概要

厚生労働省は令和5年3月31日、「プログラムの医療機器該当性判断事例について」という事務連絡を発出しました。これは「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」(令和3年3月31日付け通知)の一部改正に伴い、医療機器に該当するプログラムと該当しないプログラムの代表的な例示をとりまとめたものです。本資料では、医薬品医療機器等法(昭和35年法律第145号)におけるプログラムの医療機器該当性に関する判断基準と具体的事例を解説します。プログラムが医療機器として規制対象となるかどうかは、そのプログラムの機能や使用目的によって決まります。この資料は医療機器製造販売業者や医療機器プログラム開発者にとって重要な参考情報となるでしょう。

1. 医療機器に該当するプログラムの分類と事例

1.1 入力情報を基に疾病候補や疾病リスクを表示するプログラム

このカテゴリーには、個人の医療データを解析して疾病の可能性や疾病リスクを評価・表示するプログラムが含まれます。具体的には以下のようなものが医療機器に該当します。

  • 皮膚病変部の画像を解析してリスク評価結果を提供するプログラム
  • 頭痛症状に関する情報を解析し、疾病候補や分類を表示するプログラム
  • バイタルデータから心房細動の兆候などを検出し通知するプログラム
  • 認知機能検査結果から認知症や軽度認知障害のリスクを提示するプログラム
  • 健康診断データから将来の疾患罹患可能性を計算するプログラム

重要なポイントとして、医学上公知ではない独自のアルゴリズムによる解析や、個人を特定して疾病リスクを表示する場合は、診断に使用されることが目的と認識され医療機器に該当します。一方、特定の集団のデータと比較して発症リスクを提示するだけで、利用者に診断との誤認を与えないプログラムは医療機器に該当しません。

1.2 医療機器等で得られたデータを加工・処理し診断や治療に使用するプログラム

医療機器から得られた画像やデータを加工・処理して診断や治療に役立つ情報を提供するプログラムです。例を挙げると。

  • 画像診断機器で撮影した画像を表示するプログラム(診療記録以外の目的)
  • 病変や異常値の検出を支援するプログラム(CADe)
  • 病変の良悪性鑑別や診断結果候補を提供するプログラム(CADx)
  • 生理学的パラメータを計算し統計的比較を行うプログラム
  • 医療機器データから新たな診断指標を提示するプログラム
  • 患者状態に合わせてアラートを発するプログラム

これらは単なるデータの表示や保存ではなく、診断や治療の判断に影響を与える情報処理を行うため医療機器に該当します。

1.3 治療計画・方法の決定を支援するプログラム

治療方針の決定や手術計画の作成に使用されるプログラムです。

  • 歯科矯正やインプラント治療のシミュレーションプログラム
  • 放射線治療計画システム(RTPS)
  • 手術ナビゲーションプログラム
  • 術前計画作成プログラム
  • 手術結果シミュレーションプログラム
  • 麻酔薬投与量算出プログラム
  • 透析治療計画作成支援プログラム
  • 重症化確率提示による患者層別化プログラム
  • リハビリテーション治療計画立案支援プログラム

これらは治療の方向性や具体的な処置内容に影響を与えるため医療機器として規制されます。

1.4 医療機器の制御や機能拡張を行うプログラム

医療機器に接続して制御信号を送信したり機能を拡張するプログラムです。

  • 血圧測定用カフの制御プログラム
  • インスリンポンプ制御プログラム
  • 輸液ポンプの設定変更プログラム
  • 植込み型医療機器の設定変更プログラム
  • 補聴器の評価用プログラム

これらのプログラムは医療機器の働きに直接影響を与えるため、医療機器として規制されます。

1.5 疾病の治療・予防のための行動変容プログラム

患者の行動変容を促して治療効果をもたらすことを目的とするプログラムです。

  • 精神疾患治療(認知行動療法)のためのプログラム
  • 治療中の痛み・不安軽減を目的としたVRプログラム
  • AIチャットボットによる社交不安障害治療プログラム
  • 認知症予防プログラム

これらは単なる情報提供ではなく、治療的介入を行うため医療機器に該当します。

1.6 汎用機器を医療機器として機能させるプログラム

汎用コンピュータや汎用センサを医療機器として機能させるプログラムです。

  • 血糖値計として機能させるプログラム
  • 心電計信号を測定するプログラム
  • 睡眠時無呼吸監視プログラム
  • 電子聴診器機能を付与するプログラム
  • 聴力計として機能するプログラム
  • 振戦の程度を測定するプログラム

これらは汎用機器に医療機器としての機能を持たせるため、医療機器として規制されます。

2. 医療機器に該当しないプログラムの分類と事例

2.1 個人使用目的のプログラム

個人の健康管理や情報提供のためのプログラムで医療機器に該当しないものです。

  • 個人健康記録管理プログラム(体重、血圧、血糖値等の記録)
  • 患者の健康状態・治療内容の記録プログラム
  • 服薬履歴管理プログラム
  • ワクチン接種記録プログラム
  • 運動管理・トラッキングプログラム
  • パズルゲームや「脳年齢」テスト

これらは医療診断や治療に直接関わらない単なる記録や娯楽目的のため、医療機器に該当しません。

2.2 医療関係者向け非診断目的プログラム

医療教育や業務支援のためのプログラムです。

  • 医学教育用トレーニングプログラム
  • 手術手技共有用プログラム
  • 患者説明用プログラム
  • 医学教科書参照プログラム
  • 健康診断・保健指導管理プログラム
  • 予約・会計・レセプト業務プログラム
  • 医療機器管理プログラム
  • 添付文書管理プログラム

これらは診断や治療に直接使用されないため医療機器に該当しません。

2.3 一般医療機器と同等の処理を行うプログラム

機能障害が生じても人の生命や健康への影響が極めて小さいプログラムです。

  • 視力検査・色覚検査プログラム
  • 体動検出プログラム
  • 分析装置の測定値表示プログラム
  • 公知情報に基づく薬剤投与量計算プログラム
  • 歯列模型表示プログラム
  • 有害事象対処表示プログラム

これらは一般医療機器(クラスⅠ医療機器)と同等の機能を持つため、医療機器には該当しませんが、類似の区分として扱われます。

3. 医療機器該当性判断の重要ポイント

3.1 使用目的による判断

プログラムの医療機器該当性は主に使用目的によって判断されます。

  • 診断、治療、予防を目的とするプログラムは医療機器に該当する傾向
  • 単なる記録、表示、転送のみを行うプログラムは医療機器に該当しない
  • 健康管理や情報提供のみを目的とするプログラムは医療機器に該当しない

3.2 独自アルゴリズムの有無

医学上公知ではない独自のアルゴリズムを用いて解析を行い、診断や治療に影響を与えるプログラムは医療機器に該当する傾向があります。公知の情報に基づく単純な計算や判断のみを行うプログラムは医療機器に該当しない場合が多いです。

3.3 個別化情報の提供

個人を特定して、その個人に適した診断情報や治療方針を提供するプログラムは医療機器に該当します。一方、一般的な情報提供や集団データとの比較のみを行うプログラム(利用者に診断との誤認を与えないもの)は医療機器に該当しません。

4. まとめ

プログラムの医療機器該当性を正しく判断するには、「どのような目的で使われるのか」「どのような機能を持つのか」「リスクはどの程度か」といった観点を総合的に評価することが不可欠です。

診断・治療・予防に直接関与するプログラム、医療機器と連携して制御を行うプログラム、あるいは独自アルゴリズムで個人ごとに医療判断を支援するようなプログラムは、医療機器としての規制対象となる可能性が高いといえます。一方、単なる記録や情報提供、医療従事者の業務支援にとどまるプログラムは、医療機器に該当しないケースが多いです。

とはいえ、判断が難しいケースも少なくありません。弊社では、最新の法令や通知に基づいた医療機器該当性の確認や、開発段階からの規制対応支援、薬事申請に向けたコンサルティングまで、幅広くご支援しております。

「自社のプログラムは医療機器に該当するのか?」「どのような手続きを進めればいいのか?」とお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

    お問い合わせはこちらから

    一般社団法人薬事支援機構は医療機器専門の薬事コンサルティング会社です。
    医療機器の薬事申請やQMSでお困りの際にはこちらからお問い合わせください。

    ご相談内容
    必須

    お名前
    必須

    メールアドレス
    必須

    お電話番号

    御社名
    必須

    メッセージ本文
    必須