概要

令和3年2月8日、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課より、製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドラインの質疑応答集が発出されました。本Q&Aは、令和元年の薬機法改正において整備された法令遵守体制に関する規定について、実務上の疑問点を明確化したものです。

医療機器を含む医薬品等の製造販売業者及び製造業者は、近年の法令違反事例を踏まえ、役員の法令遵守意識の向上と実効性のある法令遵守体制の構築が求められています。本Q&Aは、各事業者が自社の規模や業態に応じた適切な体制を構築するための実践的な指針を提供しています。

特に重要な点として、法令遵守体制は画一的なテンプレートではなく、各社の業務内容、事業規模、役職員の状況等に応じて構築すべきものであることが強調されています。また、既存の内部統制システムを活用しながら、薬事法令特有の要求事項に対応することが可能である点も明確化されました。

1. ガイドラインの基本的な考え方と適用範囲

1.1 ガイドラインの位置づけと法的拘束力

本ガイドラインは、薬機法上の規定及び施行規則に基づく措置を講じる際の基本的な考え方を示す指針です。ガイドライン中の表現は三段階に分類されています。

第一に、「しなければならない」「必要がある」「求められる」という表現は、法令に基づき遵守が義務付けられる事項を示しています。これらの事項は、薬機法第18条の2、第23条の2の15の2、第23条の35の2等に規定された法的要求事項であり、違反した場合には改善命令の対象となる可能性があります。

第二に、「考えられる」という表現は、義務事項の例示を示しています。各社の実情に応じて、これらの例示を参考にしながら具体的な措置を検討することができます。

第三に、「重要である」「有用である」「望ましい」という表現は、法令遵守のために推奨される事項を示しています。これらは法的義務ではありませんが、より実効性の高い法令遵守体制を構築するために有益な措置です。

1.2 適用対象と範囲

本ガイドラインは、医療機器を含む医薬品等の製造販売業者及び製造業者を対象としています。選任製造販売業者は対象に含まれますが、外国特例承認取得者及び外国製造業者は対象外となります。

重要な点として、製造販売業許可と製造業許可を同一法人が保有する場合でも、それぞれの業態に応じた法令遵守体制の構築が必要です。また、輸出用医療機器の製造業者も本ガイドラインの対象となります。一方、外国製造業者の認定代行や原薬等国内管理人としての業務は、通常、製造販売業者の製造販売に関する業務ではないため、対象外となります。

グループ会社において法令遵守体制に係る機能を分担している場合、各機能を活用することを含めて、製造販売業者として法令を遵守できる体制が構築されていれば、許可を受けている法人のみで全ての機能を有する必要はありません。

2. 法令遵守体制の具体的な構築方法

2.1 社内規程と教育訓練体制

製造販売業者等は、役職員が遵守すべき規範を社内規程において明確に定める必要があります。この社内規程には、GMP省令、QMS省令、GQP省令、GVP省令等に基づく業務手順書も含まれますが、それだけでは不十分です。薬事法令全般を遵守するための包括的な規程の整備が求められます。

教育訓練については、単なる研修の実施だけでなく、法令等の適用について役職員が相談できる部署や窓口の設置が推奨されています。相談窓口は、業態や規模に応じて部署レベルではなく担当者レベルでも問題ありません。重要なのは、役職員が法令適用について迷った際に、適切な助言を得られる体制を整備することです。

研修等の教育訓練を十分に行っていれば、必ずしも相談窓口の設置は必須ではありませんが、実際の業務において法令の適用判断が困難な場合も少なくないため、相談体制の整備は法令遵守を確保する上で有効な措置とされています。

2.2 業務記録の作成・管理・保存

業務記録は、役職員が法令を遵守して業務を行っているかをモニタリングするための重要な社内資料です。また、法令違反やそのおそれがある場合に、速やかな事実関係の調査を可能にする機能も持っています。

記録の作成範囲と保存期間は、業務の重要性や法令違反のリスクに応じて各社で検討する必要があります。法令で保存期間が定められている文書については、当該法令に従います。電子的な方法による文書管理も可能ですが、情報セキュリティの観点から適切な管理が求められます。

業務記録の適時かつ適切な作成、管理及び保存は、製造販売業者等としてのモニタリング機能を発揮するために不可欠です。特に医療機器においては、QMS省令に基づく記録管理要求事項との整合性も考慮する必要があります。

2.3 役職員の業務監督体制

製造販売業者等は、従業員だけでなく責任役員の業務も監督する体制を構築しなければなりません。これは薬機法第18条の2第1項第2号等において法律上定められている事項です。責任役員の業務に対する監視やモニタリングは、取締役会及び他の取締役による監督、監査役による監査等を含め、実効的な監督体制を検討する必要があります。

内部監査部門の設置は義務ではありませんが、業務を行う部門から独立した立場で客観的なモニタリングを実施する観点から有用とされています。医療機器の場合、QMS省令に基づく内部監査との連携も重要です。GQP省令、GVP省令等に基づく自己点検の結果を活用することも可能です。

グループ会社の内部監査機能を活用することも、実効的な内部監査が可能と判断できる場合は差し支えありません。多国籍企業の場合、海外の内部監査部門による監査も、日本の法令や制度を理解した上で実施される限り問題ありません。

2.4 その他の体制整備

コンプライアンス担当役員の指名は、全社的な法令遵守のための取組みを積極的に行い、法令遵守を重視する姿勢を役職員に示す観点から有用です。コンプライアンス担当役員が薬事に関する法令の遵守に係る事項を担当する場合、当該役員は責任役員に位置付けられます。

各部署にコンプライアンス担当者を置くことも推奨されています。対象となる部署は、品質保証部門や安全管理統括部門に限定されず、医療機器の承認申請、製造、販売等に関わる全ての部署が含まれます。

3. 責任役員の役割と責務

3.1 責任役員の定義と範囲

責任役員とは、薬事に関する業務に責任を有する役員を指し、会社を代表する役員及び薬事に関する法令に関する業務を担当する役員が該当します。株式会社の場合、取締役ではない執行役員は責任役員に該当しません。また、社外取締役は業務を執行する者ではないため、責任役員に該当しません。

責任役員は選任や指名を要する性質のものではなく、各社において各役員が分掌する業務の範囲を決定した結果、薬事に関する法令に関する業務を含む役員が自動的に責任役員となります。海外在住の外国人であっても、該当する業務を担当する役員であれば責任役員となり得ます。

薬事に関する法令とは、薬機法、麻薬及び向精神薬取締法、毒物及び劇物取締法並びに薬機法施行令第1条の3各号に規定する薬事に関する法令を指します。

3.2 責任役員の法的責任

責任役員は、製造販売業者等に薬事に関する法令違反があった場合、個人として対外的に責任を負い得る立場にあります。株式会社の取締役の場合、会社に対する善管注意義務に基づき法令遵守義務を負い、法令違反により会社に損害が生じた場合は任務懈怠責任等の法的責任を負う可能性があります。

責任役員には、分掌する業務の詳細を全て把握することまでは求められていませんが、薬事に関する法令を遵守して業務が適正に行われるような体制を構築し、運用することが求められています。医療機器の承認申請のような高度で専門的な内容であっても、業務の詳細を把握していないことは法令違反に関する責任を免れる理由とはなりません。

4. 総括製造販売責任者等の選任と権限

4.1 適切な人材の選任

製造販売業者等は、医療機器等の製造管理・品質管理・製造販売後安全管理のために必要な業務を適正に遂行できる能力及び経験を有する者を総括製造販売責任者等として選任しなければなりません。選任に当たっては、客観的な判断基準に基づく合理的な理由が必要です。

総括製造販売責任者等の職務上の位置付けについても十分考慮する必要があります。責任役員に対して忌憚のない意見を述べることができる環境を確保することが重要です。具体的な職位は各社の組織構造により異なりますが、法令遵守の観点から必要な意見を述べやすい立場であることが求められます。

4.2 意見申述制度の運用

総括製造販売責任者等は、法令遵守のために必要があるときは、製造販売業者等に対して書面により意見を述べなければなりません。この意見は、内容が他の者によって変更されることなく、速やかに責任役員に伝達される必要があります。

通常の指揮命令系統により直接意見を述べることが困難な場合でも、緊急時や法令遵守の観点から重要性が高い場合には、責任役員に直接意見を述べる方法を確保することが求められます。電子的な方法による意見申述も可能です。

総括製造販売責任者等の権限の範囲は、GQP省令、GVP省令、QMS省令等において定められている事項を含め、法令遵守の観点から必要な事項について明確化し、社内で周知する必要があります。

4.3 意見尊重義務と措置義務

製造販売業者等は、総括製造販売責任者等の意見を尊重し、法令遵守のために必要な措置を講じなければなりません。これは法第18条第2項等に規定された法的義務です。総括製造販売責任者等が製造販売業者等ひいては責任役員に対して直接意見を述べる方法が一切存在しないことは、意見尊重体制として望ましくありません。

まとめ

医療機器を含む医薬品等の製造販売業者・製造業者における法令遵守体制の構築は、薬機法改正以降ますます重要性を増しています。単なる形式的な仕組みではなく、自社の規模や業態、組織構造に応じた実効性のある体制を整備することが求められています。本Q&Aでは、責任役員の役割と法的責任、総括製造販売責任者の選任や権限の明確化、教育訓練・相談窓口の整備、業務記録の管理、内部監査体制との連携など、実務で直面しやすい疑問点を整理し、具体的な対応指針を提示しています。

特に、責任役員が業務を適切に監督できる仕組みづくり、総括製造販売責任者が意見を述べやすい環境の整備、さらに全社的に法令遵守を重視する姿勢を示すことは、コンプライアンスリスクを低減し、企業の信頼性を高める上でも不可欠です。

弊社(一般社団法人薬事支援機構)では、このガイドラインに沿った法令遵守体制の整備や運用、QMS・GQP・GVP体制との連携、役員・担当者教育の仕組みづくりなど、幅広い支援を行っております。自社に最適な法令遵守体制の設計や運用にお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。専門的な知見に基づき、貴社の状況に合わせた実践的なサポートをご提供いたします。

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