材料と考えられるものについては、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談することが推奨されています。
4.3 コンタクトレンズの特別な扱い
コンタクトレンズにおける環状着色のための着色剤については、本通知の条件を満たす原材料への変更又は追加であっても、軽微変更届による対応はできません。コンタクトレンズの添加剤の種類及び量が変更又は追加される場合には、性能、機能及び安全性への影響について原則として変更又は追加後の製品で確認する必要があり、一部変更承認申請が必要となります。
まとめ
本質疑応答集は、医療機器の原材料変更における実務上の疑問を整理し、製造販売業者が適切かつ効率的に手続きを進められるよう支援するものです。特に、軽微変更届で対応できるケースや使用前例を根拠とした変更対応は、開発スピードを高めつつ安全性を確保する上で重要なポイントです。
一方で、具体的な適用可否の判断やリスク評価の妥当性については、ケースごとに専門的な検討が必要となります。
弊社では、原材料変更手続きやPMDAへの相談対応など、実務上のサポートを行っております。記事内容や原材料変更に関する具体的なご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。