概要

平成16年11月15日に厚生労働省から発出された事務連絡「医療機器審査No.19」は、医療機器の製造(輸入)承認申請書における原材料記載について、国際ハーモナイゼーション研究の成果として重要なガイドラインを示しています。

この通知は、医療機器の有効性・安全性評価手法に関する国際的な整合を図るため、平成13年度から実施されてきた厚生科学研究の一環として取りまとめられたものです。従来の記載案が長期間経過により現状に適用しにくくなっていた課題を解決し、医療機器業界からの要望に応える形で策定されました。

本ガイドラインは、医療機器の承認申請における原材料記載の標準化と品質向上を目的とし、ISO10993-18「医療機器の生物学的評価-原材料の化学的キャラクタリゼーション」を参考として作成されています。

1. 背景と制定経緯

1.1 制定の背景

医療機器の製造(輸入)承認申請書の「原材料又は成分及び分量」欄の記載については、従来、ISO/TC194国内委員会により平成11年3月29日に記載案として提示されていたものの、明確なガイダンスが確立されていませんでした。

提案から長年が経過したことにより、現状の原材料設定になじみにくくなってきており、記載要領の設定が医療機器業界から強く要望されていました。

1.2 国際的な環境変化への対応

国内外における医療機器の承認を取り巻く環境変化、原材料受け入れを含めた総合的な品質システムの早急な構築の重要性を踏まえ、厚生科学研究「医療機器の有効性、安全性評価手法に関する国際ハーモナイゼーション研究」内に「承認申請書原材料記載要領研究班」が設けられました。

1.3 ガイドライン策定の特徴

本記載要領では、幅広い医療機器に対する包括的な記載要領を示すのではなく、国際整合の観点から適用可能な国際基準にできる限り準拠した記載方法の考え方をまとめることに重点が置かれました。

2. 記載の意義と目的

2.1 品質システムにおける位置づけ

医療用具の有効性、安全性及び品質を担保するためには、適切な品質システムの下で設計・製造されることが必要です。原材料の入手から最終製品検査に至る過程まで、適切な時期に様々な試験、検査や確認が行われる総合的な品質システムの構築が必須となります。

2.2 承認申請における原材料記載の重要性

医療用具の製造(輸入)承認申請は、承認申請書と添付資料から構成されています。承認申請書の各項では、総合的な品質システムが構築されていることを前提として、申請品目がどのような原材料を用い、どのような製造工程と検査・確認を経て出荷されるのかが適切に特定される必要があります。

当該申請品目の各部位に用いられる材料を特定し、それらの材料に必要な品質や特性を規定することは、当該申請品目の有効性、安全性及び品質を担保する上で重要な意義を持つ必要不可欠なものです。

3. 基本的な記載原則

3.1 用語の定義

本ガイドラインにおいて、原材料とは「医療用具を構成する部品及び成分に用いられる材料」を指します。原材料には、合成又は天然高分子化合物、金属、合金、セラミックス、その他の化学物質等があります。

部品は医療用具を構成するパーツを、成分は医療用具が複数の低分子量化学物質の混合物である場合のそれら化学物質を指します。

3.2 記載の基本原則

ISO10993-18を参考とした一般的な記載要領の原則は以下の通りです。

  1. 当該医療用具の部品又は成分に使用される原材料を特定し記載すること
  2. 特定した原材料の特性を必要なレベルで記載すること
  3. 医療用具の多様性に応じ、人体侵襲の度合い、臨床上の人体接触期間、性能発揮に必要な材料特性、材料の性状・特徴によって必要な情報の種類と詳しさを変えること

3.3 記載レベルの考え方

原材料の品質や特性が当該医療用具の性能、有効性、安全性、品質に重要な影響をもたらす可能性がない部品に用いられる原材料については、「一般名ならびに化学名および/またはCAS番号」以外の情報記載は不要です。

一方、重要な影響をもたらす可能性がある部品の原材料については、化学的・物性的特性の規定、製品名や製品番号による規定、公的規格による規定、材料マスターファイル番号による規定、またはこれらの組み合わせによる記載が必要です。

4. 材料別記載要領

4.1 金属材料

金属材料については、現在医療用具に使用されているチタン、チタン合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、ニッケルチタン合金、金合金、金銀パラジウム合金等を対象としています。

記載要領では、一般名または通称、原材料製造者等からの情報、公的規格名と番号、金属材料についての一般的な情報(化学成分、機械的性質、金属組織、熱処理・加工の履歴)を含める必要があります。

4.2 セラミックス

セラミックス材料は、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、ハイドロキシアパタイト(水酸アパタイト)、リン酸三カルシウム等が対象となります。

焼成(焼結)後の材料をインプラントの原材料として使用するものについては、比重(かさ密度)を設定項目に含めることが原則とされています。また、製品の使用時に応力がかかる部品の原材料については、物理的及び機械的特性に関する項目の設定が重要です。

4.3 ゴム・樹脂材料

加硫または架橋する天然および合成ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および2液混合型のポリウレタンが適用範囲となります。

原材料製造者等からの情報のうち、原材料規格または製品仕様には、医療用具製造業者が原材料を受け入れる場合の受入規格、または製造者の製品仕様等を記載する必要があります。

4.4 吸収性材料

合成高分子と天然高分子の吸収性材料について、それぞれ詳細な記載要領が定められています。特に生体吸収性材料は最終的に全量が生体内に吸収されることを考慮し、安全性評価においては生物学的安全性試験、最終製品形態の分解試験を行い、総合的に安全性を確認する必要があります。

5. 記載要領の具体的項目

5.1 一般的な化学情報

化学名はIUPAC命名法により記載し、CAS番号、USAN名、化審法届出番号のいずれか又は複数を記載します。構造式の記載も必要で、高分子化合物においては主要骨格構造を一般的な化学情報として記載することができます。

5.2 原材料製造者からの情報

製造業者名、製品名(または商品名)、製造番号あるいは記号、材料規格・製品仕様、添加剤成分の種類と配合量について記載する必要があります。

5.3 公的規格と番号

公的な材料規格に適合する原材料は、その規格の名称と番号を記載し、当該規格を資料として添付することが望ましいとされています。

まとめ

本ガイドラインは、医療用具の製造承認申請における原材料記載の標準化と国際整合化を図る重要な指針として位置づけられています。ISO10993-18を参考とした科学的根拠に基づく記載要領により、医療用具の有効性、安全性及び品質の担保が図られています。

医療用具の多様性を考慮し、材料の種類や用途に応じた柔軟な記載が可能となる一方で、適切な理由を踏まえた上での運用が求められています。特に、人体や体液に直接接触する部品の原材料、インプラント用具や長期留置用具の原材料については、生物学的安全性に関連する化学的特性の記載が重要とされています。

本ガイドラインの活用により、医療用具の品質向上と安全性確保がより一層推進されることが期待されます。また、国際基準や公的規格等は科学技術の進展に従って逐次改訂されるため、原材料記載時点における最新の基準及び規格を考慮した適切な選択が必要です。

貴社製品や申請準備に関して、本ガイドラインの適用方法や具体的な記載内容の整理が必要な場合は、ぜひ弊社までお問い合わせください。専門知識に基づき、最適なサポートをご提供いたします。

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